読書LIFE ~毎日が読書日和~

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『空中ブランコ』:奥田英朗【感想】|あの伊良部一郎が再び!相変わらずのムチャクチャ精神科医

 伊良部一郎シリーズの第2弾です。前作の「イン・ザ・プール」は、かなり笑わせていただきました。この「空中ブランコ」も前作に負けず面白かった。伊良部一郎は、前作よりもかなり活動的になっていました。今回は診察室から飛び出して、周りを振り回します。 

「空中ブランコ」の内容

伊良部総合病院地下の神経科には、跳べなくなったサーカスの空中ブランコ乗り、尖端恐怖症のやくざなど、今日も悩める患者たちが訪れる。だが色白でデブの担当医・伊良部一郎には妙な性癖が…。この男、泣く子も黙るトンデモ精神科医か、はたまた病める者は癒やされる名医か!? 【引用:「BOOK」データベース】  

「空中ブランコ」の感想   

神科医?

 神経科を受診するのは、とても勇気のいることです。その勇気を振り絞って受診に訪れた患者たちを、伊良部は全く深刻に受け止めません。自分に興味のあることばかりを前面に押し出し、患者を惑わせます。患者が真剣であればあるほど伊良部の奇行が際立ち、読んでいて面白味を増してくるのです。 

型化の流れ

 2作目ということもあり、物語の展開が定型化しつつあるかなと感じました。例えば診察前に打たれる注射です。前作でばれていますが、伊良部は注射フェチです。診察に訪れた患者に、まずは注射を打ちます。毎回毎回、同じ展開です。前作から続いていると段々と飽きがくるのも否定できません。物語の展開もほぼ同じです。伊良部の奇行に振り回されながら、病気の原因に気付く。そして症状が改善、もしくは改善に向かうといった感じです。話は面白いんです。予定調和を面白いと思うかつまらないと思うか次第です。 

私は予定調和もありだと思います。意外性はないですが、安心して読めます 

 定型化だけをもってつまらないとは思いません。予想を裏切ることだけが、小説の面白味でもないです。この小説は笑いがあちこちに仕掛けてあります。どんな仕掛けか予想が付いたとしても楽しめると思います。 

短編について 

 短編5話の構成ですが一般人の出番はないです。医者を一般人としないならばですが。5編のタイトルと主人公は、

  1. 「空中ブランコ」・・・サーカスの空中ブランコ乗り
  2. 「ハリネズミ」・・・ヤクザ
  3. 「義父のヅラ」・・・神経科医師
  4. 「ホットコーナー」・・・プロ野球選手
  5. 「女流作家」・・・小説家 

 「義父のヅラ」以外は普通に生活していれば、まず出会うことはないでしょう。「義父のヅラ」以外の4話は、神経症がその職業にとって致命的なものです。しかし、それらが解決するのも予定調和です。新鮮味はあまりないかもしれません。私は、この中では「義父のヅラ」が一番好きです。学部長の義父のヅラを剥ぎ取りたい衝動を抑えられない。何となくその気持ちは分かります。やってはいけないことほど、やりたくなるものですし。この話が一番面白く読めました。

 どの話もそうですが、時間を忘れて面白く読める。それ以上でもそれ以下でもない作品です。

終わりに

 「空中ブランコ」は第131回直木賞を受賞しています。前作の「イン・ザ・プール」があってこその「空中ブランコ」です。2作目が直木賞を受賞したのは、違和感があります。受賞するなら、「イン・ザ・プール」で良かったのでは、と感じます。

空中ブランコ (文春文庫)

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