読書LIFE ~毎日が読書日和~

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流:東山彰良【感想】|青年の成長と家族のルーツが交錯する

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 第153回直木賞受賞作です。芥川賞を受賞したピース又吉さんに注目が集まってしまい、羽田圭介さんとともにちょっと印象が薄くなってしまった感じがします。しかし、「流」は重厚で読み応えがあり心に響きます。読後に、表紙カバーの山東省の荒涼とした風景を見ると、読む前に見た時と全く違う印象を持つはずです。読み終わった後は、表紙をもう一度じっくりと見つめることをお勧めします。  

「流」の内容

1975年、偉大なる総統の死の直後、愛すべき祖父は何者かに殺された。17歳。無軌道に生きるわたしには、まだその意味はわからなかった。大陸から台湾、そして日本へ。歴史に刻まれた、一家の流浪と決断の軌跡。 【引用:「BOOK」データベース】  

「流」の感想

ーツを探る

 物語は、蒋介石が没した1975年から始まります。蒋介石が没した同じ年に、主人公である「葉秋生(イエ チョウセン)」の祖父「葉尊麟(イエ ヅゥンリン)」が殺されます。秋生が犯人を捜すことが、物語の起点となります。犯人が誰なのか、何故殺されたのかを探ることは、祖父の過去を手繰ることです。そのことは、結果として自分自身のルーツを探ることにもなっていくのです。しかし、「流」は単なる犯人捜しのミステリーではありません。犯人捜しは秋生の心に熾火のように有り続けますが、そのためだけに秋生が生きている訳ではないからです。 

 「流」は、十四章の物語で構成されています。それぞれの話がひとつの話として完結しており、独立した物語として十分楽しめます。秋生が中学生から26歳までの成長の過程であり、この物語を重ねていくことで秋生が成長し、見えていなかった世界が見えてくるようになります。そのことが犯人へと繋がり、葉尊麟の過去・家族のルーツを遡っていくのです。 

場人物の存在感

 最初に感じたのは、登場人物たちの圧倒的な存在感です。小説内で起こる様々な出来事があまりに強烈なことばかりなので、そこに関わる人物達も自然と存在感が際立ってきます。あまりにハードな出来事が多い。当時の台湾では、それが若者の標準であったのでしょうか。これが標準ならとんでもない世界だと思いますが。 

 また、著者の文章描写が極めて卓越したものだということも引き込まれる要因です。文章を読むと、その時々の状況が頭の中に自然と浮かんできます。読んでいて分かり難いところはないし、違和感を感じるところもありません。かと言って、簡単な言葉や言い回しをしている訳ではありません。文章が緻密に組み立てられているのでしょう。この才能には感嘆するばかりです。 

時の社会情勢

 当時の台湾と台湾がそこに至る歴史を知っていないと理解し難い部分があります。中国における抗日戦争とそれ以後の国民党と共産党の内戦。蒋介石率いる国民党が敗走し台湾へと流れついたこと。それらが全て、秋生の祖父と家族の歴史だからです。この小説を読む上で、歴史の事実くらいは知っておいた方がいいでしょう。台湾へと流れてきた人々の気持ちは、その歴史の事実の上に成り立っているのですから。 

私は歴史の授業で学んだ程度の知識しかなかったので、もう少し勉強しておくべきでした 

 読んでいただければ分かりますが、共産党と国民党の内戦の悲惨さと残虐さは想像以上です。行われたことは分かりますが、そこにいた人たちの気持ちを理解することは出来ないでしょう。理解できないということを理解するのも大事だと思っています。

 ただ、何が起こったかを知れば、この小説に出てくる人物たち、特に内戦を経験した老人たちの言葉にも重みと意味が出てきます。不幸な出来事であったが、それを肯定もしないし否定もしない。そういうものだったと受け入れるしかないのでしょう。流れに抵抗しないということなのだろうか。

終わりに

 メンタリティやアイデンティティが日本人とは違うので、理解しがたいところがあるのは事実です。中国人にとっての家族と祖先に対する考え方は、今の日本にはないように感じます。しかし、人としての根本の部分はきっと同じなのでしょう。だから、心に響くのです。

 名前の読み方だけは、最後まで覚えきれなかったですが。