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『ソードアート・オンライン10 アリシゼーション・ランニング』:川原 礫【感想】|アリシゼーションの意味が明かされる

 

 「アリシゼーション・ランニング」は、行方不明になったキリトの行方を探す現実世界のアスナから始まります。その段階でアンダーワールドの正体が明かされていきます。前半は菊岡による解説が中心なので読んでいてだれる部分もありますが、必要な情報開示なのでしょう。淡々とした説明ですが。

 加えて、アンダーワールドで目覚めたキリトの物語も同時進行で描かれていきます。キリトの旅はギガスシダーを切り倒したことで始まっています。 

「ソードアート・オンライン10」の内容

謎のファンタジー世界に入り込んでしまったキリト。VRMMOチックなその空間で最初に出会った少年・ユージオ。“NPC”とは思えないほど感情が豊かなその少年と共に、キリトは央都“セントリア”に向かい、そして、二年が過ぎた―。キリトとユージオは、“北セントリア帝立修剣学院”の“初等練士”となり、それぞれ先輩であるソルティリーナとゴルゴロッソの指導を仰ぎながら、人界最強の秩序執行者“整合騎士”を目指す日々に明け暮れていた。央都を統べる“公理教会”の中枢にたどり着くため、二人はあまたの障害をはねのけ、学院にわずか十二人しか存在しない“上級修剣士”を目指す―!【引用:「BOOK」データベース】

「ソードアート・オンライン10」の感想 

ロジェクト・アリシゼーション

 前半部分は、現実世界の明日奈の物語です。死銃事件の最後の逃亡者に襲われ、病院に入院したはずのキリト。しかし、一転行方不明になります。彼の行方を探すためユイの協力を得ていたとは言え、神代凛子に接触しオーシャン・タートルに辿り着く。明日奈の愛情は、計り知れないほど大きい。

 前巻で、キリトのバイト先「ラース」と菊岡に関係があることは明らかにされていました。ラースの研究内容についても、キリトの口から断片的に語られています。フラクトライトに直接アクセスする「ソウル・トランスレーター(STL)」の存在についても。 

そもそも明日奈はその技術に不穏な影を感じているようでしたが。

 オーシャン・タートルで待ち受けているのが、菊岡であることは予想の範囲内です。ようやく菊岡の正体が自衛官であることが明確にされます。彼が自衛官であることによって、これまでの彼の行動の多くに説明がつくようになります。SAO事件の後も仮想世界に関わり続けた理由も、ようやく彼の口から語られます。

 もともと一筋縄でいかない菊岡です。彼の語っていることが本当のことなのかも怪しいところです。ただ、菊岡も神代と明日奈の鋭い洞察が嘘を見抜くことは理解しているのでしょう。彼が話していることは、本当のことのように感じます。全て話しているかどうかは疑問ですが。明日奈の知りたいことはキリトの安否だけですが、そのためにはラースの目的を知る必要が出てきます。菊岡が語ったのは、ボトムアップ型の高適応性人工知能の開発です。目的は戦争の道具として。

 人工知能が高度になればなるほど人間との違いはどこにあるのか。そのことが問題になります。菊岡が開発している人工知能は、果たして人間とどこが違うのか。実体としての身体を持っているかどうかなのか。おそらく開発している菊岡たちにとっては、人工知能は人工に過ぎないのでしょう。しかし、アインクラッドで2年間閉じ込められたキリトや明日奈にとって、仮想世界に存在する人工知能は単なるプログラムでは済まない存在です。

 菊岡が語った「人工高適応型知的自立存在(Artificial Labile Intelligent Cybernated Existence)」は画期的な研究です。目的も自衛官を守るためなので正当性があります。ただ、そこには人工知能の命は考えられていません。菊岡は、十万の人工フラクトライトより一人の自衛官の命の方が重いと明言します。それも一つの真理です。しかし明日奈の主張する人工フラクトライトの命の重さもある意味正しい。これから技術が進歩していく中で、近い将来起こる議論かもしれません。  

界暦の時間 

 現実世界とアンダーワールドの時間の進み方は違います。キリトの世界で数年経っていても現実世界は数日です。キリトの時間は、既に2年を経過しています。一方、アスナにとっては数日です。キリトが襲われた衝撃を生々しく覚えているアスナが菊岡を問い詰めている頃、キリトにとって襲撃事件は過去のものとなっています。思考を加速する概念は、アクセル・ワールドを思い出します。先にアクセル・ワールドを読んでいた方が思考の加速を理解しやすいかも。

 明日奈の緊迫感から比べると、キリトの日常は穏やかです。もちろん、彼もログアウト不可の仮想世界に閉じ込められている状況ですし、今いる世界の正体が分かっている訳ではありません。ただ、時間の経過は今いる場所への順応を生むのでしょう。ログアウトという目的は持ったまま、アンダーワールドでの生活とユージオを始めとする人々と関係を深めていきます。もともとキリトは環境適応能力が高い。

 ルーリッド村を出てからの2年間があっという間に語られています。ザッカリアの剣術大会で危なげなく優勝し、そのまま帝立修剣学院の初等練士となって1年経過します。ルーリッド村を出てから、実に2年間も経過しています。明日奈の緊迫感からは遠く離れて、アンダーワールドに溶け込み生活を謳歌しているように見えます。逆に言えば、人工フラクトライトは人間であるキリトと何も変わらないということです。登場する人工フラクトライトたちは、現実の人間と同じように個性豊かに存在しています。

  • 自らの矜持に生きる者。
  • 心に迷いを抱く者。

 必ずしも善ばかりでないところなど、現実世界と変わりません。キリトの経験するアンダーワールドが色彩豊かであればあるほど、現実世界の明日奈の主張する人工知能の権利が大きく感じられます。人界暦の時間が現実世界に比べ相当に早く進むとしても、一気に2年経過は早すぎる気もしますが。  

性が増えた

 ユージオという相棒を伴って、初めての男二人旅。キリトの役回りもだいぶ変わってくるのかなと思っていれば、やはり彼の周りには女性が溢れてきます。ザッカリアで居候している家の双子の少女。帝立修剣学院で傍付きになったソルティリーナ・セルルト上級修剣士。キリトの周りには、やはり美女が集まってきます。

 自らが上級修剣士になった暁には、ロニエという美少女が傍付きになります。ユージオもティーゼという美少女が傍付きです。ログアウト不可がキリトを苦しめているかというと意外とそうでもないように感じるのは、女性の多さのせいかもしれません。 

終わりに

  10巻ではアンダーワールドの成り立ちが明かされるとともに、サブタイトル「アリシゼーション」の意味も明かされます。物語の根幹の大部分が明確になったと言えますが、一方、どこに向かっていくのかは分かりません。現実世界の明日奈はかなりの状況展開がありましたが、キリトはそれほどでもありません。2年間という長大な時間は経過していますが、予想通りの展開過ぎて読み応えはあまりない。チート級の強さはないが、やはり肝心なところでは強さが目立ちます。