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氷菓:米澤穂信【感想】|古典部シリーズの原点。登場人物の個性が溢れ出す

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 「古典部」シリーズの第一作。高校一年の折木奉太郎を主人公にした学園推理小説です。当初、角川スニーカー文庫から刊行されていますので、ライトノベル系のミステリー小説という位置付けなのでしょう。推理小説と言っても、高校が舞台なので人が死ぬことはありません。高校生の日常をベースにしていますので、あまりに非日常的な事件も起こりません。そもそも事件と言えるのかどうか。かと言って、高校生の誰もが出会うような謎ではありませんが。

 「氷菓」では、冒頭に場面設定や登場人物の設定などを兼ねた小さい謎がいくつか出てきます。その謎を解きながら、折木奉太郎を始めとする主要な登場人物を紹介していきます。そのまま、謎解きを繰り返していくのかと思っていると、本編とも言える謎が登場し解明へと進んでいきます。

「氷菓」の内容

いつのまにか密室になった教室。毎週必ず借り出される本。あるはずの文集をないと言い張る少年。そして『氷菓』という題名の文集に秘められた三十三年前の真実―。何事にも積極的には関わろうとしない“省エネ”少年・折木奉太郎は、なりゆきで入部した古典部の仲間に依頼され、日常に潜む不思議な謎を次々と解き明かしていくことに。【引用:「BOOK」データベース】  

「氷菓」の感想

古典部とは?

 物語の発端は古典部への入部です。本作の冒頭は、奉太郎の姉「供恵」の手紙です。姉の「古典部に入部しなさい」という一言から始まります。ただ、古典部とは一体どのような部活動なのかよく分かりません。古典文学に関わる文科系部活動を想像します。当たらずとも遠からずと言ったところでしょうか。具体的に、どのような目的でどんな活動をしているのかは明確にされていません。少なくとも文科系ということだけは間違いありませんが、奉太郎自身もよく分かっていない。相当の歴史を持っているのに、現在は廃部寸前。伝統と歴史がある割に正体不明。掴みどころがありません。 

古典部の存在だけで、ミステリー感が醸し出されています 

 本作は、古典部が過去に作成していた「氷菓」という文集が鍵になります。古典部が文集を作成していたことから文芸的な活動を主としていたのでは、と匂わせます。それ以上の活動実績を示すものは出てきません。文集も中身すらよく分からない状況です。本作では、中身はそれほど重要な要素になっていないこともありますが。

 「古典部」という言葉だけで活動内容が把握出来ない。なので、所属する奉太郎たちの行動が全て部活動と言えなくもない。奉太郎たち古典部部員の行動自体が、部活動そのものになってしまう。自由な行動をしているように見えながら、部活動という枠に収まる。古典部は奉太郎たちの行動を学校生活の一環のように見せながらも、ミステリアスな雰囲気も与えます。  

 

奉太郎とは?

 物語は古典部部員の4人を中心に描かれますが、4人とも個性的で魅力的です。一言で言い表すのが難しいのですが、読み進めていくほどに彼らに引き込まれていきます。ストーリーにも引き込まれますが、彼らの魅力にも惹かれていくのです。

奉太郎のモットーは

やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことは手短に 

 必要なことをやらないと言ってませんが、高校生にしては冷めていると思わせます。不必要な労力を惜しむのは誰もがそうでしょうし、それを公言しているに過ぎないのかもしれません。ただ、高校生はもっと無駄で不必要なことに熱意を向けてしまうものだと思うところもありますが。

 そんな奉太郎が、やる必要のないことに巻き込まれていく。不必要なことから距離を取ろうとすればするほど中心になっていく。その過程が面白い。

 ただ、奉太郎は巻き込まれていくことを不本意に思いながらも、周りに流されている訳でもありません。自らの意志で流されているようにも見えます。巻き込まれることと、巻き込まれないようにすることのどっちが効率的か。それを天秤にかけて判断しているに過ぎません。結果的に巻き込まれていますが、奉太郎の計算の結果とも言えます。 

計算だけでなく、彼の気持ちが含まれているところも多々ありますが。 

 落ち着き過ぎで高校生離れしている印象もありますが、それほど突飛な言動をする訳でもない。彼の推理もあまりに常人離れしている訳でもない。謎解きがされれば納得してしまいます。

 奉太郎とともに古典部に所属しているのは、千反田える・福部里志・伊原摩耶花の3人。物語は、奉太郎を含む4人で進んでいきます。奉太郎にとって里志は友人、摩耶花は幼馴染です。千反田は古典部部員として知り合います。千反田が豪農「千反田家」の令嬢という設定なので、庶民の奉太郎がペースを乱されるのも分かります。里志や摩耶花では奉太郎はマイペースを維持していますが、千反田にはペースを乱されています。奉太郎と千反田の関係はとても面白い。視点が奉太郎なので、千反田・里志・摩耶花の人物像は、全て奉太郎の主観で描かれています。奉太郎自身が魅力的に描かれているので、彼が見る千反田たちも魅力的に映ります。 

 

氷菓とは?

 小説のタイトル「氷菓」が、謎の鍵になっています。前半に奉太郎が身近で些細な謎を解明していくことで、彼の推理力を印象付けています。奉太郎は推理力と言うよりはひらめきや運と思っているようですが、周りはそのように受け止めていない。そのことが、千反田から過去の謎の解明を依頼されることになってしまう訳ですが。

 探偵のように積極的に動き回って証拠を集め、証言を聴き、謎を解明する。そのようなことはしません。出来る範囲で動き、その範囲内で推理する。高校生の行動として相応しい。派手に動きあちこちから証拠が見つかっていくと言うのは、あまりに出来過ぎな印象を受けてしまいます。4人で物証を持ち寄り、4人で推理する。古典部の部活動の一環のような印象を受けます。

 33年前の学校の事件と千反田の叔父の関係。古典部が文集を「氷菓」と名付けた理由。様々な謎が収束し、ひとつの結論を導き出します。答えを知った時に、様々な伏線が仕掛けられていたことにも気付きます。都合の良過ぎる点もあるのですが、それほど気にならない。それよりは納得感の方が大きい。すんなりと結末に至らないあたりも、読み応えがある一因です。

 ミステリーなので詳細は書きませんが、結末は物悲しい印象を受けました。 

終わりに

 ライトノベル的な雰囲気が漂うのは事実です。ただ、恋愛要素が際立つ訳でもないですし、ご都合主義でもない。登場人物を魅力的に設定し、謎解きにも無理がありませんん。文章も読みやすく、難解な言葉も使われていません。解決すべき事柄が千反田の個人的な出来事なので謎が解決した時に達成感があるかどうか、という問題はあります。謎解きに納得は出来ますが、その謎が果たして解決すべき事柄であったのかどうか。そんなことを言ってしまうと、小説の前提が崩れてしまいますが。殺人事件だったら犯人を捕まえる必要があります。では、千反田の思い出を掘り返すのは必要なことなのか。その必要性の曖昧さが、奉太郎の行動に影響を及ぼしているのも事実です。逆に、絶対的な必要性がないからこそ、彼らの行動に面白みが出ているのだと思います。