読書LIFE ~毎日が読書日和~

本を読み、感想や書評を綴るブログです。主に小説。

映画『ハンターキラー 潜航せよ』を観た

 潜水艦を扱った映画を久しぶりに観た気がします。思い出すのは、「U・ボート」から始まり「レッド・オクトーバーを追え!」「クリムゾン・タイド」「K-19」「U-571」と数え上げればキリがありません。潜水艦独特の緊張感は手に汗を握ります。

 2000年代に入ってからは、映画の舞台に潜水艦が選ばれることは少なくなりました。実際に数えた訳ではないので私の単なる印象ですが、そもそも戦争を題材にした映画自体が少なくなった気がします。大国間の戦争の勃発に現実感が失われ、地域紛争や内紛・テロが世界の安全保障の主軸になってきたからでしょうか。それとも潜水艦を舞台にした映画は出尽くしたのでしょうか。

 戦争をテーマに選ぶことには一定の意義があると思います。戦争の悲惨さを伝えるためには映画は有効な媒体です。その一方、娯楽作品として戦争が描かれることもあります。全ての映画に意味を見い出す必要はないので、娯楽作品として手に汗を握って引きこまれることは悪いことではありません。決して戦争を肯定している訳ではないので誤解のないようにお願いします。

 「ハンターキラー」は本当に久しぶりの潜水艦ものです。戦争の道具である潜水艦に魅力を感じることがいいことなのかどうか自問してしまいますが、技術力の結晶である潜水艦を見ることに高揚を感じてしまいます。私が潜水艦に魅力感じ始めたのは、高校生の時に読んだ、かわぐちかいじ氏の「沈黙の艦隊」です。とにかく必死に読んだ記憶があります。「ハンターキラー」が戦争をテーマにした社会性のある作品なのか、単なる娯楽作品なのか。 


【公式】『ハンターキラー 潜航せよ』4.12(金)公開/予告編

「ハンターキラー 潜航せよ」の内容

ロシア近海で1隻の米海軍原子力潜水艦が姿を消した。ジョー・グラス艦長率いる攻撃型原潜“ハンターキラー”は捜索に向かった先で、無残に沈んだロシア原潜を発見、生存者の艦長を捕虜とする。同じ頃、地上ではネイビーシールズ精鋭部隊の極秘偵察により、ロシア国内で世界を揺るがす壮大な陰謀が企てられていることが判明する。 未曾有の緊急事態を回避するため、ハンターキラーには限りなく0に近い成功率の任務が下る。それは、絶対不可侵の水中兵器ひしめくロシア海域への潜航命令でもあった。グラスは任務遂行のため、シールズとタッグを組み、禁断の作戦実行を決断するが・・・。世界の運命は、一隻の潜水艦に託された――。【公式HPより】  

「ハンターキラー 潜航せよ」の感想

像には迫力がある

 潜水艦同士の戦闘シーンはあまりありません。冒頭、魚雷戦はありますが、すぐに決着します。魚雷戦の緊張感は伝わってくるし、映像も迫力はあります。ぎりぎりで魚雷を切り抜け、舞い上がった海底の砂の中を再び現れる姿は観ていて圧倒されます。

 ただ、戦闘自体があっけないので拍子抜けします。ロシア潜水艦の放った魚雷を鮮やかな操艦で回避する様子は見事です。一方、ロシア艦のあっけなさに驚きます。少なくとも潜水艦の艦長は海軍の中でも特に優秀な人材であるはずなのに、対等な戦いになっていません。グラス艦長があまりに優秀な艦長だからなのか、ロシア艦の艦長が無能なのか。

 迫力ある映像だが、戦闘自体には引き込まれません。音だけが頼りの世界での駆け引きらしきものが存在しないからでしょう。魚雷の追尾を逃れる潜水艦や爆沈するロシア艦など、画面いっぱいに広がる戦闘シーンがもったいない。 

上特殊部隊との共同作戦

 特殊部隊ネイビーシールズとの共同作戦となっていますが、ロシアクーデターへの対応はネイビーシールズが実行しています。原潜はあくまでも彼らの逃走手段に過ぎません。逃走手段のためだけに原潜を危険に晒すようなことをするだろうか。しかも、ロシア海域で撃沈されるようなことでもあれば、機密だらけの原潜がロシアの手に渡ることになります。そもそも、この作戦には計画性があまりありません。

  1. ロシア海域で消息不明になったアメリカ原潜の捜索に向かったところ、沈んだアメリカ原潜とともに内部から破壊されたロシア原潜を発見し、何らかの陰謀が発覚する。
  2. 一方、ロシア海軍基地においても同様に不穏な動きが見えるので特殊部隊を派遣する。そこでクーデターが発覚し、ロシア大統領を確保する命令が下る。
  3. それに伴い原潜に特殊部隊の回収が命じられる。

 作戦には臨機応変さが必要なのは分かりますが、他のオプションがないのか疑問です。始まりが共同作戦を前提にしていないので、余計に行き当たりばったり感を与えるのでしょう。彼らが共同作戦を行わなければならなくなった必要性・必然性を感じません。特殊部隊が空から侵入したのなら、同じく空から回収した方がいいのではないだろうか。それができない理由が欲しかった。 

新鋭潜水艦の技術力はどこに?

 久し振りの潜水艦ものの映画です。1980~1990年代に公開された潜水艦映画とは時代が違います。当時の潜水艦と現在の潜水艦では性能も装備も全く別物になっているはずです。潜水艦の性能はどの国でも当然ながら機密なので性能を評らかにすることは出来ないし、性能を映像で表現することも難しいのは分かります。ただ当時の潜水艦映画で表現されていた性能が現在とどこが違うのか。何が変わったのか。あまり伝わってきません。潜航能力・静粛性・探知能力など、もともと備わっている装備の能力向上が主であれば映像表現は難しい。海図がデジタル化されていたくらいしか気付けなかった。魚雷から映像が送られてきたのも新しい能力なのでしょうか。ただ、驚くべきほどの新しさは感じません。 

況設定に現実感が感じられない

 設定が一昔前くらいの印象を受けます。ロシア国内で軍部のクーデターが起こり、アメリカと開戦しようとします。冷戦時代の両国の緊張感がある頃の設定みたいです。現実感に乏しい。

 映画の中で起こる様々な出来事にも多くの違和感があります。ロシア大統領があれほど簡単に拘束されてしまうものなのでしょうか。確かに自国の軍事基地を訪れて拘束されることは予想もしないだろうし、軍は大統領の訪問を事前に知ることができるので可能なのかもしれません。そうだとしても呆気なさ過ぎます。そもそも将軍がアメリカと開戦しようとする動機がよく分かりません。彼は何を目的にしているのか、全く語られません。将軍が基地内をどれくらい掌握しているのかも明確にされません。成功させるには基地全体を掌握しておく必要があります。少なくとも、幹部は全員意思統一を図らねばならない。ただ、駆逐艦の行動を見ていると必ずしも基地を掌握しているようには見えません。

 一方、アメリカも軍事力に頼るばかりで外交的な行動に出ません。大統領が拘束されていることを把握すれば、特殊部隊による奪還を強行するよりは外交的な解決を図ればいい。多くの部分で違和感があります。 

神論に傾き過ぎ

 グラス艦長の人間性を前面に押し出して制作されています。彼の操艦技術と判断力は並外れているのでしょう。そのことは冒頭の魚雷戦で表現されています。ロシア潜水艦の艦長たちを救うことは、彼の人間性の大きさを描いているのでしょう。ただ、人間的に優れているのと軍人として優れているのは別問題です。

 彼はロシア艦艦長を信頼することにより、ロシア海域への侵入に成功します。そこには軍人としての冷静な判断があったのだろうか。ロシア艦艦長の協力が得られなかった時のオプションがあったのだろうか。

 また、ロシア基地から攻撃を受けた時、彼は反撃をしません。結果的にロシア駆逐艦の砲撃によりミサイルは阻止されることになったのですが、確実性のない賭けに過ぎません。グラス艦長が人間を信じるのは構いませんが、そのことで乗組員の命を簡単に危険に晒していいのだろうか。副長の判断の方がよっぽど正当性があります。 

終わりに

 細かいところを気にしなければ楽しめます。映像も特筆すべきほどではないですが、迫力はあります。緻密な潜水艦同士の戦いを描くというよりは、登場人物たちの男の信頼を描いている印象です。