読書LIFE ~毎日が読書日和~

本を読み、備忘録的に感想を綴るブログ。主に小説。映画もたまに。

風に舞いあがるビニールシート:森 絵都【感想】

 第135回直木賞受賞作。

 森 絵都の作品は「カラフル」を読んで以来、2作目です。「カラフル」は中高生向けの印象でした。

 本作は、6編から成る短編集です。それぞれが独立した話であり、全く関係性がありません。

 しかし、6編には共通するテーマがあると思います。それは、登場人物たちの内面の変化を描いていることです。

 

 主人公たちが置かれている状況は、物語の始まりと終わりでは変わりません。

 しかし、彼(彼女)たちの心の持ち様が変わることにより、変わっていない状況が違って見えるようになる。彼らが見ている景色が、全く違う景色へと変貌するのです。

 景色は、見る者の心の持ち様で、色彩を変えていきます。

  

 この6編の物語は、短いストーリーの中で登場人物たちの心の変化を良く捉えています。

 ただ、押しつけがましく感じる短篇もあります。

 主人公たちは、信じるもののために懸命に行動していきます。それはいいのですが、彼らが信じるものが一番正しいと、いかにも金科玉条のように押し付けてくる印象を拭えません。

 

 何が正しくて、何が正しくないか。

 人生において、それを決めることは出来ません。しかし、この結末が一番正しい結末だ、と迫ってくるように感じます。

 

 もちろん、そうでない短編もあります。同じテーマを根柢に流しながら、読後に納得出来るものと、納得できないものが混在しています。玉石混合の作品群です。

  短編ごとに感想を書いていきます。

  

 

「 風に舞いあがるビニールシート」の内容

才能豊かなパティシエの気まぐれに奔走させられたり、犬のボランティアのために水商売のバイトをしたり、難民を保護し支援する国連機関で夫婦の愛のあり方に苦しんだり…。自分だけの価値観を守り、お金よりも大切な何かのために懸命に生きる人々を描いた6編。あたたかくて力強い、第135回直木賞受賞作。【「BOOK」データベースより】

  

「 風に舞いあがるビニールシート」の感想

器を探して

 主要登場人物は3人。主人公の弥生。天才パティシエのヒロミ。弥生の恋人の高典。

 ヒロミは、男関係にだらしなく、気まぐれで、嫌がらせもする。

 高典は、ヒロミの悪い噂をクドクドと言いながら、「僕を選ぶのか、あの女を選ぶのか」と迫る嫌な男。

 

 この二人の間で振り回されている弥生が、何かをきっかけに吹っ切る。吹っ切ったことにより、高典以外の男性と関係を持つことを自然なことと言い切る。その上で、高典ともヒロミともうまくやっていこうとする。

 

 吹っ切ったというよりは、割り切ったとしか感じない。自分の気持ちに正直になったのかもしれないが、不誠実になったとしか思えません。

  

犬の散歩

 自分が出来ることをする。

 そのことのひとつがボランティアです。そして、自分がしているボランティアに誇りを持って取り組むことも大事なことです。

 ただ、ボランティアをすることは、ひとつの考え方に過ぎません。ボランティアをしないことも、別に悪い訳ではない。

 

 また、殺処分される犬や猫に目を向けないことは、いいことではないかもしれないが悪いことと断じることが出来るだろうか。

 動物に対するボランティアより、人間の貧困問題に目を向けろという意見も間違っている訳ではありません。

 イラクの人質事件に対し自己責任論を持ち出すのも、ひとつの意見であり間違っている訳ではありません。

 

 これらのことが、いかにも悪いことのように描かれています。主人公が行っていることは、正しいことかもしれない。しかし、正しいからと言って、自分と意見が違うものを間違っていると言うのは傲慢です。その傲慢さを感じます。

  

守護神

 古典文学に対する造詣の深さを感じさせます。

 「徒然草」「伊勢物語」

  主人公を通じて論じられるふたつの古典文学は、詳細に分析されています。私は、古典文学に詳しくないので、分析が正しいかどうか分かりませんが。

 

 この物語は、社会人大学生の忙しさや苦しさが伝わってきます。特に違和感を感じる部分はありません。社会人をしながら大学に通うのは大変だろう、と言うことが分かります。私も、仕事後に大学に行ってレポートを書けと言われると厳しい。 

 ただ、物語の展開が早々に読めてしまう。回想の「伊勢物語」のやり取りで、結末が読めてしまう。出来過ぎな結末も興ざめしてしまう。悪い結末ではないんだけど。

  

鐘の音

 仏像の修復師。

 あまり聞きなれない職業です。知らない職業のことを知るのは、とても興味深いことです。職業小説ではないので、修復師のことを詳細に説明し切っていません。ストーリーの構成上、必要な修復師の知識を適切に描いています。必要なことは書き、不必要なことは書かない。そのあたりのバランスは、とてもいい。

 

 仏像という神秘的(仏像に神と表現するのも変ですが)な側面と、職業として仏像を修復する現実的な側面。

 現実的な話かと思えば、夢に観音が出てきたり。物語の展開が読めません。先が読めない展開は、読んでいて面白い。

 ただ、結末に至るところで、一気に種明かしする性急さを感じます。

 吾郎の独白で、不空羂索観音の秘密を一気に明かす。全ての辻褄も合うし、潔の人生を納得させる力もあります。ただ、強引な終わらせ方かなと。

 現実的な側面と、仏像の神秘性の合わせ方は見事です。

  

ジェネレーションX 

 これは、作者の決めつけに近い主観が入っていると感じます。

 今時の若者はこうだろう。

 それより上の世代は、若者にこんな感情を抱いているはずだろう。

 そんな先入観を持っているのではないだろうか。

 

 人の素質は年齢に関係ありません。確かに、若者は人生経験が少ない。だからと言って、全ての若者が無責任で適当な訳ではありません。有能で真面目で努力を惜しまない若者も多くます。

 しかし、作者はそのように考えていないのかも。

 石津の仕事ぶりを有能に描くことにより、若者にも意外に出来る者がいるじゃないか、と描いています。若者は仕事も中途半端で、真剣に取り組まないものだという前提なので、ちょっと受け入れがたい。

 

 ただ、途中のストーリー展開は、面白かったです。電話の会話で、読者にいろいろ想像させています。想像する方も楽しい。最後のオチも、都合の良すぎる展開ですが、爽快感があります。

 なので尚更、若者に対するステレオタイプな考え方は残念です。

  

風に舞いあがるビニールシート

 表題作。

 タイトルからは、難民救済をベースにした物語だと想像もしていませんでした。読み終わると、タイトルが意味するところが分かります。

 

 東京にある国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を舞台に、主人公の里佳と恋人(後の夫)エドの物語です。

 物語は、二人の関係の移り変わりを主軸に描いています。その関係性を変化させていく大きな要因が、仕事に対するスタンスです。

 難民救済のために現地に赴き活動することを第一に考えているエド。完全な現場主義です。一方、里佳は、東京のUNHCRから現場に赴く意志はない。

 

 エドは、いずれ現場に戻ること。

 現場に出れば、一年に数日会えるかどうかという関係になると言うこと。

 お互いの仕事を知っているはずなのに、何故、結婚という形を選んだのか。その理由が、愛情よりも身体の相性のように感じてしまいます。

  エドが現地に行った後は、会えない生活の中でお互いの距離が広がっていきます。それも、肉体関係が結べない影響が大きいのでは?と訝しんでしまいます。

 

 また、現地主義のエドは、里佳も現地へ行くべきだと説得します。確かに、現場で働くことは、難民救済のために最も重要なことかもしれない。しかし、里佳のようにバックヤードで働く職員も、同じように重要な役割を果たしています。現場が全てのような印象を与えます。

 

 結末で、里佳はエドが亡くなったアフガンスタンに向かうことを決意します。

 この決意が、亡くなったエドのことを知るために行くのか。

 エドの意志を継ぎ、難民救済のために行くのか。

 後者なら、納得出来る結末です。前者なら、個人的な思いに過ぎない気もします。動機はどちらでも、難民救済は果たせますが。

 

終わりに

 6編の中では、「守護神」「鐘の音」「ジェネレーションX」が読んでいて楽しかった。

 「守護神」は共感出来ましたし、「鐘の音」は仏像修復師という職業を知れたし、「ジェネレーションX」はストーリー展開が面白い。

 他の3編は、押し付けがましく感じたり、登場人物に違和感を感じたりと、あまり引き込まれるものがありませんでした。

 

 同じテーマの作品ながら、ここまで評価に差が出ると思いませんでした。総評としては、期待していたほどではありません。