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『Twelve Y.O.』:福井晴敏【感想】|日本は国家として大人になれないのか

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 福井晴敏のデビュー作。本作より先に「川の深さは」を執筆しています。ただ発刊されたのは本作が先なので、世間的なデビュー作ということになります。次作「亡国のイージス」も含めたところだと、発刊順は「Twelve Y.O.」「亡国のイージス」「川の深さは」。時間軸は「川の深さは」「Twelve Y.O.」「亡国のイージス」。それぞれ物語が直接的に交わることはないですが、登場する組織や事件などは一連の流れになっています。「川の深さは」で起こった事件が「Twelve Y.O.」に影響しており、また「Twelve Y.O.」が「亡国のイージス」のきっかけを作る。この三作は三部作とも言えるかもしれない。

 「川の深さは」を読んだのはかなり前なので、内容はうろ覚えです。三作とも登場人物の設定は似通ったところがあります。また、著者の国防に対する考え方、国家観が大きく主張されているのも同じかもしれない。

「Twelve Y.O.」の内容

沖縄から米海兵隊が撤退した。それは米国防総省が、たった一人のテロリストに屈服した瞬間だった。テロリストの名は「12」。最強のコンピュータウィルス「アポトーシス2」と謎の兵器「ウルマ」を使い、米国防総省を脅迫しつづける「12」の正体は?真の目的は?【引用:「BOOK」データベース】

「Twelve Y.O.」の感想

ィクションと現実

 自衛隊を描かせたら著者の右に出るものはいないのではないでしょうか。そう思わせるほど、自衛隊に精通しています。自衛隊が保有する装備、ヘリの描写、護衛艦の操艦。また、組織機構や命令系統も同様です。今回は自衛隊内部だけでなく、自衛官の募集についても描かれています。平貫太郎の所属する自衛隊地方連絡部は、彼の生き方を描くのに重要な役割を果たしています。物語を構成する上で、自衛隊は重要な要素です。それを緻密かつ現実に即した描写を行うことで、フィクションである物語に現実感が生まれています。

 ただ、社会情勢については注意が必要かもしれません。本作が刊行されたのは20年前です。当時の社会情勢を前提に描いている部分もあるので今では違和感のある部分もあります。物語は完全なフィクションなので、社会情勢は割り切ってしまえばいいだけですが。

 市街地での銃撃戦や自衛隊ヘリの強奪。たった3人での辺野古基地襲撃。下地があったとしても、ストーリーに完全な現実感を持つかと言われると疑問も残ります。 

者の国家観

 福井晴敏の日本国家に対する評価は一貫しています。すなわち、国として一人前でないということ。まさしく本作のタイトルが表現しています。自ら考えることを放棄している主体性のなさを、国防の観点から表現しています。自衛隊はその象徴なのでしょう。

  • 自衛隊の存在根拠の曖昧さに気付きながらも、それを国防の軍隊として認めることの覚悟を持てない国。
  • 国防を政策の取引材料にしか考えない政治家。
  • 国防だけでなく自衛隊に対しても興味を持てない国民。

 その無責任さが、国際社会において責任ある地位を確立できない理由だと考えているのでしょう。著者の危機感を感じますし共感できます。自衛隊をすぐさま軍隊にしろとまでは言いませんが、問題を先送りにしていることは感じます。

 ただ、本作は舞台を辺野古にしたことから、一般論から著者の個人的主張を色濃く感じます。責任ある国家として存在するために必要なこととして、国民の意識や政治家の覚悟を問うことは理解できます。抽象的なことですが、理解を得やすいし読者にも受け入れられやすい。 

 しかし在日沖縄米軍を始めとする米軍・米国が、日本の真の独立を阻んでいるように描かれています。 

 在日米軍を撤退させることが、日本にとって良いのかどうか。舞台を沖縄にしたことで、かなり政治色の強い主張に感じます。在日米軍や沖縄の問題は、一方向から見て判断できる問題ではありません。答え難い問題です。それを東馬と坂部の会話の中で、演説のように語らせます。あまりに直接的かつ一方的な主張に違和感があります。物語中で東馬が正しいとしている訳ではないのですが、彼の主張が正しいかのような錯覚を覚えます。その部分で現実に引き戻され、物語に入り込めない。 

馬はテロリストか

 東馬は日本のために行動した勇者なのか。単なるテロリストに過ぎないのか。
 どれだけ崇高な目的を掲げようと、沖縄で多数の民間人を犠牲にすることも視野に入れていた段階でテロリストなのでしょう。彼が抱く日本のあるべき姿を実現するために、関係のない人々を殺す権利があるかどうか。東馬の主義主張が正しいとしても、彼個人の思惑に過ぎません。それに主義主張のために、無関係の人々を巻き込むことはまさしくテロリズムだと感じます。彼は目的を果たせず倒れますが、だからと言って彼が被害者かと言えばそう感じません。 

終わりに

 ストーリー自体は、それなりに面白い。ウルマの背後に潜む陰謀。人間の心の弱さと美しさ。様々な要素が組み合わさり、結末へと導かれていきます。

 ただ、気になる点もあります。東馬が持っているBB文書の謎。米国が絶対手を出せない秘密であり切り札ですが、何とでも言い逃れの出来る代物のような気もします。引き込まれなかった最大の要因は、やはり東馬の主張に違和感を感じたからかもしれない。

Twelve Y.O. (講談社文庫)

Twelve Y.O. (講談社文庫)