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『屋上のテロリスト』:知念実希人【感想】|テロリストの裏に隠された彼女の真実

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 著者の名前を聞いて思い浮かぶのは医療ミステリーです。彼の作品をそれほど多く読んでいませんが、一度感じたイメージはなかなか離れない。本作では医療は登場しません。

 物語に潜む謎を解くという意味ではミステリー作品です。ただ、事件が起こり、謎が発生し、解決する物語ではありません。表層に現れている現象の裏で起こっている真実の出来事と真の目的を探る。隠された意図は一体何なのか。彼女はどこに向かっているのか。何故、彼女は自分を選んだのか。様々な謎が交錯し、物語を複雑化させていきます。医療から離れた著者の作品は、違った一面を見せてくれます。 

「屋上のテロリスト」の内容

一九四五年八月十五日、ポツダム宣言を受諾しなかった日本はその後、東西に分断された。そして七十数年後の今。「バイトする気ない?」学校の屋上で出会った不思議な少女・沙希の誘いに応え契約を結んだ彰人は、少女の仕組んだ壮大なテロ計画に巻き込まれていく!【引用:「BOOK」データベース】 

「屋上のテロリスト」の感想

と西

 第二次世界大戦後、日本が分割統治される。

 「もし」を前提にしたストーリーにどこまで現実感を持たせるかは難しいですが、全く可能性のなかった話ではないですし状況設定としては面白い。状況設定はフィクションですが、シュミレーションに近い。日本が分割されるきっかけが、終戦のタイミングを逃したというのも分かりやすい。旧ソ連の侵攻は事実ですし、ポツダム宣言を受諾しなければ分割された可能性は捨てきれません。 

  • 現実化していれば、日本はどういう状況に置かれたのか。
  • 戦後数十年を経て、どのような国家に成り得たのか。
  • 二国間は、どのような関係になったのか。

 アメリカと旧ソ連に分割されたことで起こり得る未来を、東西ドイツ・朝鮮半島に求めたのは安直に感じます。確かに分割統治に至る過程を第二次世界大戦後のアメリカ・旧ソ連に求め、東西冷戦を経て現在に至るのであれば東西ドイツ・朝鮮半島がモデルとなるのでしょう。最も現実的な想定です。ただ、独創的な想像力を感じません。

 ベルリンの壁と同じように東西日本の境界に壁を設置したり、西日本を資本主義の裕福な国家・東日本を共産主義の貧しい国家としたり。東西国家間、国民間の憎み合いも同様です。設定のほとんどが東西ドイツ、朝鮮半島に基づいています。分断の過程が同じだからと言って、ここまで現実に即さなくてもいいのではと感じます。即していることが物語を進める上で重要な要素となっている部分があるのは否定しません。東西ドイツの統一のように、東西日本も統一できる。設定が東西ドイツと重なる部分があるから、物語の目的と出来る。ただ、日本の国民性も加味したところで状況設定してもよかったのではないでしょうか。 

ピード感

 屋上で彰人と沙希が出会ってから、息もつかせぬほどの速さで展開していきます。彼女の素性が財閥の会長ということと、彼女が実行しようとしているテロ。会長とテロとの間に関係性があるのか。何故、テロを実行するのか。あらゆることが謎のまま、どんどん物語が進んでいきます。徐々に明らかにされていくにつれ、新たな謎が現れてきます。彼女の思惑が分からないから、彼女の行動の真意が掴めません。彼女の行動を咀嚼する暇もなく、新しい展開が始まり行動が開始されていきます。

 現金輸送車を襲い、核爆弾を購入する。東日本軍の陸軍総帥と交渉し特殊部隊と行動を共にする。高校生でありながら、鮮やかな手口を披露し計画を進めていく姿に違和感を感じる隙を与えません。

 彰人は観察者であり評価者として存在しています。死に羨望を持っているとはいえ、普通の高校生です。彼の視点は、読者の視点です。彼が状況の変化に付いていけないのであれば、読者も追いついていけない。彼が入手した以上の情報が読者に提示されないので、伏線があるのかどうかも気付かない。気付く暇もありません。 

的と手段

 テロという大雑把な目的だけを示されて物語は始まります。彼女は目的のために手段を講じていきます。

  • 現金輸送車襲撃
  • 東日本軍との接触
  • 核弾頭の購入

 目的が垣間見えることもあれば、目的が分からなくなってくることもあります。先述のように、彼女の行動はスピード感に溢れているので目的を掴みにくい。彰人が行動の意味を理解しようとした時には、新たな行動を起こしています。また、予想外の行動が多い。彰人が戸惑えば、読者も戸惑うことになります。

 本作の最も重要な要素は、彼女の目的です。彼女は東日本と結託し、西日本を陥れるテロリストなのか。あらゆる状況が、彼女をテロリストに見せます。ただ彼女には秘密があり、目的はそれほど単純なものではないと感じます。

 彼女の行動は大胆不敵で迷いがありません。おそらく目的に向かって一直線に行動しているはずです。しかも計画的に。彼女が見ている目標と手段の繋がりを示す伏線は、あちこちに仕込まれているのでしょう。なかなか伏線に気付けませんが。気付くためには、彼女の行動の結果だけでなく行動原理・心象も重視しなければならないのでしょう。彼女の真の目的は何なのか。それを推理しながら読み進めていくことになります。 

 彼女の真の目的が分かった時、一体何が彼女を突き動かしたのか。彼女の動機が納得出来るものでないと彼女の行動を理解できないし、読後に満足感を得られません。

 彼女の目的はテロリズムなどという悪意に満ちたものではありません。東西に分割された日本を嘆き、未来への希望を込めたものです。しかし東西ドイツに倣うなら、統一は多くの国民が望んでいることです。何故、彼女が行動を起こしたのか。実行に移すだけの大きなきっかけがないと彼女の行動を理解出来ません。財閥の会長という巨大な力とお金を手に入れたからと言って、それを無尽蔵に活用し危険を冒してまで実行するだろうか。また、お金の問題だけではありません。多くの協力者が必要です。彼女の真意を理解し、危険を顧みず行動する理解者の存在。一人の犠牲者も出したくないと考え行動することと、実際に犠牲者を出さないことは違います。彼女がそこまで背負うことが出来るのでしょうか。背負う覚悟があるだけの動機なのか。

 結末で彼女の動機は語られますが、少し弱い気がします。彼女が体験した分断による理不尽さは、彼女特有のものではありません。彼女以外にも経験している者がたくさんいます。彼女が何百億も使い、周りの人間の命を背負い実行するものなのかどうか。疑問を感じます。 

校生の意味

 主人公が高校生である意味は何なのか。彼女の目的は、大人でも怯むほどの危険に満ちたものです。財閥の会長職という普通の高校生とは違った立場ですが、彼女も年齢相応の人生経験しかないはずです。しかも、彼女が会長職に就いたのは数年前です。それまでは一般人として生活していたはず。数年間で、彼女が想像を超える変化を遂げたのか。もともとの素質なのか。どちらにしても政治家相手に交渉し、軍人を手玉に取る。どれほど緻密に計画し協力者がいたとしても、高校生が実行できる業ではありません。

 特に、東日本の軍人があまりに簡単に信じすぎている印象があります。東日本にクーデターを起こし、西日本に攻め込む。一高校生(財閥の会長と言えども)の言うことを信じ行動するでしょうか。もちろん、彼女は信じさせるための行動を起こしています。情報戦も仕掛けています。ただ、東日本軍の体たらく振りが目に付きます。情報を収集することもなく、目の前の材料を元に行動します。主人公が高校生だから、東日本の滑稽さが目に余ります。そもそも高校生の必要があったのか。必要性を感じることが出来なかった。 

終わりに

 ミステリー小説というよりは、青春小説に近い。シュミレーション要素も存在しますが。医療ミステリーという著者の得意分野が存在しないので、特筆すべきミステリーとは言い難い。読みやすくはあるが、それ以上でも以下でもなかったというのが感想です。