「ダンケルク」映画レビュー|戦争映画のリアルを心で感じるノーラン作品:MANPA Blog

命をつなぐための戦い――ノーランが描いた「生きる」戦争映画

 

第二次世界大戦のダンケルク撤退作戦を描いた映画「ダンケルク」。監督はクリストファー・ノーランです。

戦争映画と聞くと、激しい戦闘や大迫力の爆発シーンを思い浮かべます。でもこの映画はちょっと違う。冒頭に少し銃撃はあるものの、それ以降は派手な戦闘はほとんどありません。それでも息をつく暇もない。

ノーランが描きたかったのは、戦場で「生き延びる」ことに必死な人間の姿です。派手さはないけど、心臓がギュッと締めつけられる感覚がずっと続きます。

 

 

戦うより「生きる」ことが主役

「ダンケルク」で印象的なのは、戦争の迫力よりも人間の感情が前面に出ていること。兵士たちの表情をアップで映す場面が多く、目の動きや震える手、汗のにじむ肌までが伝わってきます。

そのせいで、誰がどこで何をしているかは少し分かりにくい。でも、実際の戦場でも同じだと思います。一兵士にとって大事なのは「今、生き延びられるかどうか」だけ。全体の作戦なんて見えていない。

だからこそ、観ているこちらも「次に何が起こるんだ?」と息をのむ。戦争の恐怖が、リアルに体感できます。

 

三つの視点が生む緊張感

物語は「陸」「海」「空」の三つの視点で進みます。

それぞれ時間軸が違って、陸は一週間、海は一日、空は一時間。最初はちょっと混乱するかもしれませんが、見続けるとそれぞれの出来事が重なり合い、ラストで一つにつながっていくのがわかります。

例えば陸で見た爆撃シーンが、あとで空からの視点で描かれることで「なるほど、こういうことだったのか」と分かります。この切り替えが、映画全体に独特の緊張感とリズムを生んでいます。

陸の中心は若い兵士トミー。ほとんど口をきかないけれど、沈黙の中の目の動きや表情だけで恐怖も希望も伝わる。

敵に追われ、船が沈む。それでも必死に生きようとする姿には、思わず手に汗を握ってしまいます。セリフより顔が語る、この映画ならではの表現です。

 

言葉より表情で語るリアル

この映画では、戦場全体を見渡すような大きなシーンはほとんどありません。観ている側も「今どこで何が起きているの?」と戸惑うことがあります。

でも、それでいいんだと思います。戦場にいる兵士も全体の状況なんて分からないまま動いているはずです。

民間船の船長ドーソンやその息子、救助された兵士も同じです。言葉では表せない思いが、表情やまなざしから伝わってきます。トラウマで混乱する兵士、静かに決意するドーソン。その顔を見ながら、観客は彼らの気持ちを想像することになります。

説明が少なく、セリフも控えめ。だから「分かりづらい」と感じる人もいるでしょう。でもその静けさが、戦争のリアルだと思います。派手さはなくても、混乱や恐怖、死の迫力がじんわり伝わってくる。

頭で理解するのではなく、心で体験する映画。それが「ダンケルク」です。

 

終わりに

全体を俯瞰せず、登場人物の顔や視線を追う。違う時間軸を交差させ、断片的な戦場の現実を積み重ねる。そしてセリフの代わりに「表情」で語らせる。

こうした手法が重なって、「ダンケルク」は単なる戦争映画を超えた、「人が生きる力」と「極限での選択」を描く深い作品になっています。

派手さはないけれど、静かに胸に迫る。クリストファー・ノーランの演出力を改めて感じさせる映画です。観る人によってはつまらないと感じるかもしれません。しかし、私にとって、終わったあと、確実に心に残る一本でした。