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『Op.ローズダスト』:福井晴敏|臨海副都心で交錯する彼らの宿命

 福井晴敏は好きな作家ですし、文庫3冊に及ぶ長編なので期待して読み始めました。読み終わった感想は「とにかく長かった」(どちらかと言うとあまりいい意味ではなく)というものでした。超長編を最後まで読み込ませるには、余程の力量が必要だと実感しました。本作は力量が足りなかったのか、私の理解力が足りなかったのか。

「Op.ローズダスト」の内容

都心でネット財閥「アクトグループ」を標的とした連続爆弾テロ事件が発生した。公安の並河警部補は、防衛庁から出向した丹原三曹と調査に乗り出すが…。並河警部補は、捜査を進めるうちに丹原三曹とテロの実行犯、「ローズダスト」のリーダー入江一功との間にある深い因縁を知る。並河とのふれあいに戸惑いながらも、過去の贖罪のために入江との戦いに没入してゆく丹原。だが日本に変革を促そうとする真の敵は、二人の想像を絶するところで動き出していた。かつて防衛庁の非公開組織に所属していた丹原朋希と入江一功。二人の胸には常に、救えなかった一人の少女の言葉があった。同じ希望を共有しながら、宿命に分かたれた二人。戦場と化した東京・臨海副都心を舞台に、この国の未来を問う壮絶な祭儀が幕を開けた。【引用:「BOOK」データベース】  

「Op.ローズダスト」の感想 

番の人物設定

 福井晴敏の国防観・国家観をテロリズムという要素で語っています。登場人物設定も著者定番の「人生にある種のあきらめを抱き、惰性で生きる中年の男」と「過去を背負った特殊部隊の青年」とが主人公です。 

  根底に流れるテーマと主要登場人物設定がこれまでと変わり映えしません。すんなり入ることができる代わりに「またか」と飽きも来ます。登場人物の心の動きもどこかで見たことのある印象を受け、新鮮さをあまり感じません。 

細過ぎる描写

 戦闘や武器・装備の詳細な描写は臨場感をもたらすために必要な要素です。その点、著者は知識も豊富で緻密に描くことに長けています。ただ、本作は描写が異常なほど詳細過ぎます。 

 臨海副都心が主な舞台になります。例えば次のような描写があります。

「有明インターで湾岸線を降り、国道357号線を直進する。有明橋を渡り、運河を超えると、そこはもう台場地区と青海地区が隣接する人口の島の中だった。」

 リアリティを出すためだとは思いますが、地方在住の身には全くイメージが湧きません。また、福井氏は自衛隊や警察の装備に対するこだわりがあるのでしょう。戦闘描写についても、

ハンマーがファイアリングピンを叩き、M381高性能榴弾の発射薬に火が付くと、爆発のガス圧が薬室内で膨張する。三千五百psiという高圧~

これもまたイメージが湧きません。そういう部分を読むのに労力が注がれ読み疲れます。肝心のストーリーがぼやけてしまい、物語に没入できませんでした。

終わりに

 周辺の戦闘シーンや状況はこれほど詳細に書きながら、物語の発端となった部分については「古い言葉」「新しい言葉」という抽象的な表現に終始しています。福井晴敏らしいといえばらしい作品ですが、期待していただけに少し残念な気がしました。次回作に期待というところです。

Op.ローズダスト(上) (文春文庫)

Op.ローズダスト(上) (文春文庫)