『法廷占拠 爆弾2』──あの衝撃作の続編、再び爆発するか?


直木賞候補にもなった話題作「爆弾」の続編、『法廷占拠 爆弾2』です。タイトルの「爆弾2」という表記に加え、「法廷」「占拠」という強烈なワードが目を引く。
シリーズの再始動を高らかに宣言するようなタイトルです。前作の高い評価を踏まえて、「今度はどんなスリルを仕掛けてくるのか」と期待せずにはいられなかった。
できるだけネタバレを避けつつ、その読後感をまとめてみます。
1.続編の壁――前作の記憶が求められる構成
まず痛感したのは、前作の記憶がかなり重要だということです。私自身、「爆弾」は読了済みですが、細部までは覚えていなかった。
そのため、序盤から登場人物の関係性や立ち位置を理解するのに苦労しました。多くのシーンが「知っている前提」で描かれており、作者もそこを省略してテンポを優先しているように感じる。
こうした作りはシリーズとしては自然ですが、読者にとってはやや不親切にも感じられる。あらすじを確認してから臨んだものの、やはりもう一度前作を読み返しておくべきだったと思います。
未読のまま本作から読むのは難しい。
2.緊張感よりも違和感が勝った法廷サスペンス
本作の中心は、法廷を占拠した犯人と警察の心理戦です。
ジャンルとしてはミステリー・サスペンスの王道で、爆弾を軸にした緊迫感ある駆け引きは前作の延長線上にある。しかし、読み進めるうちに、思ったほどピリピリした緊張を感じなかった。
理由のひとつは、犯行があまりにもスムーズに進みすぎる点です。たった二人の犯人が、100人規模の人質を一気に押さえ込むというスケールは壮大だが、現実味に欠けます。
爆弾や銃をどうやって法廷内に持ち込んだのか、その手口もやや非現実的に映る。実際の裁判所では入念なセキュリティチェックが行われていると思うし、あのような突破は簡単ではないはずです。
また、警察側の動きもどこか鈍く、交渉は後手後手。指揮系統も混乱気味です、
サスペンスとしての張り詰めた緊迫感よりも、「なぜこうも手際が悪いのか」という苛立ちの方が先に立ちます。
もう少し切れ者の交渉人が登場すれば、会話のやり取りにも張りが生まれ、事件全体のリアリティが増しただろう。
せっかく「法廷占拠」という劇的な舞台設定を用意しているのに、その大事件らしい圧迫感が最後まで十分に伝わってこなかった。
3.人物の継続と物語の奥行き、そして残る物足りなさ
登場人物の多くは前作から続投しています。警察側の主要メンバーはもちろん、過去の事件で関わった人物も再登場し、シリーズとしての一貫性はあります。
ただし、これも前作を読んでいないと理解が追いつかない要素のひとつです。彼らの行動やセリフの意味が、前作を知っていればこそ腑に落ちる構造になっている。
一方、犯人の動機づけや背景は、社会的テーマを絡めた興味深い構成です。倫理や正義をめぐる問いかけは鋭く、終盤には「なるほど」と唸らされる部分もある。
しかし、肝心の犯行計画のリアリティが薄いため、せっかくの心理的深みが霞んでしまうのが惜しい。
とはいえ、文章のテンポや構成は巧みで、読みやすさは抜群です。リアルさに欠ける部分があっても、ページをめくる手は止まらない。事件の真相や犯人の意図が少しずつ明かされていく展開には、確かな引力がある。
結果として、「法廷占拠 爆弾2」は、前作を愛した読者にとっては「再会の喜び」を感じられる一冊だと思います。一方で、単体のサスペンスとして読むと、非現実感と緊張感の乏しさがやや足を引っ張ります。
終わりに
総じて「法廷占拠 爆弾2」は、前作の登場人物たちのその後を描きつつ、物語世界をさらに拡張した作品といえます。
現実味の薄さや警察描写の緩さといった弱点はあるものの、テンポの良さと物語の勢いで最後まで読ませてしまう力は健在だ。
「続編の宿命」とも言える、前作の知識が必要な構成は賛否が分かれそうですが、作者としてはシリーズの厚みを意識的に積み上げているのでしょう。
前作を読んだ読者にとっては、懐かしさをかき立てる一冊。単体のサスペンスとしてはやや物足りなさを感じる作品でした。