晴耕雨読で生きる

本を読み、感想や書評を綴るブログです。主に小説。

ーおすすめ記事ー
タイトルのテキスト
タイトルのテキスト
タイトルのテキスト
タイトルのテキスト

『星を継ぐもの』:ジェイムス・P・ホーガン|月面から現れた謎が人類の起源に迫る壮大なミステリー

f:id:dokusho-suki:20180910203804j:plain

 30年以上前に発表された作品ですが、現在に至っても全く色褪せることのないハードSFの傑作です。謎の解明が物語の主眼なので、ミステリー・ハードSFと言った方が適切かもしれません。その謎が、とてつもなく壮大です。 

ほとんど現代人と同じ生物であるにもかかわらず、五万年以上も前に死んでいたのだ 

 この謎が一気に読者を物語に引き込みます。作中の登場人物と同じように、その謎の真実を知りたいと思わせます。

「星を継ぐもの」の内容

月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後五万年を経過していることがわかった。果たして現生人類とのつながりはいかなるものなのか。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された……。 

「星を継ぐもの」の感想   

から始まる物語

 時代設定は近未来の地球です。月には多くの基地が存在しており、木星の衛星まで有人飛行をし基地を建設しています。人類が太陽系外宇宙への進出を計画する時代です。相当に進歩した科学力を持っている地球を想定しています。その科学力をもってしても、容易に解明できない大きな謎を読者に与えます。 

 解明すべき謎は月から始まっていますが、物語の舞台はほぼ地球です。終盤に木星の衛星ガニメデに舞台を移しますが、謎を解明するべく集められた科学者たちは地球上において謎に挑むのです。宇宙をテーマにしたSFでありながら、派手なアクションはありません。少しずつ解明されていく証拠に基づいて、科学者たちが自説に基づき議論をする。そのようにして立てた仮説が新たな証拠により崩れ、また新しい仮説が生まれる。それが繰り返されていきます。その過程が非常に興味深い。 

決して荒唐無稽な仮説ではありません。科学的かつ論理的な根拠に基づき提示される仮説は、読んでいて納得させられます。 

 月から運ばれてきた宇宙飛行士の遺体(チャーリーと命名されます)と彼の所持品を分析し、分析結果を基に仮説を立て謎を解明しようとします。遺体の生物学的見地からの分析、所持品の手帳の解読、人類を上回る科学力の装備の解明など。集められた科学者は、物理学者であるハントを筆頭に生物学者、数学者、言語学者など、この問題に少しでも関わる分野がある学者が動員されます。 

れ出る謎

 科学者たちが解明を続けている間にも、多くの新しい遺体や遺物が発見されていきます。月で彼らの居住施設と思われるものから、多くの遺体(複数の遺体が発見されたことにより「ルナリアン」と命名されます)や食料と思われるものが発見されます。その都度、仮説が覆され新たな謎が生まれて科学者たちを戸惑わせるのです。この謎の行きつく先が全く見えてきません。加えて、科学者たちの考え方の違いも露呈していきます。このことが単なる議論の繰り返しだけでなく、人間関係を交えた興味深いものへと昇華させています。 

学者の意地 

 主人公のハントと生物学者であるダンチェッカーの考え方の違いは議論の中枢を担います。ハントは従来の科学に囚われず新たな発想でないとこの問題は解決しないと考え、ダンチェッカーは従来の科学で全てが説明できると考えています。この違いが謎の解明を妨げ、更に混迷を深める要因の一つです。そこに、木星の衛星ガニメデで新たな宇宙船の残骸とその乗組員と思われる生物の遺体(ガニメアン)が発見されます。しかも、2500万年前の代物です。 

今までの仮説を一気に覆してしまう謎の出現です 

 この遺体は年代が全く違います。チャーリーの問題も解決には程遠いのに、これほどの謎を新たに加えられると本当に行きつく先が想像できません。幾度となく繰り返されてきたチャーリーの議論にガニメアンが加わることで、また新たな議論が始まり物語が単調化しません。しかし、物語を複雑化してどのように収束するのか。楽しみな反面、予想が付きません。

 ガニメアンの発見により最終局面を迎え、舞台は木星の衛星ガニメデへ移ります。ハントとダンチェッカーの関係も、新たな展開を迎えます。そして、物語は終局へと向かうのです。

 ダンチェッカーは従来の科学から抜け出せない古い考えの持ち主として描かれていますが、結末でダンチェッカーは驚くべき仮説を打ち立てます。ダンチェッカーによる最後の仮説の演説は、壮大で全くの予想外です。

終わりに

 ルナリアン、ガニメアンそして人類の起源にまで及ぶ仮説は、壮大で読んでいて鳥肌が立ちました。堂々巡りが続く議論に途中だれてしまいそうになりますが、この結末を見て今までの謎が解消し納得してしまいます。これだけ緻密に計算されたSF小説はあまりないでしょう。ホーガンの代表作であり、SF小説の中でも輝く一冊です。

星を継ぐもの (創元SF文庫)

星を継ぐもの (創元SF文庫)