こんにちは。本日は、川原 礫氏の「アクセル・ワールド01 黒雪姫の帰還」の感想です。
本作は第15回電撃小説大賞「大賞」受賞作です。川原 礫氏の「ソードアート・オンライン」を読んで、「アクセル・ワールド」も読み始めました。いまさら感もありますが。
アニメを先に観ているので、登場人物のイメージはすでに出来上がっています。文庫にもイラストがあるので登場人物を想像する余地はありませんが、小説のイメージに合っています。そのように描いているので当然だと思いますが。アニメでのハルユキの声が外見に似合わずいい声だったことを覚えています。
「ソードアート・オンライン」と世界観が似ているので想像しやすい。テクノロジーの進化とそれに伴う社会制度が違うくらいだろう。
登場人物や物語の設定の説明が多いのでテンポが悪く感じる部分もありますが、黒雪姫とハルユキの会話にうまく紛れ込ませているので違和感はありません。
「アクセル・ワールド 01 黒雪姫の帰還」の内容
どんなに時代が進んでも、この世から「いじめられっ子」は無くならない。デブな中学生・ハルユキもその一人だった。彼が唯一心を安らげる時間は、学内ローカルネットに設置されたスカッシュゲームをプレイしているときだけ。仮想の自分を使って“速さ”を競うその地味なゲームが、ハルユキは好きだった。
季節は秋。相変わらずの日常を過ごしていたハルユキだが、校内一の美貌と気品を持つ少女“黒雪姫”との出会いによって、彼の人生は一変する。少女が転送してきた謎のソフトウェアを介し、ハルユキは“加速世界”の存在を知る。それは、中学内格差の最底辺である彼が、姫を護る騎士“バーストリンカー”となった瞬間だった。【引用:「BOOK」データベース】
「アクセル・ワールド 01 黒雪姫の帰還」の感想
思考の加速
物語は2046年から始まります。川原 礫 氏のもうひとつの代表作「ソードアート・オンライン」の約20年後です。両作品の世界観は似ていますが、同一の時間軸にある物語と明言されていません。パラレルワールド的な存在の可能性もある。ただ、SAOの技術の発展形として存在しているものも多く登場します。
思考の一千倍の加速は、「SAOアリシゼーション編」のソウル・トランスレーション技術を思い出させます。ふたつの世界の直接的な繋がりは明かされていませんが、技術的な繋がりは感じます。ソウル・トランスレータ―は魂にまで言及していましたが、アクセルワールドはそこまで踏み込んでいません。
先にアクセル・ワールドを読んでいれば、アリシゼーションのソウル・トランスレーションを理解しやすかったかもしれない。
黒雪姫とハルユキ
中学一年の有田春雪と中学二年の黒雪姫を中心にストーリーが進みます。大人は登場しません。中二病的な設定と展開なのでハマれば面白い。しかし、白けてしまうとどうしようもない。黒雪姫の謎めいた雰囲気に惹かれるかどうかも重要だろう。
黒雪姫とハルユキはスクールカーストの両極です。中学生という悩みの尽きない年代とイジメの存在が今も昔も変わらないことを示します。イジメは人の性質を歪めていく。ハルユキの被虐的で人間不信な性格は、彼自身の責任というよりは環境の問題です。小さい頃から積み上げられた環境は、ハルユキを典型的ないじめられっ子にしてしまった。
しかし、彼にも取り柄があります。どれだけ不遇な環境であろうと何らかの拠り所があるということが大事なのだろう。彼の取り柄はスカッシュゲームに過ぎませんが、それがきっかけで彼の世界は変わることになる。黒雪姫の登場は都合の良い展開ですが、ライトノベルだから許される。
黒雪姫の態度を受け止めきれず人間不信を貫き通すハルユキの姿は、イジメられた末の徹底した性格の暗部なのだろう。両極にいる二人が世界を共有するのは簡単ではない。ただ、黒雪姫はあきらかにハルユキに気持ちを寄せています。まさしく出来過ぎな展開です。危機的状況においてハルユキに告白する黒雪姫の姿に羨ましさを感じてしまうのも仕方ない。
ハルユキのデュエルアバター「シルバー・クロウ」が加速世界初の飛行アビリティを獲得したのも主人公らしい展開です。現実世界のハルユキを映した姿が加速世界のシルバー・クロウなのだとしたら、彼の苦悩は相当に深かったということだろう。大空を希求するほど現状から逃げ出したかったのだから。
黒雪姫とシルバー・クロウという新しい世界に触れ、ハルユキは変わっていくのだろう。そのことを予感させます。環境がハルユキを典型的ないじめられっ子にしたのならば、環境が変われば彼も変わる。彼の環境変化は羨まし過ぎるが。
ハルユキの生い立ち
登場人物の生い立ちは徐々に描かれていくのだろう。ハルユキは太っていてオドオドしています。それが原因でイジメられ悪循環に陥っていきます。彼は誰も救ってくれない孤独ないじめられっ子の立ち位置ですが、そうとは言い切れません。
ハルユキにはチユリとタクムの二人の幼馴染がいます。「01巻」のタクムとハルユキの関係は見た目ほど簡単ではありませんが表面上は親友です。少なくともハルユキはそう思っています。チユリとタクムは活動的でハルユキとは正反対です。そんな彼女たちと幼馴染であり続けるハルユキは孤独ではない。ただ、近くにいるから自身と比べてしまうのかもしれませんが。
チユリは単なる幼馴染でもなさそうです。彼女の部屋で直結した時の会話を見ると、ハルユキに気持ちが傾いている印象もあります。中学生で、異性の部屋で、二人きりで、近距離で接近すること自体が羨ましく見えてしまいます。だからこそタクムの心の内に穏やかならざるものが生まれてくるのですが。
どうであれハルユキは完全な孤独ではない。どちらかと言えば、二人の存在でかなり救われています。黒雪姫にもチユリにも好意を抱かれるハルユキの未来は明るいのだろう。一方でチユリの存在がタクムとの関係を歪めていく原因にもなります。
ハルユキは自身の力でタクムとの決裂と和解を一気に推し進めてしまいます。何となく青春物語的な雰囲気で友情を取り戻す姿は気恥ずかしいものもあります。
終わりに
今後の展開のための布石があちこちに仕込まれているのだろう。物語は始まったばかりです。黒雪姫のデュエルアバター「ブラック・ロータス」が復活したところで「01巻」が終わります。今後の展開はどうなるのだろうか。