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クリムゾンの迷宮:貴志祐介【感想】|命を懸けたゼロサムゲームが始まる

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 物語の前半と後半で、これほど様相が変わると思わなかった。前半はミステリーの要素が多く、後半は完全なホラー小説に変貌しています。「バトルロワイヤル」を未読なので比べようもないですが、「バトルロワイヤル」も「クリムゾンの迷宮」も初版発行が1999年ということなので、どっちが先という訳でもなさそうです。 

 小説の前半部分は、「火星の迷宮」と称される場所に突然放り込まれた主人公「藤木芳彦」が否応なしにゲームに参加させられていく様子を描いています。

  • ここはどこなのか。
  • どうすれば日本に帰還できるのか。
  • 何故、自分が選ばれたのか。

 とにかく、様々な謎が提示されていきます。それらの謎を解明していくことが、この小説の目的かと思わせます。しかし、小説の後半になると一気に様相が変貌します。ミステリーからホラーへ。与えられた課題をクリアすることではなく、生存することが目的になります。生存を脅かす存在が、読んでいて鳥肌が出てくるほどの恐怖感を与えてきます。後半に入ると、読む手が止まらず一気に読み終えてしまいます。怖いけど読む手が止まらない。主人公である藤木が死ぬことはないはずだと思っていても怖い。それほどの描写です。  

「クリムゾンの迷宮」の内容 

藤木芳彦は、この世のものとは思えない異様な光景のなかで目覚めた。視界一面を、深紅色に濡れ光る奇岩の連なりが覆っている。ここはどこなんだ? 傍らに置かれた携帯用ゲーム機が、メッセージを映し出す。「火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された……」それは、血で血を洗う凄惨なゼロサム・ゲームの始まりだった。  

「クリムゾンの迷宮」の感想

半部分

  • 地球上とは思えない風景。
  • 何故、自分がここにいるのか。 

 抜け落ちた記憶とともに描かれる異様な世界に、SF小説のような始まりだなという印象を持ちます。加えて、藤木に与えられたゲーム機からのメッセージ。

火星の迷宮にようこそ。
ゲームは開始された。無事に迷宮を抜け出て、ゴールを果たした者は、約束通りの額の賞金を勝ち取って、地球に帰還することができる。 

  このメッセージが現実的に意味するところは、「ゲームは開始された」「無事に迷宮を抜け出て、ゴールを果たした者は、約束通りの額の賞金が与えられる」と言う部分だけです。ゲーム機から与えられるメッセージを元に、チェックポイントを通過しゴールを目指す。当面の目標は、それになります。ただ、根源的な謎。藤木がここにいる理由については、ゲームが進むうちに解明されていくのだろうと想像していました。 

 読み始めて感じたことは、藤木の冷静さが際立ちすぎていることです。証券会社が破綻して失業者となった40歳。過去にボーイスカウトに在籍していたようだが、時計を使って方角を確かめてみたり、このゲームが「ゼロサムゲームではないか」と疑ってみたり。突然、異様な世界に放り込まれた割には冷静に現状分析を行い、状況判断をし、行動を開始している。ゲーム機からの指示があったとしても、その指示に従えるものだろうか。40歳の元証券会社員にしては、サバイバル力溢れる人物です。

違和感はありますが、元々の設定自体が異様なので白けるという程ではありません。 

 第一チェックポイントに到着する前に、行動を共にする若い女「大友藍」と出会います。物語には、ヒロインが必要だということでしょう。単なるヒロインでなく、このゲームの鍵を握る人物に設定されていることは登場した瞬間から予想できます。どの程度の鍵を握っているかが分かりませんが、先読みしやすいストーリー展開なのは間違いないと思います。第一チェックポイントに到着して登場人物も出揃い、ゲームが開始されます。藤木と藍以外の人物たちも現在の状況に謎を感じながらも、不承不承ゲームからの指示に従います。野呂田の誘導があったとはいえ、全員がゲームに取り込まれていく様子が不思議であり恐ろしい。ここまで状況が分からないと、どんな指示であっても何かに従うということで心理的に落ち着くということを表現しているのかもしれません。 

 藤木と藍の行動を中心に描いているので、他の7人の名前と特徴がなかなか頭に入ってこない。名前が出てくるたびに前のページを見返し、人物を確認してしまいました。私の記憶力の問題です。 

 前半はゲーム機からの指示に従い、選択を繰り返す。その選択が正しいのかどうか。第7チェックポイントに辿り着けば終わるのか。そこに着目して読ませる展開です。伏線と思われるものは、多数仕掛けられていました。後半、それらがどのように展開していくのかが気になるところです。9人は、互いをけん制し合いながら、ゲームを進めていきます。 

半部分

 前半部分は、異様な世界からの脱出が目的のミステリーといった感でした。後半、藤木が変貌を遂げた楢本を見た瞬間から、一気に様相をホラー小説へと変えます。ゲームをクリアすることから、生き残ることが目的になります。それも、人間同士の殺し合い。どちらかと言えば、殺し合いではなく、楢本たちによる一方的な殺戮から藤木たちが逃れるサバイバルです。 

 このゲームは殺し合いに発展するだろうことは、物語の冒頭から想像できます。藤木がゼロサムゲームだと考えていたことからも、ほぼ予想通りの展開です。ただ、生き残るために有限な資源を奪い合うための殺し合いではなく、狩る者と狩られる者に分けてしまうとは想像していませんでした。それも、食料として殺されることになるとは。 

  • 殺され方の描写
  • 食料として扱われる人間
  • 人間を食料として扱う狩る者たち

 全ての描写が、とてつもなく凄まじく恐ろしい。人を殺したり解体する描写は、他の作品でも登場することはあります。しかし、貴志祐介の描く殺し方は、今まで出会った中で一番恐ろしい。 

 後半になると、藤木のサバイバル力と判断力は一般人を凌駕してしまってます。そこが現実感に乏しいと言えば乏しいかもしれません。大きな力に巻き込まれた一般人のはずが一般人らしからぬ活躍ぶり。死を前にすると、人はここまで能力を開放させるものなのかもしれません。後半は一気に読み終えてしまいます。それほど、息詰まる展開が続きます。最終的には藤木が生き残るのは分かっているのですが、それでも緊迫感と恐怖感が襲ってきます。 

と伏線

 この小説には、謎が多くあります。

  • ここはどこなのか
  • 何故、自分はここにいるのか
  • どうすれば帰れるのか

 数え上げると無数にあります。順次、解明されていく謎もあれば、解明されない謎もあります。伏線も、明らかに伏線と分かるものと、そうでないものもあります。全体的に分かりやすい伏線が多い。その伏線から物語の先行きも予想できますし、だいたいが予想の範疇に収まる展開です。予想外の展開にならないからこそ、藤木たちの生き残りのために戦いに集中して読めるのだと思います。

終わりに 

 非現実的な物語のように感じますが、スナッフビデオの存在、密航船、薬やサバイバルの知識など現実感を出すための要素も含まれています。読み始めは荒唐無稽かな、と思いました。しかし、読み終えると現実に起こそうと思えば起こせる出来事のようにも感じます。