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『チルドレン』:伊坂幸太郎【感想】|「陣内」が奇跡を起こす

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 各話は独立した物語として完結しています。しかし、どの話にも登場する人物が一人います。彼は、各話において主人公ではないのですが最も重要な人物です。
 それが「陣内」です。
 彼が、大学生の時の話が3話。家裁調査官として働いている時の話が2話です。視点は各話の主人公なのですが、物語は「陣内」を中心に描かれています。彼がいなければ物語自体が成立しません。

 それぞれ独立した話としても、とても面白い。その面白さが5話集まって5倍になるのではなく、10倍20倍と面白さが相乗効果を発揮していきます。単なる短編集に留まらないところが伊坂幸太郎らしい。

「チルドレン」の内容  

「俺たちは奇跡を起こすんだ」独自の正義感を持ち、いつも周囲を自分のペースに引き込むが、なぜか憎めない男、陣内。彼を中心にして起こる不思議な事件の数々―。何気ない日常に起こった五つの物語が、一つになったとき、予想もしない奇跡が降り注ぐ。【引用:「BOOK」データベース】   

「チルドレン」の感想

場人物

 陣内を中心に描きながらも彼の視点で描かないことが、より陣内のキャラを際立たせます。一般的な考え方の主人公たちの視点が、陣内の言動を強烈に印象付けるからです。

 各話の主人公は、

  • バンク・・・鴨居。大学生。陣内が路上でを演奏しているときに出会った。
  • チルドレン・・・武藤。陣内の後輩に当たる家裁調査官。
  • レトリーバー・・・優子。永瀬の恋人。
  • チルドレンⅡ・・・武藤
  • イン・・・永瀬。盲目の青年 

 永瀬は、ちょっと特殊かもしれません。しかし、盲目であるからこそ感じることが出来る「陣内」を彼の視点で描いています。要するに、いろんな視点で「陣内」を見ている訳です。 

心人物「陣内」 

 第1話は、いきなり銀行強盗の人質になっているところから始まります。伊坂幸太郎の小説は導入部分の意外性に驚きます。前作の「アヒルと鴨のコインロッカー」では、本屋強盗の現場から始まりました。 非現実的な話ではありますが、それでも引き込まれていきます。ストーリー展開の巧みさ、登場人物の魅力、軽妙な台詞。全てにおいて、伊坂幸太郎らしさを感じさせます。銀行強盗の人質という非日常だからこそ、登場人物たちの個性が際立つのです。人間の本質は、特殊な状況において発揮されるということでしょう。

 第1話の主人公は、鴨居です。鴨居の視点で物語が進み、「陣内」という登場人物が語られます。この段階では、「陣内」が残りの4話に登場する中心人物だと想像できません。第1話で物語を面白くするためだけの変わった人物くらいです。

 第2話でも「陣内」が登場し、そこで初めて彼が中心人物ではないかと思わせます。もちろん第2話で登場したからと言って、第3話以降も出てくるとは限りません。 

ただ、これほどのキャラが第3話以降に登場しないとは考えられません。 

 予想通り第3話以降も登場し、この「チルドレン」が単なる短編集でなく、短編を繋いだ長編とも言える作品だと分かります。時間軸が前後するので、単純に長編を区分けしただけではありません。 

 最初に言いましたが、各話はそれぞれで完結しています。完結しつつ、「陣内」というキーパーソンを使い絡み合っているのです。読み進めるうちに、様々な出来事が連動し繋がっているのが分かります。それが分かると、以前の出来事を読み返したくなってしまいます。 

 では、陣内とはいかなる人物なのか。一言で言い表すのは、とても難しいのですが、

 ・身勝手で、自己中心的な論理で周りに迷惑をかける

 ・間違いを決して認めない 

 読み進めれば、言葉で表現するのが難しい人物であることは分かります。ただ、嫌な奴ではありません。 

読み終えて 

 第1話の銀行強盗を別にすれば、特に大きな事件が起きる訳ではなく淡々と日常が過ぎていきます。その何気ない日常の中の何気ない出来事が、「陣内」により鮮やかに彩られていきます。
 陣内は自己中で周りに迷惑をかけるのですが、不思議と腹が立たない。登場人物たちも陣内に振り回されます。しかし、納得してしまう訳です。陣内の言うことに納得するのではなく、「陣内だから」という理由で納得するのです。登場人物たちは何だかんだ言っても、陣内のことを好きなんだろうということが伝わってきます。その気持ちが読者にも伝わってくるので陣内に愛着を感じるのです。 

 陣内は、自分の思った通りのことを言い、実行していきます。悪意は全くありません。無邪気さを感じるほどです。そこに彼の魅力があるのでしょう。大きな出来事は起こりませんが、陣内が起こす小さな出来事は奇跡と呼ぶには大袈裟ですが、彼でなければ起きないことです。人が死ぬこともなく、不幸になることもない物語です。読後は、幸福感を感じるはずです。 

チルドレン (講談社文庫)

チルドレン (講談社文庫)