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『メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット』:伊藤計劃【感想】|スネーク、最後の物語。

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 こんにちは。本日は、伊藤計劃氏の「メタルギアソリッド4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット」の感想です。

 

 メタルギアシリーズの第6作目「メタルギアソリッド4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット」のノベライズです。プレステ3のゲームということですが、私はプレイしたことがありません。そもそもメタルギアシリーズそのものをプレイしたことがないのですが。

 著者は、このゲームの熱烈なファンだったようです。ノベライズを引き受けたからには、自身が心酔しているメタルギアの世界を壊さずに、ゲームファン(自身も含め)を納得させ、しかも小説としての完成度を高めることが求められます。余計なことを付け足せないし、書かなければいけないこともあります。ノベライズは制約があります。その制約を楽しんだのかもしれませんが。

 本作を読んだ理由はメタルギアに興味があるからではなく、伊藤計劃が書いたからです。私のお気に入りの作家の一人ですが、彼が書いた小説は数少ない。その中のひとつですから、是非読んでおきたいと言うのが理由です。彼のオリジナル長編ではありませんが、ゲームを知らない私にとってはオリジナルの感覚で読めます。ストーリーについての感想はあまり書きません。ノベライズですので。 

「メタルギア ソリッド ガンズ オブ パトリオット」の内容

暗号名ソリッド・スネーク。悪魔の核兵器「メタルギア」を幾度となく破壊し、世界を破滅から救ってきた伝説の男の肉体は急速な老化に蝕まれていた。戦争もまた、ナノマシンとネットワークで管理・制御され、利潤追求の経済行為に変化した。中東、南米、東欧―見知らぬ戦場に老いたスネークは赴く。「全世界的な戦争状況」の実現という悪夢に囚われた宿命の兄弟リキッド・スネークを葬るため、そして自らの呪われた血を断つために。【引用:「BOOK」データベース】  

 

「メタルギア ソリッド ガンズ オブ パトリオット」の感想

ベライズ

 ノベライズ作品を読んだことはありません。小説化するためには、当然、ゲームの世界観がしっかりしていないと難しいでしょう。ただ、あまりに完璧な世界観が出来てしまっていると小説化は単なる作業に過ぎなくなってしまいます。ゲームの世界観が完成されたものであるなら、作家は忠実に再現することも求められます。世界観から外れてしまうと、ファンは不満とともに小説を投げ出すでしょう。だからと言って、単にゲームを文章化しただけの作品に読者を惹きつけることはできません。

 一方、ゲームの世界観に空白部分があれば、物語を作る時の自由度は増します。作家としては面白いかもしれません。ただ、想像に任される部分が多いとすれば、ゲームのファンが抱くイメージは千差万別になっています。全員を納得させる物語を書くのは難しくなります。

 「あとがき」を見ると、著者はゲームの世界観を忠実に守りながらも、読者を惹きつける方法がないかを相当に考え抜いています。彼自身がゲームの熱烈なファンだから、メタルギアのファンが納得するものを書くことは可能でしょう。自分自身を納得させればいいのですから。ただ、作家として出来ることは何かということやゲームを知らない人にも魅力を感じさせる作品を作ることも考えています。

 「あとがき」にも書かれていますが、彼が辿り着いたのが「物語をどのように語るか」です。そして、オタコンを語り手にします。オタコンの視点で語ることは、彼が読者の視点になるということです。彼に共感すれば、読者は引き込まれていきます。

 

物の深み

 登場人物の設定がゲームでされているなら、著者の自由度は少ない。一方、心の奥底まで設定されている訳ではないでしょう。彼らが陥る状況や人間関係は決まっていても、それに対する心の機微や感情は描くことができます。著者は、ソリッド達の存在自体を問うことで、彼らを表現しようとしています。

 先ほども書いたように、オタコン自身の考えや思いはありますが、彼は読者の視点です。ソリッド達に抱く思いに感情が溢れるほど、ソリッド達を人間的に感じさせます。ソリッドの苦しみは、オタコンの苦しみとなり、読者へと伝わってきます。彼が人間の内面まで深く見ることができれば、登場人物も深みを持った人間になります。

 オタコンはソリッドを中心に世界を見ます。自然、ソリッドを中心に世界が描かれていきます。彼の視点はソリッド寄りです。公平ではないかもしれません。また、オタコン自身も揺らぐ時があります。そのことが世界の物理的な不安定、正義の不安定、世界を構成するあらゆる要素の不安定となって伝わってきます。彼が見ることにより、世界が人間でできていることを実感します。 

 

終わりに

 ゲームを知らない状態で読みましたが、ゲームの知識がなくても十分楽しめました。伊藤計劃らしい表現や言い回し、世界観を感じます。武器や世界情勢についても、彼らしい。ノベライズなので、彼らしいと言っていいのかどうかは疑問ですが。

 「虐殺器官」や「ハーモニー」に通じる部分があります。

 

  

  

 著者は、作家になる以前からメタルギアに心酔していたようです。そうなれば、「虐殺器官」や「ハーモニー」はメタルギアに影響されているのでしょうか。少なくとも、作家「伊藤計劃」を形作った大きな要素でしょう。