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『飛騨忍法帖』:山田風太郎【感想】|一人の女に殉じた飛騨忍者の凄絶

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 こんにちは。本日は、1960年に発表された、山田風太郎氏の忍法帖シリーズ「飛騨忍法帖」の紹介です。

 

 舞台は幕末。主人公「乗鞍丞馬」は飛騨幻法を使う忍者です。幕末の近代化の中で忍者はどこまで存在感があるのでしょうか。忍術の圧倒的な強さと近代兵器の戦いです。

 物語は、丞馬の主人であり、美也の夫でもある「宗像主水正」の仇討ちが主軸です。愛情と憎悪が交錯するドロドロした人間劇であり、幻法は仇討ちの手段です。丞馬がどのような思いで仇討ちに関わっていくのか。

  • 丞馬と美也の関係。
  • 主水正を殺した五人の旗本。
  • 飛騨から丞馬を追いかけてきた五人の飛騨衆と五人の女。

 様々な人間の思惑が複雑に絡み合います。

 丞馬は強気と自信に満ち溢れた男でした。しかし、主水正との戦いに負けた後、丞馬は主水正の若党になります。その変貌ぶりに驚きます。主水正に勝てないと悟ったからなのか、美也とともにいる唯一の手段と考えたのか。丞馬の真意は掴みがたい。

 勝安房(海舟)や坂本龍馬、岡田以蔵、新選組の芹沢鴨、近藤勇、土方歳三など歴史上の人物や生麦事件や蛤御門の変など歴史上の事件と幻法というフィクションの組み合わせが面白い。 

「飛騨忍法帖」の内容

維新の立役者たちを巻き込んで、飛騨忍法が炸裂する大歴史ロマンが蘇る!その影に、忍者が抱いた美しい女への一途な愛があった。【引用:「BOOK」データベース】  

 

「飛騨忍法帖」の感想

騨幻法

 雑誌連載時は「飛騨幻法帖」。単行本刊行時は「飛騨忍法帖」。文庫版では「軍艦忍法帖」とタイトルが変遷しています。忍法帖シリーズとしてタイトルを合わせたのかもしれません。タイトルは変わっても、作中で丞馬が使うのは幻法です。

 丞馬が忍者らしくないのは、彼に忍者らしい使命感や言動がないのも理由です。忍法と幻法の違いははっきりしませんが、忍法のひとつに幻法があるというイメージです。

 丞馬が使う幻法は、飛騨五幻の法です。

  • 第一 断鉄幻法
  • 第二 水紗幻法
  • 第三 山彦幻法
  • 第四 飛魂幻法
  • 第五 死恋幻法

 飛魂幻法と死恋幻法は、丞馬が生きているかどうかの違いで同じようなものです。主水正に切り落とされた左腕も飛魂幻法で動いている。水紗幻法と山彦幻法はいかにも幻法らしい技ですが全体的に地味な幻法が多い。忍者の技に派手さは要りませんが、物足りなさがあります。

 近代兵器を使う旗本相手にいかに幻法を駆使して戦っていくかが読みどころです。忍術同士の戦いとは違って新鮮味はあります。ただ、忍法のインパクトが薄い気もします。攻撃に使う幻法が数少ないことも理由でしょうか。飛魂幻法がほとんどで、水紗幻法の変形として火を吹いたくらいです。飛魂幻法も髪の毛を使うことが多い。段々と戦い方が固定化されてきます。

 行き当たりばったり的な行動が多いことも理由です。美也に従うとしても、忍者らしい冷静さや計算を感じません。幻法自体はすごいかもしれませんが、丞馬自身の行動に凄さを感じない。そのことが幻法を小さく見せてしまいます。

 

人の男と女と男

 主水正の仇討ちの相手は五人の旗本です。飛騨から出てきた五人の飛騨衆と女が絡み、それぞれの思惑を交錯しながら、物語は進みます。中心は、旗本五人と丞馬の戦いです。飛騨衆と女たちは戦いに巻き込まれ、時に事態を動かします。

 旗本といっても時代は幕末です。剣で戦う時代は終わりつつある。彼らは近代兵器の使い手になっていきます。

  • 宇陀久我之介は、騎馬隊
  • 鴉田門五郎は、コルト拳銃
  • 筧伝八郎は、シャスポー銃
  • 玉虫兵庫は、ナポレオンカノン砲
  • 烏帽子右近は、軍艦

 必ずしも丞馬を直接殺すことに向いているものばかりではないですが。しかし、剣と幻法という構図でないところも面白みのあるところです。

 主水正は丞馬との対戦で見事に左腕を切り落としています。彼の強さは自他ともに認めるところだったのでしょう。だからこそ、五人は銃を使った闇討ちに出ます。主水正を確実に殺す唯一の手段だったのかもしれません。闇討ちが五人を悪人にして、その後の美也の行動を決めます。同時に丞馬の行動も。

 五人の旗本は、闇討ちとはいえ主水正を殺しています。正面から戦えば丞馬と言えども勝てるかどうかは分かりません。幻法を使うからと言って圧倒的に有利な立場ではない。五人の旗本と丞馬の戦いには常に緊張感が生まれます。旗本たちは丞馬と美也の仇討ちに対抗しながらも、当初の目的も忘れません。美也を手中に収めることです。それが旗本たちの強さの一因です。

 五人の女たちは、美也と丞馬の関係性を動かします。丞馬の本性は女好きです。女たちはそのことを身体で知っています。美也ほどの美人に手を出さない理由が全く分からない。美也が見る丞馬女たちが見る丞馬は全く違います。美也の見る丞馬は本当の丞馬なのか。彼の真意はどこにあるのかが見えてきません。

 

馬の真意

 丞馬が考えていることは、一体、何なのか。物語が進むにつれ見えなくなります。

 江戸で飛騨幻法を世に知らしめるという野心溢れた忍者でしたが、主水正に敗れ、美也と出会ったことで別人のようになってしまいます。主水正に対する忠誠からなのか、美也に対する愛情からなのか。

 当初は主水正を倒し、美也を奪おうと考えます。しかし、勝負に負けたことに加え、美也の心は主水正以外に一切向かない。そうなれば、丞馬は主水正に仕えることで美也の側にいることを選んだのかもしれません。

 丞馬の本心は本当に見えにくい。美也に対する愛情はありますし、丞馬自身も認めています。しかし、心の奥底に秘め続けることも決めています。主水正が殺された時に、美也を無理やりにでも奪うという選択肢もあったはずです。美也が主水正を愛し続けていたとしてもです。丞馬はそれを選ばずに、美也の仇討ちに同行します。

 丞馬の気持ちの行き先はどこなのか。五人の旗本を殺すことは美也の願いです。願いの強さは美也の主水正に対する想いの強さです。丞馬の中には、美也に対する愛情は消えていません。死恋幻法でも分かります。丞馬の本心は分かるが、彼の行動に消化不良感が残ります。 

 

史と絡まる

 幕末が舞台なので、登場人物も聞き知った顔ぶれが登場します。勝安房は物語に大きな影響を及ぼす主要な登場人物です。現実の歴史での存在感を活かしながら、フィクションの物語にうまく組み込んでいます。坂本龍馬も登場しますが、あまり活躍しません。インパクトの強すぎる人物を活躍させると、丞馬が霞むからかもしれません。

 新選組の芹沢鴨も存在感が強い。物語を大きく動かす人物として登場します。旗本五人がまともに見えるくらいの悪人ぶりです。旗本たちが絶対的な悪人ではなく、普通の人であることを描くためでしょうか。闇討ちという手段に出た彼らは悪人だが、愛憎渦巻く中でのやむを得ない選択肢だったのでしょう。

 実在の人物を登場させ、現実の江戸や京都を舞台にし、混沌とした時代を描きます。フィクションと事実の組み合わせは幻法という非現実に現実感を持たせることができたでしょうか。

 

終わりに

 全体的に地味な印象です。幻法が主人公でなく、あくまで美也の仇討ちを巡る愛憎劇です。ドロドロした人間模様が描かれます。丞馬がはっきりしないので、どこか上辺だけの印象を受けます。苦悩しているのは分かりますが、そこまで自身を殺して行動し続けることができるでしょうか。

 物語の中心は美也と五人の旗本です。忍法帖というタイトルどおりに忍法の活躍を期待すると、肩透かしを感じます。一気に読み進めるほどの面白みがあったかどうか微妙です。