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『ハケンアニメ!』:辻村 深月【感想】|”いい仕事”がしたい!

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 こんにちは。本日は、辻村 深月さんの「ハケンアニメ!」の感想です。

 

 2015年本屋大賞第3位。アニメ制作を舞台にした職業小説です。読んだ印象は、有川浩さんの小説の雰囲気を感じます。どこがと言われると答えに困りますが。

 制作されるアニメが減った訳ではないと思いますが、子供が見れる時間帯に放映しているアニメは減った気がします。しかし、深夜帯ではかなりの数のアニメが放送されていますし、映画やネットでの配信もあります。録画すれば、放送時間帯はあまり関係ありません。深夜帯に放送することで子供向け以外も制作できるので、むしろジャンルは増えたかもしれません。

 本作は三人の制作者から見たアニメを描いています。それぞれ違う立場から見た制作現場や立場の違いからくる違う考え方に興味を抱いてしまいます。今までおぼろげにしか知らなかったアニメの裏側は興味深い。ワンクールのアニメに潜むドラマはとても深く、かなりのボリュームの小説になってしまうのも仕方ないのだろう。 

「ハケンアニメ!」の内容

伝説の天才アニメ監督王子千晴が、9年ぶりに挑む『運命戦線リデルライト』。プロデューサー有科香屋子が渾身の願いを込めて口説いた作品だ。同じクールには、期待の新人監督・斎藤瞳と人気プロデューサー行城理が組む『サウンドバック 奏の石』もオンエアされる。ネットで話題のアニメーター、舞台探訪で観光の活性化を期待する公務員…。誰かの熱意が、各人の思惑が、次から次へと謎を呼び、新たな事件を起こす!【引用:「BOOK」データベースより】 

 

「ハケンアニメ!」の感想 

ケンアニメ

 「ハケンアニメ」という言葉を初めて知りました。最初に思い浮かんだのは、派遣アニメですが、これが誤りなのは作中で指摘されます。ハケンアニメは覇権アニメのことです。アニメの世界では常識的な言葉のようです。制作者にとっては、非常に重要な言葉になります。

 覇権アニメとは何なのか。何をもって覇権とするのか。制作者たちは覇権アニメになることをどれほど望んでいるのか。

 やはり収益を前提に考えられています。DVDやBlu-rayが一番売れたアニメが覇権アニメと呼ばれる。売上はアニメの人気の反映だろう。一方、人気の一側面に過ぎないとも言えます。販売は子供向けのアニメより大人向けのアニメの方が有利に感じてしまう部分もあります。

 また、覇権アニメ以外のアニメがつまらなかったような印象も与えます。アニメにしろ、映画にしろ、漫画や小説にしろ、人それぞれ受け取り方は違います。人の心に与える感動はそれぞれ違う。

 覇権アニメは収益を前提に考えているので、どちらかと言えば制作者側にとって重要な言葉だろう。制作に関わった人にとっては、目に見えやすい結果が必要なのも十分に理解できます。

 覇権アニメという言葉に正面から異議を唱えるのが監督の王子です。アニメの人気は売上額で判断するのではなく、視聴者にどのように受け止められたかです。ただ、目に見えにくい判断基準は制作者に不安を抱かせるに違いありません。

 王子ですら、視聴者の反応には相当の不安を抱いています。覇権アニメになることは、少なくとも制作者にとってひとつの成果なのは間違いありません。しかし、それだけに頼るのは間違いだと感じます。

 

人の視点

 各章ごとで完結しますが、大きな流れは最初から最後まで通じています。アニメ制作に係わっているのは同じですが、三人の違う視点で描かれています。彼女たちはそれぞれ立場が違います。

 プロデューサーの有科香屋子、監督の斎藤瞳、アニメーターの並澤和奈です。年齢も立場も考え方も違う三人によって物語が描かれます。同じなのは性別くらいだろうか。

 どんな職業でも楽しいこともあれば、辛いこともあります。仕事自体の辛さもあれば、人間関係の辛さもある。人間関係の方が思いどおりにならないから大変だろう。有科香屋子と王子監督。斎藤瞳と行城プロデューサーと声優たち。並澤和奈と宗森周平。それらがアニメ制作と絡まり合い、彼女たちを疲弊させていきます。

 有科と斎藤にとっての成功はDVDやBlu-rayの販売という目に見える形で突きつけられます。結果はアニメが出来上がった後なので、宣伝や広告以外に打つ手がありません。制作に悲壮感漂うほどの努力を注ぐ理由だろう。

 三人の視点は全く違いますが、見ている方向は同じです。アニメであり、それが共通項です。彼女たちの視点は違いますが、根本的には同じなのだろう。 

 

ニメに注ぐ情熱

 三人は現実の煩わしいことに振り回されながらも、アニメに対する情熱は失いません。むしろ情熱があるから続けられる。どんな仕事でも好きであれば、苦労も耐えられます。結果が出れば報われた気持ちになるだろう。結果が出なかったとしても、全てを出し尽くしたと感じることができれば後悔はないのかもしれません。

 有科や斎藤や並澤の情熱が描かれるのは当然ですが、彼女たち以外の登場人物もそれぞれ情熱を抱いています。情熱が強いほど、意見が違う時の衝突は激しい。また、情熱を感じられない人に対しては不満を抱きます。

 ただ、どんな形であろうとアニメに対する情熱があれば、自然と伝わるのかもしれません。周りが気付けるかどうかに尽きますが、気付いてしまえばいろんな部分に情熱を感じるのだろう。 

 他人の情熱を感じるためには、自分自身も情熱を持たなければならない。情熱は相乗効果をもたらし、一層大きくなっていきます。アニメ制作の物語であり、アニメ制作に関わる人たちの情熱を描いていますが、アニメだけが特殊な訳ではありません。どんな仕事であっても情熱を持つことはできます。そのことを表現しているのかもしれません。 

 

終りに

 終盤は都合の良い展開が続きます。全てがハッピーエンドに繋がっていくのは非現実的ですが、気持ち良さはあります。淡い恋愛要素も絡ませることで、人間的な側面も見せています。

 読みやすさもあり、長い小説ですが一気に読み終えることができます。出来過ぎな結末に納得できるかどうかは人それぞれかもしれませんが。