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『魔法のコンパス』:西野亮廣【感想】|ドキドキしながら仕事してる?

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 西野亮廣の本は「革命のファンファーレ」に続き2作目です。出版順で言えば、逆になります。基本的に同じような内容のことが多く書かれています。それだけブレないということかもしれません。彼の生き方の根本を「指針」という形で表現しています。納得や感心する部分がある一方、ちょっと違うと感じる部分もあります。受け取り方は人それぞれだから当然ですが。彼自身ではないのだから、彼の生き方に100%共感することもないでしょう。

 彼の思想や生き方や経験談が書かれている自己啓発本です。一般化された法則ではありません。そもそも一般化しようと考えていないかもしれません。彼独自の偏った考え方の印象も拭いきれません。

 元々、人に好かれようと考えていないでしょう。敵だろうが味方だろうが注目されることを第一に作戦を立てています。

 1章から4章までを43項目に分けて書いています。ひとつの項目が短く、その中でそれぞれ結論があります。読みやすいが深みがなく表層的に感じます。彼の考え方自体に深みがない訳ではありませんが、表現しきれていないのでしょう。経験から得た結果に対する考察は実践的ですが、理論的かどうかは微妙です。実践だから面白いと言えますが。

 共感した部分、何とも言えない部分、違和感がある部分。様々です。 

「魔法のコンパス」の内容

漫才師、絵本作家、イベンター、校長、村長、ついには上場企業の顧問にも就任!肩書きを自由に飛び越える芸人界の異端児が書く“レールからハミ出す人のためのビジネス書”。

「自分だけの仕事の作り方・広げ方」、「本当のお金の話」「常識の覆し方」「エンタメの仕掛け方」まで必読!【引用:「BOOK」データベース】

 

「魔法のコンパス」の感想

1章 向かい風はボーナスチャンス

 「生きづらさ」を向かい風と表現しています。生きづらさを「解決すべき問題があるかどうか」と定義します。解決すべき問題があればやりがいになる。しかし、生きづらさの理由は様々です。理由次第では、ボーナスチャンスになどなりません。根拠のない差別や精神的・肉体的なハンディキャップなど、本人の努力で解決しきれないものもあります。一言で「生きづらい」とまとめてしまえる程、単純ではありません。

 言おうとしていることは分かりますが、「生きづらさ」の理由を論理的に説明する必要があります。漠然としていて、捉え方次第では反感を買いかねません。

 芸人としての彼の人生は、彼自身のものです。それを土台に書かれているので、一般化されていない部分が多い。「10点を60点にする無意味さ」や「70点を120点に伸ばす必要性」については理解できます。オールマイティなゼネラリストが生き残れず、他人にない特別さを持つ人間が生き残れるのは当然ですし、そういう時代になることも納得できます。

 一方、ヨットの追い風の話は微妙です。どの方向からの風でも前に進むのは、あくまでヨットの話です。そもそも風を自分で起こすことは難しい。では、風が起きるまで待つのでしょうか。風があってもなくても人生は進みます。問題は風の有無ではなくて、目的地の把握ではないでしょうか。風は移動手段に一つに過ぎません。風がなければ違う方法を考えるのが人生だと思います。

 ハロウィンのごみ問題のアイデアは面白いし、彼は実践しています。あくまでキンコン西野の発信力で実現したことだと思います。一般人が同じことをして同じ結果が出せたかどうか。彼は自身の影響力を十分に把握し行動しているのであって、そこから一般人である我々が何を見出せるかどうかでしょう。

 

2章 お金の話をしよう

 お金を稼ぐために、お金の正体を知ることは重要です。重要だからテーマに取り上げられることも多い。好きなことをしてお金を稼ぐ時代が来るのは、AIが発達することである程度実現するのでしょう。

 ただ、挙げられている事例はあまりに特殊に感じます。お金を稼ぐために信用を積み重ねるのは重要なことです。積み重ねが周りの評価になり、評価される人が必要とされます。信用に加えて代替性のなさも重要ですが。

 ホームレス小谷の話は結果論です。彼が最初から信用を得ようとしていたどうか。ビジネスモデルを考えていたどうか。信用=お金の実例として紹介していますが特殊過ぎます。これからの時代の変化に対応するための指標を示すには、一般的な事例で納得させる必要があります。遠い世界の出来事のようで他人事に感じます。信用は重要な話ですが。

 必要なモノになるのではなく、必要なモノにするというのは新鮮な発想です。必要なモノを作るのではなく、作ったものを必要なモノにしてしまう。もちろん、全く必要でないものならどうしようもありませんが。必要なモノでも必要なモノと認識してもらわなければなりません。

 

3章 革命の起こし方

 項目が多いので、共感できる部分とそうでない部分が入り混じります。革命の起こし方として、

  • SNSの使い方
  • 天才万博
  • 完全分業制
  • チーム力の最大化

など、新しい視点でのビジネスの仕方が紹介されています。革命というよりは、ビジネスモデルの話です。

 彼の現状分析が正しいかどうかも重要な問題です。ネタバレと確認作業、マズ味調味料、授業中のスマホ禁止などの現状分析は正しく見えますが、彼の感覚的な印象が根拠になっているのではないでしょうか。

 スマホは活用すべきツールなので、一様にスマホ使用禁止するのではなく授業に取り入れるべきという意見は理解できます。問題は方法やルール作りです。「スマホを使え」は簡単に言えます。それをどのように取り入れるのか。どこまで教師に求めるのか。

 すでに教師は疲弊していて限度があります。何もかもを教師に押し付け、できなければ教師の責任にするのは酷です。教師の現状を分析せずに言うだけでは無責任に見えます。教え方も工夫すべき事柄なのは分かりますが、教師に期待すべきこととそうでないことの区分が先ではないでしょうか。要望だけを言い続けるのは無理な話です。

 イジメと戦争についても違和感があります。イジメは簡単には無くなりません。イジメの要因は複雑ですし、人が集まれば大なり小なりイジメは発生します。子供に限ったことではありません。イジメ=娯楽は合っているかもしれませんが、一面からの見方であり、そこまで単純ではありません。イジメをする気を起こさせないのは重要ですが、イジメ以上の娯楽に行き着く発想に違和感があります。イジメがストレス発散のひとつであるなら、娯楽を提供して解決するとは限りません。

 戦争も同様です。世界は一言で言い表せるほど単純でありません。断言するのは危険で共感できません。

 

4章 未来の話をしよう

 未来予測は人によって差があります。著者の考える未来は、理解・納得できる部分が多い。近未来予測だからでしょう。現状の問題点を分析した上で、

  • このようにしたら良い
  • このように変わるべき
  • このように変わる

と言った感じです。セカンドクリエイターはすでに始まっています。未来の話ではありません。加速するのでしょうか。違う方向に進むのでしょうか。ブログ、Twitter、インスタ、YouTubeと移り変わっています。セカンドクリエイターが使うプラットフォームこそが重要です。セカンドクリエイター時代の次はどうなるのでしょうか。

 前田裕二との会話の中で登場したスナックの話も、元々注目していたのは前田裕二ではないでしょうか。前田裕二がスナックに注目することで「SHOWROOM」が生まれています。著者は、前田裕二の考えに乗っかったような印象を受けます。

 全体的に自身が行ったイベントや企画のエピソードが多い。成功例を引き合いに出し、自身の企画力が未来を捉えていたと言いたいのでしょう。成功例ばかりで読んでいて疲れてます。そもそも成功例よりも失敗例の方が役立つことが多いので、そちらを知りたい。

 未来を読み取ったのではなく、一部の人々に元々存在した欲求を満たしただけに感じます。彼の行動が未来の姿かどうか判断しづらい。体験談でなく、論理的に考察し一般化されれば納得できるでしょう。

 

終わりに

 読みやすさが内容の薄さに感じます。納得感のあることを分かりやすく解説しているようには読み取れません。彼の体験談は全て真実ですが、都合の良い解釈ではないかと感じる部分も多い。個人的に好みでないからかもしれませんが。

 彼の体験を考察し一般化すれば時代の深層まで伝わってくるはずですが、表層的で軽く感じます。項目が多すぎることで、深い部分まで書ききれないのかもしれません。

 最も言いたいこと、伝えたいことは何だったのでしょうか。