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『三体』:劉 慈欣【感想】|VRゲーム『三体』の驚くべき真実とは?

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 こんにちは。本日は、劉慈欣氏の「三体」の感想です。

 中国人作家による中国で出版されたSF小説を読むのは初めてです。かなりのボリュームの小説ですが、一気に読みきるほど面白い。三体三部作は中国で2100万部を売り上げています。中国の人口を考慮しても発行部数は桁違いです。また、アジア人作家初のヒューゴー賞を受賞しています。それだけ評価が高いということです。

 地球外生命体とのファーストコンタクトを描いているSF作品は珍しくありません。しかし、登場人物は個性的で中国を舞台にした設定は新鮮です。科学的な用語や知識が必要な部分もありますが、知識がなくても無くても面白い。 

「三体」の内容

物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)。失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。

数十年後。ナノテク素材の研究者・汪森(ワン・ミャオ)は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。その陰に見え隠れする学術団体“科学フロンティア”への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象“ゴースト・カウントダウン”が襲う。そして汪森が入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは?【引用:「BOOK」データベース】 

 

「三体」の感想

場人物の背景

 物語は文化大革命から始まります。偏見かもしれませんが、中国では思想や歴史の解釈に政府の意向が反映されるイメージがあります。政府にとって都合の悪いことは書けないのではと思ってしまいます。文化大革命は中国政府の見解では誤りだったとされているようです。否定的な描写が可能な理由かもしれません。内容も許容範囲だったのだろう。

 文化大革命の内実をここまで書く必要があったのかどうかは読み進めれば分かります。小説の視点の一人である葉文潔の背景のためには必須です。彼女の行動が全ての始まりであり、彼女の動機の理由が文化大革命です。

 文化大革命が中国の人々にどれほどの影を落としたのか。癒されぬ傷を負わせたのか。犠牲者の数だけでも想像することができないほどの深い傷があります。しかし、表に出ない傷もあります。心の傷です。命が失われなかったからといって何もなかったことにはできません。葉文潔が負った傷は、直接的な迫害だけでなく心の傷が大きい。彼女の人生を決定的に変えます。人生の全てを。  

 彼女が取る行動にどのように説得力を持たせるか。そのために必要だったのが文化大革命だったのだろう。

 

ァーストコンタクト

 地球外知的生命体とのコンタクトは小説でも映画でも取り上げられることの多いテーマです。宇宙は人類にとって未知の世界だからだろう。描かれる地球外知的生命体は友好的なものばかりではありません。侵略者として描かれることもあります。未知の存在に対する恐怖が侵略者と繋がるのだろう。

 本作のファーストコンタクトは通信であり、直接的に接触することはありません。しかし、重要なのは地球外知的生命体の存在を知ったことです。宇宙に人類以外の生命体がいないと断言するのは、あまりにも乱暴です。だからと言って必ず存在するとも言えません。あくまで知的生命体というカテゴリーで考えた場合ですが。

 知的生命体とのコンタクトは好奇心を抱かせることですが、同時に危険です。人類の存亡に関わる驚異になるかもしれません。人類が人類を守るためには、まだまだ能力が不足しています。人類が到達したのは月だけなのだから。

 地球外知的生命体の存在をたった一人だけが知った時にどんな行動を起こすのだろうか。コンタクトにより何を知ったかにもよるだろう。対応次第では、人類の命運を左右してしまいます。普通の感覚では一人で抱え込むことはできない。人類全体で対応するべきことです。

 しかし、葉文潔の行動は違います。一人で判断し、人類を窮地に追い込むことを目論見ます。その行動に説得力を持たせるのが、彼女の歩んできた人生です。ファーストコンタクトは人類の未来を左右する出来事です。一人で恐ろしさと重圧に耐えれるのだろうか。 

 

類が抱える問題

 地球外知的生命体とのコンタクトが独占された理由は、人類の不完全さゆえだろう。葉文潔が最初に受け取ったことも大きい。彼女は文化大革命で、人間の闇を目の当たりにしました。人が人に対して、限りなく残酷になれることを知ります。その理由も納得できるものではありません。

 文化大革命は、人類の問題を浮き彫りにさせるために描かれたのだろう。表面上は、資本主義と社会主義のイデオロギーの対立です。改革と言えば聞こえはいいが、実情は大規模な政治闘争です。

 文化大革命に参画した人々は、イデオロギーの対立だと信じて疑わなかったのかもしれません。政治的な主義主張が多様に存在するのは、人類がどのような形態で生きていくべきなのかが確立していない証拠です。問題は、主義主張の違う者を力で排除することです。また、問題に目を瞑り、都合の良いことだけを見ようとすることも人間の悪い特性です。

 自身の考えが正しいと信じて疑わないのは傲慢であり危険です。三体協会内の分裂も人類の未熟さゆえだろう。人類以外の知的生命体とコンタクトしていながら、まだ人類の中で勢力争いをします。自身の主張と違う人々を排除しようとします。その力が動き出すと止まりません。

 人類が抱える問題は深い。人類の力では解決できないのかもしれません。 

 

体問題

 三体問題は物語の重要な要素です。この問題が解決すれば、地球外知的生命体は地球を侵略しないだろう。文明が維持されることが約束されれば、恒星間を航行する危険を伴ってまで地球を目指しません。人類より技術力が優れているといっても、危険は大きい。  

 三体問題が解決し、地球外知的生命体が地球に来なければ、メッセージを独占している三体協会は目的を果たせません。では、仮想空間の三体世界は何のために存在したのだろうか。三体協会が作ったのならば、三体問題を解決することが目的だとおかしくなります。あくまでも三体協会へのリクルートのためだったのだろう。

  また、数学者 魏成の三体問題研究を止めようとします。解決の可能性を否定しきれていません。仮想の三体世界は解決できないように作られているのかもしれませんが。三体問題がどのように物語に絡んでくるのかも、この小説の読みどころです。 

 

終わりに

 中国が舞台なので、分かりにくい部分もあります。歴史や情勢、中国人のメンタリティなどです。しかし、地球外知的生命体との邂逅なので、人類の問題だと考えればいいだけだろう。

 地球外知的生命体は、人類と共存を望むほど友好的ではありません。共存を図るほど人類が成熟していない証拠かもしれない。もし、地球外知的生命体と現実に邂逅した時、本作の展開がより現実的なのだろう。