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『迷路館の殺人』:綾辻行人【感想】|迷路と見立てに潜む謎

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 「館シリーズ」三作目です。中村青司・島田 潔も馴染みが出てきました。本作は、作中作と見立て殺人を軸としたミステリー作品です。作中作自体に仕掛けがあることは予想できます。ただ、「迷路館の殺人」が始まると作中作であることを忘れてしまいます。

 迷路館の異質さは現実味がありませんが、中村青司だったらありかなと思わせます。館シリーズの館はミステリーのための館であり舞台設定です。中村青司と島田潔がいる限り、著者のアイデアは生まれてくるのでしょう。

 綾辻行人氏が書いた「迷路館の殺人」は「本作」。作中の鹿谷門実が書いた「迷路館の殺人」は「迷路館の殺人」として感想を書きます。ネタバレなしを心掛けます。 

「迷路館の殺人」の内容

奇妙奇天烈な地下の館、迷路館。招かれた四人の作家たちは莫大な“賞金”をかけて、この館を舞台にした推理小説の競作を始めるが、それは恐るべき連続殺人劇の開幕でもあった。【引用:「BOOK」データベース】

「迷路館の殺人」の感想

ローズドサークルの殺人

 クローズドサークル連続殺人はミステリーの王道です。「迷路館の殺人」は見立て殺人も加わっています。ホワイダニットとハウダニットの両方が溢れています。逃げられない緊張感と相互不信の中で標的にされる緊張感。動機の有りそうな人間から殺されていく。犯人の真の目的が見えなくなってきます。

 外界と連絡が取れないことで情報不足をもたらし、疑心暗鬼が増幅されていきます。一体、何を信じればいいのかが見えなくなります。見えているものが真実かどうかも分からなくなります。人為的なクローズドサークルならば、作成者が一番怪しい。犯人もしくは犯人に繋がる人物と思われます。確定的ではありませんがクローズドサークルを作ったと思われる井野が一番怪しい。しかも姿を見せないから、猶更怪しさを増してきます。そうは言っても、井野が犯人というのはあまりにも単純過ぎます。では犯人は別人なのでしょうか。ホワイダニットとハウダニットに戻ってきます。井野を除外し、殺されていった者を除外していくと容疑者は限られてきます。

  • 消去法で解決できるのか
  • 複数犯なのか
  • 何か見落としているのか

 裏読みすれば、いくつかの答えが予想できます。ただ、確実性のある解答を得るのは難しい。

路館のトリック

 「水車館」の流れから、隠し通路もしくは隠し部屋の存在が重要な鍵になると考えられます。島田潔も推理しています。ただ、隠し部屋を前提に推理するのか。それとも別のトリックがあるのか。それ次第で全く方向が変わってきます。前提にすれば答えは限られてきます。しなければ、全く見えてきません。迷路館の謎が迷路だけとは考え難い。 

だからこそ、問題は何が隠されているかです

 隠された通路や部屋の有無に関しては伏線があります。しかし、殺人のトリックが隠し通路の存在の有無だけでは面白くありません。迷路自体にもトリックがあるはずです。迷路館に秘められている秘密は一体いくつあるのだろうか。それらがどのように犯行に使われたのか。組み合わせは数多くあります。

 館シリーズの醍醐味は、見えているものも見えていないものも含めて館自体が重要な鍵であることです。伏線が仕込まれていますが、結末を推理できるかどうかはミステリー作品の読み込み具合で変わるでしょう。ミステリー好きなら伏線に気付くと思います。気付けば最適解が見えてきます。全く予想できないトリックでないことが引き込まれる要因かもしれません。 

立ての真実

 見立て殺人には必ず理由があります。ホワイダニットです。また、方法も大きな謎を秘めています。「迷路館の殺人」の見立て殺人はあまりに完璧な見立てです。ミノタウロスの首と島田の推理は辻褄が合っていますが実証できなかった。実証のない推理はミスリードの原因になります。

 見立て殺人は本作の最も重要な要素です。無差別殺人でない限り、犯人には目的があります。見立ては目的を知るための鍵になります。単に殺すこと以外の目的があることを示唆します。

  • 隠された通路
  • 見立て
  • クローズドサークル

あらゆる要素が絡まり合ってきます。 

中作の目的

 作中作の「迷路館の殺人」で全てが明らかにされたとすれば、小説を読む島田の役割は何なのでしょうか。明らかにされていない真実があるのでは、と思わせます。「迷路館の殺人」の中の叙述トリックに、果たしてどれほどの読者が気付くのでしょうか。「迷路館の殺人」の結末は予想できても、本作自体の結末を予想するのは相当に難しい。

 作家 鹿谷門実と島田の関係にも叙述トリックが潜んでいます。「迷路館の殺人」の結末があまりにも出来過ぎているからこそ真実性を感じます。エピローグがあるからこそ、本作の作中作が生きてきます。 

終わりに

 「迷路館の殺人」の導入部分には多少無理があります。自殺とは言え、遺言通りに行動し警察に届けない。果たして、全員の同意が得られるのでしょうか。ミステリー小説家としての判断でしょうが、現実感が乏しくなってしまうところもあります。

 また、シリーズ化はマンネリを生む危険があります。館と島田という縛りがある中で、新鮮なストーリーを作り続けることを求められます。どこまで読者を惹きつけることができるのか。シリーズ化はハードルを上げてしまうことがあります。この後の作品にも期待したい。