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『星をつなぐ手 ー桜風堂ものがたりー』:村山早紀【感想】|町の書店が消えた時、失ったものの大きさに気付くのだろうか

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 第14回本屋大賞5位の「桜風堂ものがたり」の続編。桜風堂で働くことになった月原一整のその後だけでなく、銀河堂書店の書店員たちのその後も描かれています。書店員である彼らを描くことで、町の書店が置かれている厳しい現状をテーマにしているのは前作と同様です。

 新しい登場人物が加わることにより、違う視点で書店を見ます。各話ごとに語り手となる人物が入れ替わり、書店に対する思いや現状に対する憂いなどが様々な角度から描かれます。共通するのは書店に対する深い愛情です。町の書店に対する思いです。彼らの純粋な思いは、前作同様に心を暖かくします。 

「星をつなぐ手」の内容

もし祈るのなら、この優しい人が幸せであるように祈りたい。寂しい思いも悲しい思いもせずに、泣かないで済むように…。【引用:「BOOK」データベース】 

「星をつなぐ手」の感想

れぞれの思い

 書店に対する思いは人によって様々です。書店に便利さだけを求める人もいれば、便利さ以上のものを求めている人もいます。本作は、後者に属する人たちの視点で描かれています。

 書店は書籍を売る場所です。ドライに考えれば、それ以上でも以下でもありません。しかし、書店にはそれ以上のものがあるはずだと訴えてきます。書店は、書籍と読者を繋ぐ店舗に過ぎません。本棚や平台に書籍を並べ、お客がそれを購入する。そこには書籍とお金の交換という事象しかありません。ただ、それだけを書店に求めるのであれば、オンライン書店と何ら変わりません。書店とオンライン書店との大きな違いは、書店員の存在です。彼らの存在により書店は単なる店舗以上の意味を持ちます。書店員の思いが、書籍と読者の間に入ってくるからです。 

書店員の存在が、書籍に書籍以上の意味を持たせるのでしょう 

 彼らが扱う書籍に、彼らの思いが乗っかってくる。それぞれの書籍に対する思いは、書店員によって違ってきます。書店員は、時に作家の思いまでも代弁することがあるのかもしれません。書籍は読んでもらわないと意味がない。作家がどれほどの思いを込めて執筆した本であっても、読者に届かなければその思いは伝わりません。本棚や平台に並べているだけでは伝わることはありません。手に取ってもらうために、書店員は様々な努力をします。単に利益を上げるためだけに書籍を売ろうとするわけではないのでしょう。

 もちろん商売なのだから、本を売り利益を上げなければなりません。しかし、書店員にとっては、それだけではないのでしょう。多くの人に読んでもらいたいと感じた書籍を、より多くの人に届けたい。その気持ちが彼らの行動の原点にあるのだと感じます。書店員に限らず、誰だって自分が好きなものを人に知ってもらいたい。書店員は、作家の思いに自分の思いも加えて本を売ります。ある作家の同じ本であっても、書店員が100人いれば100通りの思いの乗せ方があります。同じ本であっても、書店員の数だけ本の見え方が違ってくるのかもしれません。 

店の未来

  町の小さな書店は、姿を消していくばかりです。子供の頃は、歩いて行ける範囲に小さな書店がいくつかありました。文房具も一緒に売っているような書店です。文房具を買いに行くついでに立ち読みをしたり、週刊誌を買ったり。行けば友達と出会い、そのまま遊んだり。書店は本を売る以外にも、いろんな意味で重要な場所でした。そのころは大型の書店は都会に出かけないとなかったですし、コンビニも今ほど多くなかった。自然と近場の書店に人が集まってきます。書店は、駄菓子屋と同じく足繁く通う場所でした。

 小さな書店が苦しくなってきた理由はいくつもあると思います。昔は、今ほど書籍の出版点数が多くなかった。だから、ある程度小さな書店でもニーズに応えられたのでしょう。大型店舗は、専門書や発行部数の少ない書籍も取り扱います。大型書店と小さな書店で役割が違ったのでしょう。現在ほど出版点数が増えてしまうと、小さな書店では扱いきれません。お客のニーズも多様化の一途を辿れば、店舗に並べる書籍の選択も難しくなってしまいます。

 加えて、ネットでの無店舗販売が実店舗にとって脅威になってます。売り場面積が限定されないオンライン書店では、取り扱える書籍の種類が全く違います。もちろん、オンライン書店でも在庫のないものは、発注してから手元に届くまでそれなりの時間を要することもあります。その点は実店舗と変わりません。しかし、家からパソコンを通じて注文できる便利さに実店舗は敵わない。購入する書籍が決まっているならオンライン書店が便利ですし、在庫があれば数日で手元に届きます。今日中に欲しいとかでなければ、実店舗を利用することを選ばないでしょう。出版点数の増加に伴い、小さな書店では取り扱っていない書籍の方が多い。購入する本が決まっている人にとって、小さな書店は魅力あるものになりません。  

を思いやる

 一整を始め、登場する人たちは総じて人を思いやる気持ちに溢れています。書店や書籍に対する思いは、そのまま人に対する思いにも繋がっています。書籍に対して愛情を注いでいる彼らは、周りの人々にも愛情を注いでいる。時に自らの気持ちを隠してまで。

 前作同様に、恋愛要素はそれほど強くありません。苑絵や渚砂が抱く一整への思いは、あくまで純粋に描かれています。友達同志で同じ男性を好きになれば、ドロドロとした恋愛模様が描かれていくこともあります。本作ではそういうことにはなりません。その陰には渚砂の葛藤がある訳ですが、彼女の苦しみを知らない苑絵に罪はありません。渚砂の気持ちに気付いた純也の思いやりも優しい。純也と一整のわだかまりも消えていきます。

 微妙だった人間関係は落ち着くところに落ち着いていくことになるのですが、渚砂の存在が大きかったように感じます。一方、彼女の葛藤は辛く映ることになります。純也の存在が、渚砂の心の支えになったのだと思いますが。恋愛に発展するのかなと期待してしまいましたが、そこまで描かれていません。

 彼らを取り巻く淡い恋心は、年齢の割に幼く見えてしまいます。真剣であればあるほど、慎重になり過ぎて動けなくなるのも事実かもしれません。直接的に思いをぶつける恋心がある一方で、心に秘めておく恋心もある。幼いのではなく、これも真実のひとつなのでしょう。  

麗過ぎた?

 純粋で心が温まるストーリーなのは冒頭に書いた通りです。前作以上に、登場人物たちの純粋さが際立ちます。その分、綺麗過ぎて現実感が薄くなってしまいます。書店の置かれている現状など、事実に基づいた設定は現実的です。ただ、登場する人物たちに悪意が存在しません。どんな人間でも二面性がありますし、善意がある一方で悪意が存在するのが世の中です。

 前作では万引きを捕まえた一整が、世間の悪意に晒されて銀河堂書店を去ることになります。世間の目は、どちらが正しいかで判断しません。明らかな非が万引き犯にあるとしても、世間はあらぬ方向に向かっていきます。全てが悪意に基づくものかどうかは分かりませんが、少なくとも悪意が混じっていたことに間違いありません。その出来事があったからこそ、一整を始めとする書店員たちの純粋さが伝わってきました。 

悪意があったから、現実的な物語として受け止めることができた

 本作において悪意は存在したのでしょうか。桜風堂に「紺碧の疾風」を配本しなかった大手版元の営業でしょうか。来未をデビューさせようとした編集者でしょうか。どちらも悪意からの行動というよりは、市場原理からの行動だと感じます。大手版元にしてみれば、確実に売れる書店に配本するのは当然の判断です。発行部数に限りがあり全ての書店に行き渡らないとなれば、どこかを切り捨てる必要があります。その判断として彼は間違っていたのでしょうか。一整は、過去の付き合いを元に判断しています。一整の立場が変わったことで配本しない営業を悪のように描いていますが、営業の判断は利益を求める企業として正しいと思います。

 来未の関わった編集者も同様ではないでしょうか。最初から来未をデビューさせるつもりもなく、彼女に接触した訳ではないでしょう。来未の作ったものを市場が求める形に変えた上で売り出すことを、最初から考えていたのかもしれません。そのことを最初から来未に伝えなかったのは誠実ではありません。だからといって、彼が悪だと断じること出来ません。

 彼ら二人を悪意の存在として描いています。彼らを悪意に感じなければ、登場する人たちは全員善意に満ち溢れ、書店の未来に心を砕く人物ばかりになってしまいます。前作での悪意は、SNSを通じた世間の風聞という大きな存在でした。個人的な悪意を書かずに、一整を追い詰める悪意を明確に描いていました。本作では、彼らを取り巻く悪意は描かれていません。書店の置かれている閉塞した現状が、彼らにとって立ち向かう壁なのでしょう。立ち向かう善意に溢れた彼らからは、綺麗過ぎる理想ばかりが目立ちます。 

終わりに

 前作同様に、読後は心地よい気持ちになります。書店の現状に対する著者の危機感も感じます。便利さを求めれば、小さな書店はいずれ姿を消してしまうでしょう。同じ書籍を扱うのだから、オンライン書店も大型書店も町の書店も同じです。読者に書籍を届けるという目的は同じなので。

 どこまで利益追求に走るのか。どこまで書店員の気持ちを伝えることが出来るのか。便利さだけで判断してしまって町の書店が姿を消した時に、私たちはどのように感じるでしょうか。特に何も感じないのか。それとも町の書店を思いだし、失った事に後悔するでしょうか。少なくとも無くなってしまえば、復活させることは出来ないでしょう。すでに町の本屋は消えていってます。そのことに寂しさを感じているのならば、消えていい存在ではないのでしょう。