読書LIFE ~毎日が読書日和~

本を読み、感想や書評を綴るブログです。主に小説。

亡国のイージス:福井晴敏【感想】|陰謀に立ち向かい、信念を貫く

f:id:dokusho-suki:20180825115802j:plain

 「亡国のイージス」は、福井晴敏の名前を一気に広めた作品です。手に汗を握り、目まぐるしく変化する展開に読み始めたら止まりません。一級のエンターテイメント作品です。しかし、単なるエンターテイメント作品で終わらないのが、著者の力量です。国家の在り方、国防、世界との関係など現実的な問題提起が盛り込まれています。日本に対する危機感の表れと、国民への警告なのかもしれません。だからと言って、物語が説教じみたり、思想的な思いが目に付く訳ではありません。登場人物の言動を用いて、自然に表現されています。

 初出が20年近く前なので、現在の日本を取り巻く環境とは違う部分も多い。作中の北朝鮮情勢や経済情勢もそうです。ただ、日本における自衛隊の法的な存在根拠の曖昧さ、国民の国防に対する意識、アメリカとの安全保障関係などは現在とそれほど変わらないでしょう。今読んでも、時代遅れと言った印象は受けません。逆に言えば、日本は20年前と何ら変わっていないのかもしれません。 

 

「亡国のイージス」の内容

自らの掟に従い、15歳で父親を手にかけた少年。一人息子を国家に惨殺され、それまでの人生をなげうち鬼となった男。祖国に絶望して叛逆の牙をむく、孤独な北朝鮮工作員。男たちの底深い情念が最新のシステム護衛艦を暴走させ、一億二千万の民を擁する国家がなす術もなく立ちつくす。圧倒的筆力が描き出す、慟哭する魂の航路。 【引用:「BOOK」データベース】   

「亡国のイージス」の感想

想外の展開

 先読みできない展開だからこそ面白い。

 本作は、著者の作品「Twelve.Y.O.」からの流れを受けています。「Twelve.Y.O.」で起こった事件「辺野古ディストラクション」が重要な鍵となっています。だからと言って、前作を読んでいないと分からない訳でもありません。「辺野古ディストラクション」についての経緯や結果などの必要な情報は説明されています。また、作中で登場する防衛庁情報局(DAIS:ダイス)についても、必要な情報は書かれています。本作だけを読んでも、物語の設定は十分に理解できます。舞台設定に違和感や不明な点は感じません。設定に不明な点がないだけで、ストーリーは先が見えないことだらけです。いい意味で予想を裏切る展開に溢れています。

 物語の多くは、3人の視点で描かれています。序章で登場する「如月行」「仙石恒史」「宮津弘隆」です。そして鍵になる人物が、北朝鮮対日工作員「ホ・ヨンファ」です。

 物語の前半は、いそかぜ艦長 宮津の真意に加え、如月行の正体と目的が大きな謎です。彼らの行動には、常に違和感があります。その違和感の原因を突き止めるために行動を開始するのが、先任伍長の仙石恒史です。護衛艦「いそかぜ」の閉じられた空間で、3人の行動が不協和音を奏でていきます。

 物語が決定的に転換するのが、ホ・ヨンファの正体が明らかになった時です。それまでは、いそかぜ内の不穏な空気がただならぬ緊張感を漂わせていました。徐々に高まっていく緊張感に息が詰まる感覚です。しかし、ホ・ヨンファの正体が分かった後は、一気に戦いが始まります。護衛艦の中で行われる激しい戦闘に目を離せません。ホ・ヨンファの正体が明らかになった後も、未だ解明されていない謎は多くあり、物語が複雑に交錯していきます。謎と戦闘を内包しながら航海を続けるいそかぜの行く末を予想出来ません。 

かれる海上自衛隊

f:id:dokusho-suki:20180825115805j:plain

 著者の自衛隊に対する知識には脱帽します。自衛隊の装備から組織、指揮命令系統まであらゆることが詳細かつ明瞭に描かれています。全ての情報が一般人の立場で入手できるものなのか疑問に思えるほど、自衛隊について知悉しています。

 舞台がイージスシステムを搭載したミサイル護衛艦です。護衛艦の仕組みや設計を知らないと書けません。どこにCICがあり、機関室があり、居住スペースがあるのか。それらがどのように繋がっているのか。隅々まで知り尽くしています。乗艦経験があるかのようです。また、護衛艦がどのように操艦されているのか。一隻の護衛艦を操艦するのに、乗組員がどのような指揮命令系統で動き、航行・戦闘・防御を行うのか。それぞれの状況に応じ、どのように対応するのか。登場人物の階級や部署・行動を通じ、まるで現実の護衛艦の操艦を見ているようです。

 護衛艦の操艦だけではありません。防衛庁長官、統合幕僚監部、海上幕僚監部、護衛艦隊など、海上自衛隊の組織機構も同様に描かれています。 

負ったもの

 本作に登場する人物は、それぞれ背負ったものがあります。自衛官や特殊部隊員という立場の前に、彼らは一人の人間であることが伝わってきます。

 序章で描かれているのは、如月・仙石・宮津の家族との関係です。如月と宮津は、家族が原因で今の状況に辿り着いています。彼らが望んだ結果ではないし、逃れられないことも明白です。彼らの人生を大きく歪めたのが家族です。また、仙石も妻との関係を考えさせられるきっかけを突き付けられます。自らの過去を振り返っても、時間は戻ってこない。その事実に耐え難い後悔が押し寄せます。

 3人とも変えられない過去に囚われ、未来を見ることが出来ない。彼ら3人だけでなく登場する多くの人々が、何かを心に抱えています。登場人物の背景を描くことで、物語に深みが出ています。 

終わりに

 国防を担うのは自衛官だけではありません。防衛庁の背広組もそうですし、政治家もそうでしょう。ただ、国防の意味を最も理解しているのは誰なのだろうか。少なくとも国民の意識は低い。実力組織の自衛隊員が最も理解しているのではないでしょうか。だからこそ、自衛官を軸にした本作は、国防に対し現実感の伴う物語となるのでしょう。

 ダイスというフィクションを織り交ぜながらも現実感があり、読み応えのある作品です。終盤に理想主義的な一面もありますが、伝えたいことだったのでしょう。高い評価を受けるだけの作品です。