晴耕雨読で生きる

本を読み、感想や書評を綴るブログです。主に小説。

ーおすすめ記事ー
タイトルのテキスト
タイトルのテキスト
タイトルのテキスト
タイトルのテキスト

『ソードアート・オンライン17 アリシゼーション・アウェイクニング』:川原 礫【感想】

 アンダーワールド大戦も佳境に入り一進一退を繰り返します。消耗戦の様相を呈してきました。ダークテリトリー軍も個々の人物が描かれ、それぞれに個性的になってきます。ダークテリトリー軍の全てが完全な悪ではないことが分かってきます。悪の定義にもよりますが。

 人界にとってダークテリトリー軍は侵略者であり悪として描かれてきました。しかし、単純に善悪を区分することが難しくなります。ダークテリトリー軍の中にも自身の行動に恥じるものがないかどうかを考える者が出てきます。自身の利益だけでなく、他者のために行動する者も出始めます。人界とダークテリトリーの対立の中で、個々の物語が描かれることで混沌とします。二極対立で語れなくなります。

 ただ、ガブリエルとヴァサゴという絶対悪は存在します。現実世界の悪意をアンダーワールドに持ち込み、目的のために手段を選びません。アンダーワールドもそこに住む人工フラクトライトも、彼らにとっては単なるモノに過ぎません。アリス次第で、アンダーワールドの存続自体が危機になります。 

「ソードアート・オンライン17」の内容

“光の巫女”アリス。

闇の軍勢すべてを犠牲にしてでも、我が手中に収める。“最終負荷実験”二日目。整合騎士による命がけの奮闘により劣勢になったダークテリトリー軍は、卑劣な手段で反抗を開始する。アンダーワールドを外部から観測していた米軍傭兵・クリッターが、現実世界の人間たちを最終決戦に投入したのだ。その“本格派VRMMOゲームのベータテスター”は、五万人を超えた。闇の軍勢の増援に、絶体絶命となる人界軍。アスナ一人では到底太刀打ちできなかった。そこに、アンダーワールドで言い伝えられてきた創世の神々が舞い降りる。白く輝く太陽神ソルスと、優しく暖かい地母神テラリア。その二柱は、シノンとリーファの姿をしており…。 【引用:「BOOK」データベース】 

「ソードアート・オンライン17」の感想

対悪

  アンダーワールドにおける絶対悪はガブリエルとヴァサゴです。彼らは物語の最後まで立ち位置を変えないでしょう。彼らは現実世界でも他人の命を顧みません。人工フラクトライトを単なるユニット程度にしか感じていません。だからこそ、ダークテリトリー軍を駒として使うことができます。アリスの魂を求めているところを見ると、人工フラクトライトを人間として認めている側面もあるようですが。

 ダークテリトリーが悪として描かれてきたので、ガブリエルとヴァサゴが際立った悪に見えなかった。ガブリエルの指示が必要最小限だったことも、ダークテリトリー軍の悪意が自然発生的に見えました。ただ、ダークテリトリー軍の中でもベクタに憎悪を抱く者が出始めると悪の所在が曖昧になってきます。ダークテリトリー軍だからと言って、悪と決めることはできなくなります。

 ディー・アイ・エルのように自身の利益のために他者を犠牲にする者もいれば、自種族のために行動する者もいます。現状に疑問を抱く者も出てきます。元々一枚岩でなかったダークテリトリー軍の不協和音は大きくなります。ベクタの存在が軍としての体裁を保つ唯一の力です。

 ガブリエルが大きな悪に見えるのは影響力の違いでしょう。ガブリエルはダークテリトリー軍全体の運命を握っています。一方、ヴァサゴは自身の運命のみ。多くの命を握るガブリエルの方が絶対悪に見える理由でしょう。

 

界とダークテリトリー

 人界 VS ダークテリトリーから始まった戦いに、アンダーワールド VS リアルワールドの要素も加わります。アンダーワールド人にとってリアルワールド人は異質な存在ですが、異質=敵ではありません。努力は必要になりますが、お互いに理解し合うことはできます。キリトがそうであったように。

 ベクタは言い伝えの暗黒神であり、ダークテリトリー軍にとって特別で異質な存在です。そこにリアルワールド人の異質さも包含することで大きな存在感を得ています。

 人界軍とダークテリトリー軍はリアルワールド人の存在に気付いていきます。ベクタとアスナとキリトの存在です。ヴァサゴは表舞台に現れません。ベクタの存在がダークテリトリー軍を混乱させたように、彼らのアンダーワールド人への関わり方次第でアンダーワールドが変わります。アンダーワールド人は人工フラクトライトでありAIに過ぎませんが魂を持つからです。使い捨てにされたと理解すれば、自らの行動を考え始めます。右目の封印を破る者が出てくるのも、彼らが魂も持つからかもしれません。

 アリスは右目の封印を破りブレークスルーを果たした唯一(ユージオを除けば)の人工フラクトライトでした。アドミニストレータの存在がアリスの右目の封印を破るきっかけになります。ベクタの存在はダークテリトリー軍に右目の封印を強力に働かせます。リルピリンとイスカーンが右目の封印を破ったのはベクタの存在が大きい。アンダーワールドの進化という意味では、ベクタの果たした役割は大きい。

 彼らが右目の封印を破ったのは、現実世界の思惑のためではなく自らの存在のためですが。

 

ーパーアカウント

 アスナに続き、シノンとリーファもスーパーアカウントでダイブします。

  • 創世神ステイシア
  • 地母神テラリア
  • 太陽神ソルス
  • 闇神ベクタ

4つのスーパーアカウントが登場します。アンダーワールドに管理者として直接関与するためのアカウントです。

 「ステイシア」の能力は巨大だが制限があります。「ソラリア」は永遠の回復であり、「ソルス」は飛行です。アンダーワールドの管理者が使うアカウントとして必要な能力と思えない部分もあります。アンダーワールドの存在自体に関与できるほどの力があっていいような気がします。整合騎士のように特別な強さを持っているだけに見えます。

 ベクタの強さは現実世界のガブリエルの闇が関わっています。その闇が「心意」をもたらしたのでしょう。キリトはアンダーワールドで数年を過ごし、アドミニストレータとの死闘で心意を理解します。ベクタは現実世界の人生と過去が影響しています。シノンが弓を銃に変えることができたのは、彼女の過去が相当に重いものだったからかもしれません。

 スーパーアカウント自体の特異さや強さはあまり感じません。

 

実世界の策略

 オーシャンタートルの戦況は不利な状況が続きます。不意を突かれた者と計画された襲撃を行った者では、どちらに分があるかは明らかです。しかし、菊岡たちの抵抗により、ガブリエルも計画を修正せざるを得なくなります。修正できる範囲内ということですが。

 現実世界の策略は全てアリスの奪取のためです。ガブリエルにとっての勝利はアリスの奪取であり、ダークテリトリー軍の勝利ではありません。アメリカ・韓国・中国のプレイヤーの召喚が計画されていたのであれば、アンダーワールドの存続を最初から考えていません。

 ガブリエルたちは現実世界の戦闘のプロです。情報や作戦の立案についても同様です。目的のために最も効率の良い展開を考えています。3国の一般プレイヤーに悪意がないことが、逆に絶対的な優位をもたらしています。プレイヤーとしての立場は命を懸けません。たとえペインアブソーバがなくてもです。

 二転三転するアンダーワールドの情勢は現実世界の引き写しです。オーシャンタートルの戦況を覆すのが難しいのなら、アンダーワールドの戦況を変えるしかありません。キリトの存在が大きな鍵になるのは明白であり、最終巻に向けたお膳立ては整いつつあるのでしょう。

 

「アリシゼーション・ラスティング」へ