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『ソードアート・オンライン9 アリシゼーション・ビギニング』:川原 礫【感想】|壮大な物語が始まる

 新章突入です。サブタイトルにアリシゼーションの名を冠するのは、第9巻「アリシゼーション・ビギニング」から第18巻「アリシゼーション・ラスティング」までの10冊です。「アインクラッド」「フェアリーダンス」「ファントムバレット」は各2冊。「マザーズ・ロザリオ」と「アーリー・アンド・レイト」は外伝扱いで各1冊。それと比べると、今までにない壮大な物語です。

 アリシゼーション編の序章とも言える「ビギニング」は、物語の骨格を示す最も重要なパートです。アインクラッドからの流れを引き継ぎつつ、全く新しい物語を構築する。仮想世界をベースにしながら、マンネリ化を防ぐ。引き込まれるかどうかは、予想を覆す展開があるかどうかです。 

「ソードアート・オンライン9」の内容

「ここは…どこだ…?」目を覚ますと、キリトは巨木が連なる森の中―ファンタジーの“仮想世界”に入り込んでいた。手がかりを求めて辺りを彷徨う彼は、一人の少年と出会う。「僕の名前はユージオ。よろしく、キリト君」この仮想世界の住人―つまり“NPC”である少年は、なんら人間と変わらない感情の豊かさを持ち合わせていた。ユージオと親交を深めていくキリトの脳裏に、とある過去の記憶がよみがえる。それは、子供時代のキリトがユージオと一緒に野山を駆け回っている記憶だった。そしてそこには、ユージオともう一人、金色の髪を持つ少女の姿があった。名前は、アリス。忘れてはいけないはずの、大切な名前だった。【引用:「BOOK」データベース】 

「ソードアート・オンライン9」の感想 

界暦(アンダーワールド)

 プロローグを読み始めて最初に感じるのは疑問です。

  • キリトに何が起こっているのか。
  • 一緒にいるユージオとアリスは何者なのか。
  • 人界暦とは何なのか。

 物語の進んでいる方向も、今いる場所も理解できません。徐々に明かされていくのだろうと思いながらも、プロローグⅠは一旦終了してしまいます。

 場面は現実世界に切り替わり、プロローグⅡが始まります。ダイシーカフェでのキリトたちの会話でプロローグⅠの世界の正体が徐々に見えてきます。キリトの持っている情報は断片的で限定されたものです。彼が持っている情報が正しいのかどうかは別にして、その世界にいた理由は語られます。

 アンダーワールドと呼ばれる世界の全てが解明される訳ではありません。むしろ謎は深まっている気がします。謎が明かされないことが、アンダーワールドに対する興味へと繋がっていきます。キリトたちは、今後、どのようにアンダーワールドと関わっていくのか。ユージオやアリスは一体どうなっていくのか。ふたつのプロローグで描かれた現実世界と仮想世界がどのように繋がっていくのか。転章Ⅰで急展開する状況が、現実世界とアンダーワールドを繋げます。転章を終え、第一章に入ることで真の物語が始まります。 

ートナーは「ユージオ」

 キリトと行動を共にするユージオは男です。これまでの作品では、キリトの側にいるのは常に女性でした。クラインやエギルもいましたが、彼らはサブキャラです。キリトと共に物語を進行させるキャラではありません。キリトと同等の重要な役割に男性が配置されたのは初めてです。

 お互いの存在なくしては物語は進行しません。同い年なので、今までと違うキリトの側面が見えます。キリトは女性とばかり行動を共にしてきたので、どちらかと言えば保護者的な立ち位置が多かったように感じます。冷静に状況に対処し危機を脱する。時に無茶をして諫められることはあっても、結末はキリトの実力で状況を打開してきました。アリシゼーションのキリトは、これまで以上に自由です。自らの感情を元に行動を決めていきます。ユージオと対等の関係だからこそ、自由に行動できるのでしょう。男のパートナーは、今までの作品の流れを変える意味でも良かったのかもしれません。 

された記憶

 プロローグⅠでは現実世界の記憶を保持していない。プロローグⅡではアンダーワールドの記憶を保持していない。第一章では現実世界の記憶を保持しているが、プロローグⅠの記憶を保持していない。6年後のアンダーワールドであるにも関わらず、ユージオたちもキリトの記憶を保持していない。

 アンダーワールドに記憶を持ち込めないし持ち出せないことは、その理由も一緒にダイシーカフェで語られています。しかし、第一章では記憶を持ち込んだキリトがアンダーワールドに現れます。転章で起こった事件から、想定外の物語が始まっていることは分かっています。

  • アンダーワールドに迷い込んだキリトに何が起こったのか。
  • どういう過程を経て現在に至っているのか。

 情報は読者にも与えられないので、キリト同様に分かりません。記憶の持ち方だけで危機的状況が発生していることが分かります。ログアウト不可という状況が追い打ちをかけます。アインクラッド以来となるログアウト不可に緊張感が増す。アンダーワールド内での死が、どのような結果をもたらすのかは依然分かりません。ただ、ゴブリンとの戦闘で受けた痛みは、これまでの仮想世界の常識を覆します。

 仮想世界の死が現実世界への帰還を果たす方法のひとつと認識していいのかどうか。キリトが抱く仮想世界の常識が崩れていきます。読者が抱いていた仮想世界の常識も同様です。 

終わりに

 壮大なアリシゼーション編の始まりだけあって、物語はあまり進展しません。1冊読み切って、ようやく始まりを告げられたという印象です。物語の設定を説明することに費やされる部分が多いことも進展を妨げる理由です。ギガスシダーを倒すまでが長い。ギガスシダーを倒すことで物語が始まるのだとしたら、「ビギニング」は物語が始まる前の物語だと言えます。

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