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陽気なギャングの日常と襲撃:伊坂幸太郎【感想】|陽気な4人のギャングが再び。

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 何も考えずに読めて、単純に笑えて楽しめる極上のエンターテイメント作品です。特に、深いメッセージ性は感じません。だからこそ、気楽に読めます。「魔王」のメッセージ性の強さとは全く違います。同じ作家でありながら、バリエーション豊かだなと感じます。 前作「陽気なギャングが地球を回す」でも感じましたが、伏線の張り方と登場人物の会話(掛け合い)が素晴らしい。作中に登場する台詞には、感心を通り越し感動を覚えさえします。どうして伊坂幸太郎は、こんなに洒落た台詞を考えつくのだろうか。  

 前作を読んでいない人は、前作から読むことをお勧めします。前作を読んでいなくても楽しめると思いますが、読んでいた方が確実に楽しめます。  

「陽気なギャングの日常と襲撃」の内容 

嘘を見抜く名人は刃物男騒動に、演説の達人は「幻の女」探し、精確な体内時計を持つ女は謎の招待券の真意を追う。そして天才スリは殴打される中年男に遭遇―天才強盗四人組が巻き込まれた四つの奇妙な事件。しかも、華麗な銀行襲撃の裏に「社長令嬢誘拐」がなぜか連鎖する。【引用:「BOOK」データベース】  

「陽気なギャングの日常と襲撃」の感想

体について

 著者曰く、元々は、四人の銀行強盗「成瀬」「響野」「久遠」「雪子」のそれぞれを主人公にした短編作品を、八つほど雑誌に掲載する予定だったそうです。ただ、四編を書いた時点で疑問を抱いたとのこと。つまり、このままでは面白くないと感じたのだと思います。確かに、この四人は個性豊かで単独で物語を描いても面白い。しかし、四人が合わさることで相乗効果以上の面白さが発現するのは、疑問の抱かないところです。このまま短編を重ねるのは、もったいないと思ったのかもしれません。ちょうど、四人それぞれを主人公にした短編を書いたところので長編に変更するにはタイミング的にも良かったかも。

 第一章では四人の日常を。日常と言うにはいろいろと起こり過ぎですが。第二章以降で、四人を主役にした長編に。もちろん、第一章から様々に伏線が仕組まれています。 

一章 悪党たちはそれぞれの日常を過ごし、時に、他人の世話を焼く

 成瀬・響野・雪子・久遠。
 それぞれを主人公にした四つの短編から構成される第一章です。彼らが普段どのように過ごし、どのようなことに首を突っ込んでいくのか。日常を垣間見せることで、彼らの人物像をさらに個性的に描き出していきます。基本的に、前作で描かれてきた人物像を覆すものではなく補完している感じです。だからと言って、退屈な訳ではありません。どの話も引き込まれます。四人の個性はもちろんですが、ストーリーも面白い。短編だからと言って侮れません。 

 彼らが物語中で放った台詞が、それぞれの物語のタイトルになっています。

  • 成瀬「巨人に昇れば、巨人より遠くが見える」
  • 響野「ガラスの家に住む者は、石を投げてはいけない」
  • 雪子「卵を割らなければ、オムレツを作ることはできない」
  • 久遠「毛を刈った羊には、神も風をやわらげる」 

 まるで人生訓のようですが、それほど大したものでもないかもしれない。成瀬が話した台詞は人生訓に感じるが、響野が話すと胡散臭くなる。それが面白いところでもありますが。 

二章・第三章・第四章 

 第二章以下は、四人が登場する長編です。特に、章分けしなくても問題なさそうです。著者の意図があったのか、文章構成上の問題なのか。ストーリーに影響はないので気にする必要もないですが。 

  銀行強盗らしく襲撃シーンから始まります。しかし、銀行強盗の話でありながら銀行強盗が単なるプロローグに過ぎません。始まる物語は「社長令嬢誘拐事件」。銀行強盗である彼らが、自ら首を突っ込んでいきます。放っておけばいいことなのですが、何故か事件を解決しようとします。もちろん理由はあるのですが、動機付けとしては弱いかな、と感じます。しかし、そんなことを言ったら物語が始まりません。そこは、目を瞑るとします。 

 第二章が始まってから、物語のスピード感が増したような気がします。展開が早く、状況は目まぐるしく変わっていきます。そのスピードの中に伏線を埋め込んでいます。読み進めていくと思わず読み直したくなるくらい、様々な事象が繋がっています。何気ない一言、何気ない行動が、その後の大きな出来事に大きく関わっている。その回収の仕方に爽快感を感じます。伏線の妙は伊坂作品に共通していますが、この作品は特に際立ちます。多くの伏線を張りながらも、全てを回収する手腕は相変わらずです。 

ただ伏線が際立ちすぎて、肝心のストーリーに没入できなかったかもしれない。 

 ストーリー自体は、それほど複雑ではありません。誘拐犯人が誰か、ということを推理させるのではなく、あくまで四人を魅せるための小説といったところでしょう。複雑すぎるストーリーは、逆に邪魔になる気もします。そして、伏線とは別の見どころが、登場人物たちの会話の軽妙さです。彼らの会話はよく出来た漫才みたいです。噛み合わない微妙な台詞を重ねていきます。噛み合わないからこそ面白い。読んでいると、ニヤリニヤリと顔が緩みます。 

 四人だけでなく、他の登場人物たちも個性豊かです。全ての登場人物が、それぞれの役割を持っています。かぶっているキャラもなく、不要なキャラもない。全員が重要な役割を果たしています。伏線と会話が、エンターテイメント作品としての完成度を高めています。彼らは、銀行強盗なので悪人です。そんな彼らが悪人を対決する。勧善懲悪ではありません。勧悪懲悪?前作においては、彼らと現金輸送車強盗犯。今作は、彼らと誘拐犯。彼らを魅せるためには、違う悪が必要ということなのかもしれません。  

最後に 

 第一章は雑誌掲載時の原稿に大幅に手を加えて、第二章以降の長編に繋げた。あとから長編を書くことを決め、手を加えてここまで連動させた一連の小説に仕上げる著者の力量に感服します。