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映画「アリータ:バトル・エンジェル」を観た

 木城ゆきと氏の「銃夢」は読んでいません。原作との比較は出来ませんので、純粋に映画だけの感想になります。原作を知っている方はいろいろ思うところがあると思いますが、原作を知らない者の感想ということでご容赦ください。  


映画『アリータ:バトル・エンジェル』本予告【天使降臨】編 2月22日(金)劇場公開 

「アリータ:バトル・エンジェル」のストーリー

天空に浮かぶユートピア都市“ザレム”と、“ザレム”から排出された廃棄物が堆積して山をなす荒廃したクズ鉄町“アイアンシティ”。 大戦後の未来は、“支配する者”と、“支配される者”の2つの世界に分断されていた。 “アイアンシティ”に暮らすサイバー医師のイド(クリストフ・ヴァルツ)は、クズ鉄の山から少女の頭部を発見し拾い上げる。 彼女はなんと300年前のサイボーグだった。 奇跡的に脳は生きていたものの、長い休眠状態により過去の記憶を失っていた。 イドによって新しい機械の身体を手に入れたそのサイボーグの少女は、アリータ(ローサ・サラザール)と名づけられ、イドの元で大切に育てられる。 ある日、アリータは襲ってきた敵からイドを守るために戦った際、自分の中にコントロールできないほどの戦闘能力が備わっていることに気づいてしまう。 実は彼女は、300年前大戦中に失われたテクノロジーで作られた“最終兵器”だったのだ。 果たしてアリータと分断された世界の過去に隠された秘密とは・・・。 人々の温かさに触れ、感情が芽生えた心を持ったサイボーグの少女アリータは自分の命の意味を見つけるため、そして、大切な人を守るため、二つに分断された世界の秩序に立ち向かう。(HPより抜粋) 

ジェームス・キャメロンを魅了した「銃夢」

 「アリータ:バトル・エンジェル」の原作は、木城ゆきと氏のSF格闘漫画「銃夢」です。「銃夢」は1990年から1995年にかけて「ビジネスジャンプ」で連載されていましたが、どれほどの人気漫画だったのか知りません。あまり漫画を読む習慣がなかったので。

 独特の世界観に彩られたサイバーパンクが魅了していたのはマニアだけなのか、多くの人たちなのか。少なくとも魅了された一人に、ジェームズ・キャメロンが含まれていたということです。キャメロンが「銃夢」を知ったのは、「シェイプ・オブ・ウォーター」のギレルモ・デル・トロ監督に紹介されたからです。25年前に「銃夢」を観たキャメロンは斬新で創造的な世界観に魅了され、すぐに映画化権を取得しました。キャメロンとギレルモは、日本のサブカルチャーの情報を交換し合う仲のようです。その後、「アバター」と並行しながら脚本化と構想を経て、ようやく映画化されました。

 日本の漫画やアニメがハリウッドで実写化されるのは、それほど珍しくなくなっています。最近では「ゴースト・イン・ザ・シェル」でしょう。あまりヒットしなかったようですが、実写化で成功するのはなかなか難しいということです。

  • 世界観を再現することの難しさ
  • キャストがイメージ通りかどうか
  • 長大なストーリーを2時間に収めるために何を取捨選択するか

 多くのハードルが立ち塞がっています。日本人にとっては、原作を生み出したという自負もあるから余計に辛口になるのかも。本作は、ジェームズ・キャメロンとロバート・ロドリゲスのタッグということで期待値は高まります。映画化権を取得してから20年以上経っていることもあり、映像技術も相当に進歩しています。映画化が伸びたことは、結果的に良かったのかもしれません。 

繊細な表情と豊かな表現 

 天空のユートピア「ザレム」の下に広がる屑鉄の街「アイアンシティ」。ザレムは下から眺めるだけの存在です。本作の舞台はアイアンシティです。サイバーパンクの街並みやモーターボールのスタジアムは、現実的で作り物に見えません。それ以上に惹きつけられるのが、アリータの表情と微細な表現です。 

 アリータを見て最も違和感を感じるのが「目の大きさ」です。身体のほとんどが機械化された外見よりも、目の大きさに驚かされます。漫画ではよくある大きさですが、実写(アリータの顔は実写ではないが)で他の登場人物と見比べると明らかに異質です。その分、目による表情の表現力が際立っていますが。目の表現だけでなく、表情も人間以上に豊かです。豊か過ぎてアリータの考えていることや感じていることが、手に取るように分かりやすい。分かりやすい表現はジェームズ・キャメロンらしい。アリータはサイボーグだが、感情面ではイドやヒューゴと変わりません。ザパンやグリシュカの方がよっぽど異形です。彼女を見続けていると、彼女が本当に存在しているように感じてしまいます。それほどVFX技術の進歩のすさまじさを感じます。

 アリータの表情以外にも、彼女のアクションにも目を奪われます。彼女は徐々に記憶を取り戻し、自分が戦士であることを思い出していきます。彼女の心の繊細な動きを表情で表現しながら、圧倒的な戦闘能力を動きで描く。

  • イドを守るために初めて戦った時の戦闘能力の高さ
  • 賞金稼ぎが集まる酒場での乱闘
  • グリシュカとの一騎打ち

 アリータの機甲術(パンツァークンスト)の迫力に一気に目が奪われます。スピード感溢れる戦闘は、モーターボールの乱戦でも発揮されます。アリータの戦闘シーンには目を離す暇がありません。また、バーサーカー・ボディを接続された時のボディの微細な変化。ボディの体型が表面に微細な変化を及ぼしながら変わっていきます。少女から女性へと生まれ変わるように。

 目が付いていかないほどのスピード感ある戦闘シーンだけでは大味になってしまいますが、アリータの表情や肌の質感と笑顔と涙。大胆と繊細な映像表現で観客を引き込みます。ザレムやアイアンシティの映像は独自の世界観はありますが、特筆すべきほど目新しいものはありません。その分、アリータの存在に集中してしまいます。

 一方、ザパンやグリシュカのように機械化の際立つ存在もあります。彼らも実際に存在していてもおかしくないと思わせるほど滑らかに動きます。ザパンを見るとロボコップの進化形にように感じますが。ロボコップも驚きましたが、現在の映像はここまで進化しているのかと驚きます。 

原作との比較

 最初に書きましたが、原作「銃夢」は未読です。正直、原作との比較は出来ません。原作の熱烈なファンの方は納得できない部分もあると思います。少なくとも、原作の一部の映画化なので中途半端です。プロローグ的な印象も受けます。公式HPのSTORYの一部の抜粋ですが、

人々の温かさに触れ、感情が芽生えた心を持ったサイボーグの少女アリータは自分の命の意味を見つけるため、そして、大切な人を守るため、二つに分断された世界の秩序に立ち向かう。

 自分の命の意味は、記憶を取り戻した(すべて取り戻したのかどうかは分かりませんが少なくとも自分の出自は理解していたように思う)ことで理解した。大切な人(ヒューゴ)を守るために戦う。結果は別にして。ただ、二つに分断された世界の秩序に立ち向かうことが表現されていたのかどうか。分断された世界をひとつにすることが目的なのだろうか。ザレムを無くすことが世界の秩序を取り戻すことなのか。そのあたりが明確でない。

 また、アリータの行動基準がコロコロと変わっていく印象を受けます。イドに助けられた時は、失った記憶を取り戻すことを目的に行動しています。ヒューゴと出会ってからは、彼のために行動します。アリータとヒューゴがすぐ恋に落ちるのも、何の前振りもなかったので違和感があります。

  • ヒューゴがザレムに行きたいから手伝う
  • 彼が殺されたから、ザレムに復讐しようとする

 周りに流されるのは人間らしいと言えます。戦闘マシンとして作られたアリータが、一貫した行動を取っていません。もともとザレムを攻撃するために作られたアリータです。ザレムに戦いを挑むのは、元々の記憶から発生してもおかしくない。しかし、アリータはヒューゴのためにザレムに戦いを挑みます。彼女が記憶を取り戻したことで、何が生まれたのか。彼女のアイデンティティは明確にならなかった印象を受けます。分かりやすいストーリーでしたが。

終わりに

 映画館で観る映画だと思います。迫力ある戦闘シーンやアリータの繊細な表情は、大画面で観る価値のあるものです。続編の制作に期待しますので、本作の興行成績が成功することを祈ります。話は変わりますが、「ジョジョの奇妙な冒険」の続編は制作されるのだろうか。あれほど続編の存在を明確にしておきながらも、興行成績が酷いと作られないのだろう。