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『オーデュボンの祈り』:伊坂幸太郎【感想】|なぜ自分の死を予知できなかったのか?

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 こんにちは。本日は、伊坂幸太郎氏の「オーデュボンの祈り」の感想です。

 

 人気作家である伊坂幸太郎さんのデビュー作です。この作品で第5回新潮ミステリー倶楽部賞(平成12年)を受賞しています。

 私が初めて読んだ伊坂幸太郎さんの本が「オーデュボンの祈り」でした。 

「オーデュボンの祈り」の内容

コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。江戸以来外界から遮断されている“荻島”には、妙な人間ばかりが住んでいた。嘘しか言わない画家、「島の法律として」殺人を許された男、人語を操り「未来が見える」カカシ。次の日カカシが殺される。無残にもバラバラにされ、頭を持ち去られて。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止出来なかったのか?【引用:「BOOK」データベース】  

「オーデュボンの祈り」の感想

 

坂幸太郎の出発点 

  読み始めてすぐに、「これってミステリー?」って感じました。現在の仙台付近の島 (荻島)を舞台にしながら、

  • 言葉を話し未来が見えるカカシ
  • 鎖国状態の島
  • 殺人を許された男

など、あり得ない設定ばかりです。しかし、読み進めていくうちに、その設定を自然と受け入れていってしまう不思議な文章です。

 登場人物の個性(キャラクター)なのか、軽快で小気味よい言い回しなのか、それとも他に何かあるのかは分かりません。気が付けば、この奇妙な世界にどっぷりと浸かっていってしまいます。主人公の伊藤が荻島に馴染んでいったように。 

 

しいミステリー

 未来が見えるカカシが殺されたことからミステリーらしく犯人捜しになるのかな、と思っていたらそんな単純な話でもありません。そこが、普通のミステリー小説と違うところです。犯人捜しだけが重要な要素ではありません。

 犯人捜しをしながらも、島の住人たちのそれぞれのエピソードが入り込んできます。本筋から逸脱したり、また戻ったりを繰り返します。そのエピソードが、全て伏線となっており、最後に見事に一か所に収束していきます。様々な事柄が見事に組み合わさり、パズルのピースがはめ込まれ(作中でもそのように表現されている部分もありますが)一枚の絵となるような爽快感があります。

 カカシが殺されたことの他にも、もう一つ大きな謎があります。その謎の答えが予想外であり、また、清々しさを感じる謎です。 

 

坂幸太郎らしさ

 伊坂幸太郎さんが描く登場人物の会話の掛け合いは、笑うのではなくニヤリとさせられてしまいます。何とも言えないおかしさがあります。

 この作品では、人が死ぬシーンが結構あります。もちろんカカシも死にます。しかし、奇妙なことに人が死ぬ悲壮感をあまり感じません。これも、伊坂幸太郎らしさの一環なのだろうか。

 一方、強烈に嫌悪感を抱く悪が登場します。悲壮感を漂わせない雰囲気の中、その悪だけが強烈な存在感を放ちます。

 

終わりに 

 伊坂幸太郎さんの軽快でジョークの効いたセリフ回しや、全ての要素を一か所に収束させる物語展開など、これぞ「伊坂幸太郎」という作品です。デビュー作にして、この完成度の高さには脱帽します。人気作家になるのも当然です。

 読み始めたら、必ず最後まで読んでいただきたい。そうすれば、もっと伊坂幸太郎の作品を読んでみたくなります。おすすめの一冊です。