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『君にさよならを言わない2』:七月隆文【感想】|幽霊たちとの出会いが切なさと温かさを溢れさせる

 「君にさよならを言わない」の続編。続編なので登場人物や設定は引き継いでいますが、短編集なので前作を読んでいないと理解できないということはありません。ただ、前作を読んでいるのといないのとでは、受け止め方が変わってくるはずです。前作を未読の方は、まずは前作から読むことをお勧めします。

 設定を引き継いでいますので、ストーリーの構成は大きく変わっていません。幽霊が視える高校生「明」がこの世に心残りを持った幽霊を成仏させる。定型化したストーリーの短編を繰り返すだけでは、いずれ感動も薄れてきます。その点、本作は根底に流れるものは変えずに、ストーリーにバリエーションを持たせています。読者を飽きさせない力を感じます。

「君にさよならを言わない2」の内容 

幽霊が視えるようになったぼくは地縛霊の館川小梅さんと出会う。娘が今どうしているのか知りたいけどここから動けない…そんな小梅さんに頼まれ、代わりに会いに行く。そしてぼくは知ることになる。娘の鴬さんがずっと母親を憎んでいること。そこには、娘を想う母の愛が隠されていることを。【引用:「BOOK」データベース】  

「君にさよならを言わない2」の感想 

霊も個性がある

 人に個性があるように、幽霊にも個性があります。人のように性格が違うのはもちろんですが、幽霊としての立場の違いです。前作では幽霊として一括りでしたが、本作は違います。地縛霊や生霊といった属性の幽霊が登場します。幽霊たち自身の個性に加え、地縛霊としての制限や生霊の恐ろしさなど存在自体の個性もストーリーに大きな影響を及ぼします。

 幽霊たちが心残りを取り除けないのは、心残りの原因となる人と直接コミュニケーションが出来ないからです。明が媒介となって心残りを解消しなければなりません。前作ではそうでした。本作でも基本的に同じですが、地縛霊や生霊という足枷が加わります。

 また、前作の幽霊は全員女子高生でした。明が高校生なので、女子高生の方が話を作りやすいということがあったのかもしれません。本作においても、幽霊は全員女性です。ただ、20代半ばの母親や子供の生霊など、幽霊にも多少のバリエーションが出ています。各短編の幽霊を際立たせることで、目的が同じ短編を繰り返していく割に飽きが来ません。短編という限られたボリュームの中で違いを出そうとする著者の意図が読み取れます。  

トーリーの多様さ

 幽霊に多様さが出れば、物語にも多様さが出てきます。前作では、各短編とも幽霊の望みを叶えるストーリーでした。本作も基本的には同じです。ただ、悪霊じみた生霊を登場させることで幽霊と対決したり、地縛霊の苦しみを描いたりしながら単調さを避けています。

 明と幽霊の関係も各短編で違いが出ています。前作では明と接触した幽霊は、彼に助けを求めました。今回は明確に助けを求めなかった幽霊もいます。近づくなと警告を与えたり、通りがかっただけのような幽霊もいます。見えてしまった以上、明は関わっていく訳ですが、積極的だったり消極的だったり対応も様々です。 

明も高校生に過ぎないのだから、これくらい揺らいでいた方が納得できます。 

 今までは幽霊との接触は明がメインでしたが、様々なきっかけで幽霊と深い関係にあった人々も幽霊と接触していきます。様々な状況が様々な展開を作り出していきます。 

「柚」の存在

 明と柚の関係は、前作から続くもうひとつの物語です。明の家庭の複雑さは一言では言い難い。柚は義妹であり、血の繋がりはありません。ふたりは法律上では兄妹でありながら、生物学上の兄妹でない。明が抱く柚への感情と、柚が抱く明への感情には大きな隔たりがあります。柚が抱く明への感情は、前作から明確です。明らかに兄に対する感情でなく、恋愛対象としての感情です。明が気付かないのが不思議なほど態度と言葉に出ています。あからさまなくらいです。そんな柚の気持ちを逆撫でするかのような明の言動に、柚のことが可哀想になってくるくらいです。

 明にとって恋愛感情を抱いているのは桃香です。柚は妹としての存在以上には成り得なかったのでしょう。明の心から桃香の存在が消えない限り、柚の心に気付くことはない。加えて柚は義理とはいえ妹です。一人の女性でなく、妹と言う立場が立ち塞がるのでしょう。 

ある意味、他人よりも残酷かもしれません。 

 桃香がいなくなり明の心に区切りがつけば、もしかしたら柚との関係も変わるかもしれません。ただ、本作においても桃香は登場します。桃香に対する想いが過去のものになるのでしょうか。そうなれば、明と柚の関係が進展する次作もあるかもしれない。  

終わりに

 幽霊が視えるというありふれた設定は前作と変わりません。短編集なので、同じ設定での物語が何編も続いていくことになります。主人公は高校生なので、行動する世界も限られています。飽きてもおかしくありません。ところが、読み進めていってもそれほど飽きてこない。物語にバリエーションを持たせているからです。

 一話完結でありながら、前作で解決したはずの芹沢桃香を登場させることも意外性を感じさせます。また、前作から引き続いている明と柚の関係も、読者を引きつける要因かも。明と柚の関係を考えると、続編が有りそうな気もします。二人の関係に焦点を当てた続編であれば気になるところです。ただ、幽霊が視える設定で何作も続けるのは難しいかとも思いますが。少なくとも、本作は十分楽しめました。