晴耕雨読で生きる

本を読み、感想や書評を綴るブログです。主に小説。

ーおすすめ記事ー
タイトルのテキスト
タイトルのテキスト
タイトルのテキスト
タイトルのテキスト

『三体Ⅱ 黒暗森林』:劉慈欣【感想】|人類の命運は四人の面壁者の手に委ねられた

f:id:dokusho-suki:20210321122159j:plain

 こんにちは。本日は、劉 慈欣氏の「三体Ⅱ 黒暗森林」の感想です。

 

 劉慈欣氏の「三体」三部作の第2作目です。前作は、地球外知的生命体とのファーストコンタクトが描かれました。彼らとのコンタクトは地球を存亡の危機に陥れます。三体星人が地球に訪れるのは400年以上先です。しかし、彼らは存在し、地球にやってきます。友好的かどうかは分からないが楽観できる材料は少ない。

 前作は、これから人類の戦いが始まるところで終わりました。かなり分の悪い戦いです。三体星人が送った「智子」により、地球が置かれた状況は致命的に見えます。人類は400年後をどのように迎えるのか。400年という長期間をどのように描くのかが読みどころのひとつです。 

「三体Ⅱ 黒暗森林」の内容

人類の命運は四人の面壁者の手に委ねられた。かれらは自分の専門分野の知識を駆使し、命がけの頭脳戦に身を投じるが…!?【引用:「BOOK」データベース】 

 

「三体Ⅱ 黒暗森林」の感想 

壁者と破壁人  

 三体星人が地球に送った智子が、地球を圧倒的に不利にします。加えて、三体星人に同調する組織「地球三体組織」も存在します。人類の中にも、地球を不利にする勢力があるということです。

 他方、地球三体組織が三体星人とコンタクトを取り続けることで、三体星人の情報を得ることになります。三体星人の特質は思考自体がそのまま意志疎通の手段になることです。人類のように隠し事や表の顔と裏の顔が存在することはありません。

 進化の過程で得た能力は長所と短所を備えます。短所に注目し、人類が考え出した対策が「面壁者」です。彼らは三体星人に対する戦略を、彼らの思考の中だけで行います。三体星人だけでなく、人類さえも欺く。面壁者が背負った重圧は計り知れませんが、彼らの真意を計り知れない中で信用せざるを得ない人類の重圧も相当なものだろう。

 面壁者は戦略を明らかにせず対策を完成させる必要があります。しかし、その対策が有効かどうかは分かりません。面壁者は自分自身を信じるしかありません。三体星人が面壁者の戦略を看破すれば面壁者の戦略は泡と消え去ります。

 三体星人と人類の間には圧倒的な技術力の差があり、智子の存在が人類の科学発展を許しません。しかし、三体星人は遥か彼方にいます。面壁者に直接的に対抗できるのは人類しかいません。そのために人類の中から「破壁人」が登場します。

 面壁者の目的は人類を救うことと対策を隠し人類を騙すことです。破壁人も騙す対象に含まれます。破壁人が存在感を示すのは、面壁者の前に姿を見せた時です。その時には、面壁者の思考は暴かれています。破壁人はあまり登場しませんが、存在感は面壁者以上かもしれません。 

 

ばれた4人

 面壁者は、誰にも悟られることなく三体星人への対抗手段を講じます。チームを作ることもできません。地球資源を自由(完全な自由ではないが)に使い、その理由を説明する必要もありません。むしろ説明してはいけないし、予測できてもいけない。

 国家が存在する世界で人類の代表を選ぶのは容易ではありません。しかし、4人を選ぶ困難さはあまり描かれません。選ばれた4人の経歴は詳細に語られますが。世界の人々が納得した人選かどうかは、物語にあまり影響しないのかもしれません。面壁者が三体星人の脅威として存在していればいいのだろう。

 400年以上先の戦いのために人はどれほどの戦略を練れるのだろうか。冬眠を利用したとしても、人の寿命は限られています。面壁者が考えた戦略は、後の人に引き継ぐことはできません。面壁者自身が三体星人との戦いに対処しなければならない。

 羅輯は物語の鍵になるので、選ばれた段階では明確な理由は描かれません。冒頭の葉文潔との会話と彼が選ばれた理由の不明確さから、彼以外の4人が結末を引き寄せるとは思えません。  

 

類の分裂

 地球外知的生命体は、人類に地球を意識させます。国家という枠組みの意味を考え直させ、自分たちが宇宙のひとつの存在に過ぎないと感じさせます。しかし、人類がひとつになり対峙しなければならない相手がいるにも関わらず、人類は分裂してしまいます。その理由は地球外知的生命体の真意が分からないことだろう。

 相手次第で対応が変わることは当然です。友好的なのか敵対的なのか。技術力の差はどの程度なのか。分からないことは想像と少ない情報で予測するしかありません。三体星人は友好的ではありません。ゆるやかに人類を抹殺していくつもりです。地球三体組織を通じて得た情報でも人類の態度はひとつになりません。

 三体星人に対する態度だけでなく、人類が人類に対して抱く態度も影響します。人類の存在自体に悲観的になっている人々には、三体星人が人類に何かをもたらす存在になります。救いか破滅かは分かりませんが、三体星人に人類の未来を委ねます。地球三体組織はそういう存在かもしれません。彼らの中でも分裂は起きていますが。

 一方、三体星人に対抗しようとするのが大半の人類の考えです。智子に監視下で科学が進歩しないとしても、何らかの対策を講じ、人類の未来を切り開くために行動します。しかし、彼我の力の差から敗北主義者を生み出します。人類は分裂を止められません。 

 

宙は共存できない

 地球外知的生命体と友好的な関係を築くSF作品も多い。一方、本作のように敵対的な関係を描く作品も多い。

 現実の宇宙の真実はどうだろうか。本作における宇宙の真実は、冒頭の葉文潔の言葉に集約されています。宇宙物理学の公理として語られることは、

  • 文明は生きることを最優先する。
  • 文明は成長し拡大するが、宇宙の総質量は一定である。

 この言葉が何を示しているのかは分かりません。三体星人との戦いでどのような鍵を握るのかも分かりません。しかし、重要な要素であることは分かります。この言葉を聞いた羅輯が物語の鍵になることも分かります。

 宇宙が共存できないとしたら、説得力のある理由が示されなければなりません。そうでなければ、羅輯が三体星人を退けたとしても納得できないだろう。葉文潔の公理と「猜疑連鎖」と「技術爆発」は宇宙における生存の厳しさと恐ろしさを端的に表しています。

 羅輯が三体星人に突きつけた究極の選択は諸刃の剣です。三体星人が死なばもろともという行動を取る可能性もあります。三体星人の未来を考えると、その可能性は高いようにも感じます。少なくとも、本作中の宇宙は黒暗森林と表現するのに相応しい。 

 

終わりに

 三体星人との戦いはとりあえず一段落します。ただ、多くのことが途中で投げ出されています。三体星人はどうなったのか。地球から脱出した艦船と人類の行方はどうなったのか。三部作の二作目なので次作があります。次作をいつ読めるか分かりませんが、先が気になります。