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『四畳半神話大系』:森見登美彦【感想】|不毛と愚行の青春奇譚

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 こんにちは。本日は、森見登美彦氏の「四畳半神話大系」の感想です。  

 

 森見登美彦氏らしい独特の世界観です。京都を舞台に、くされ大学生の一人称で物語は進みます。

 彼は大学3回生でありながら、何も成し遂げていません。どうにもならない救いがたい状況です。そんな彼の物語を4つの話で構成しています。 しかし、それぞれの話が同じ時間軸に存在していません。入学後に選んだサークルや組織の違いで生まれた4つの平行世界として描かれます。

 各話の冒頭は全て同じです。彼はすでに救いがたい自分になっていて、選択次第で違う大学生活があったのではないかと悶えています。 違う選択で生まれる4つの平行世界は、わずかな違いを見せながら進んでいきます。

 選択の結果生まれた平行世界であっても行き着く先は同じということだろう。 見たことのある状況がありつつ、微妙に変化している4つの世界が絶妙です。同じ時間を何度も繰り返し描くことになりますが、不思議と飽きません。むしろ引き込まれます。 

「四畳半神話大系」の内容

私は冴えない大学3回生。バラ色のキャンパスライフを想像していたのに、現実はほど遠い。悪友の小津には振り回され、謎の自由人・樋口師匠には無理な要求をされ、孤高の乙女・明石さんとは、なかなかお近づきになれない。いっそのこと、ぴかぴかの1回生に戻って大学生活をやり直したい!

さ迷い込んだ4つの並行世界で繰り広げられる、滅法おかしくて、ちょっぴりほろ苦い青春ストーリー。 【引用:「BOOK」データベース】 

 

「四畳半神話大系」の感想

択の結果  

 人生は選択に溢れています。就職や結婚などの重大なものがある一方、昼食に何を食べるかという程度のものもあります。昼食の選択に意味がない訳ではありませんが。

 いくつかの選択肢が示されても、選べるのはひとつだけです。選ばなかった未来は決して分かりません。そもそも選択肢を絞った段階で選択を行っていることにもなります。

 将来が決まる選択は難しいが、その分覚悟をもって選択することになります。十分に時間をかけて検討し選ぶことになる。その選択が正しかったかどうかは分かりません。選択をやり直すことはできないし、選択しなかった場合と比較できません。だからこそ人生は面白いのかもしれません。難しくて辛いことも多いですが。

 主人公には四つの選択肢が与えられます。どのサークル(サークルでないものもあります)に属するかが問題ですが、四つに選んだ時点ですでに最初の選択をしています。選択に正しいと間違いがあるかどうかは微妙ですが、本人にとって望ましいかどうかはあるだろう。

 求めているものを満たしてくれるかどうかは分からないことも多い。選択に満足できるかどうかも、その人次第だろう。同じ選択をしても感じ方や満足は違います。主人公と小津が分かりやすい比較例です。結果はひとつの選択でもたらされるものではありません。様々な選択の組み合わせが現在を作ります。

 主人公は三回生になった時に初めて真剣に現状を見つめたのだろう。大学生活の半分が過ぎ、ようやく焦りだしたのかもしれません。大学に抱いていた理想から全く外れてしまい、その理由を四つの選択に求めます。何故、その四つなのかは分からない。しかし、理想から外れ出した理由は本人が一番分かっているのだろう。周りから見たら、的外れかもしれませんが。

 様々な選択の組み合わせだとしても、土台があるということです。選ばなかった未来と比較できないことが、余計に自身の選択が間違っていたと思わせるのだろう。

 主人公の気持ちはよく分かります。もっと素晴らしい大学生活が待っていたはずという思いはすごく理解できる。 

 

行世界 

 並行世界はSF小説ではお馴染みの設定です。目新しくないが、四畳半で暮らす大学生との組み合わせは新鮮です。選択肢の数だけ世界が分岐し、それらは並行して進み、決して交わりません。時間は一方向にしか進まないので、やり直すことはできません。後悔しても別の人生が現れることはありません。

 四つの選択で生まれる四つの世界を描く小説です。同じ時間を四回描くことになります。選択が違えば、違う人生が生まれます。それぞれの世界は確かに違います。しかし、違わない部分も多い。既視感が所々に表れます。

 そもそもサークル(みたいなものも含む)の選択で大学生活が決定的に変わることはないだろう。四つの選択肢にした時点で、あまり変わらない未来しか生まれてこないのではないだろうか。並行世界だが、限りなく近くに存在しながら進んでいる世界だろう。

 四つの世界のそれぞれの主人公が抱く思いは同じです。環境もほぼ変わりません。それを四回も描いていますが、読んでいて飽きてくることはありません。違いに含まれる既視感が面白い。同じ場所・同じ登場人物であっても、それぞれの立ち位置は微妙に違っています。役割も違います。しかし、根底に流れているものは同じなのだろう。大学生の世界はそれほど劇的な違いを生みません。跨ぐことができそうなほど近い並行世界が織り成す四つの物語に引き込まれていきます。  

 

学生の生の姿  

 大学名は明示されませんが、主人公は京大生です。森見氏の大学生活が多少なりとも反映しているのかもしれません。大学生は自由であり、身分が保証されています。だからこそいろんなことを考えてしまう。無駄に時間を浪費しているかもしれないが、それこそが大学生です。もちろん、そんな大学生ばかりではないはずですが。

 主人公は学生の本分を全うしていません。むしろ離れています。主人公も自覚しているので、物語の書き出しは全て同じです。大学生のあるべき姿の正反対に位置することを語っています。

 しかし、主人公の姿も間違いなく大学生の姿です。極端ですが、どんな大学生でも少しは心当たりがあるだろう。どんな大学生活を送っても自由なのが、大学生なのかもしれない。しかも社会人ほど責任はありません。

 京大生と思しき主人公のくされ具合は気持ちいいくらいです。どんなことでも徹底されると一目置いてしまうのだろう。だからと言って、主人公のようになりたくはありませんが。

 極端ですが、主人公の姿は現実離れし過ぎているとは思いません。彼を取り巻く環境は時に現実感を失いますが、大学生の枠から外れてしまうことはありません。どんな状況にあろうと常に大学生であり続けます。その姿は等身大の大学生です。だから嫌悪感はありません。やっていることは感心できないことばかりですが。 

 

特な世界観    

 著者にとって京都は特別な場所なのだろう。京都を舞台にすると、小説が一層輝く気がします。大学生活を過ごした場所だから思い入れもあるのだろう。加えて京都は不思議な魅力に溢れています。著者が描く京都が魅力的で不思議なのは、著者がそのように感じているからだろう。森見登美彦氏の表現力で、独自の世界観を作り出しています。

 京都には、他の場所にはない何かがあるのではないだろうか。人智を越えた世界が隠されているのではないだろうか。そのように思わせます。だから作中で起こる突拍子もない出来事も受け入れてしまいます。

 地名や通りの名がたくさん登場します。京都をよく知らないと、位置関係がよく分からない。その場所がどういう場所かも分かりません。おそらく住んでみないと分からない部分も多くあるのだろう。知らなくても小説が面白いのは変わりありませんが、知っているともっと楽しめるはずです。しかし、知らないからこそ、著者の作る京都に入り込める側面もあります。 

 

終わりに  

 主人公は並行世界を跨ぐことになります。それは四畳半という狭い空間で起こります。四畳半の微妙な違いは、過去に選択した結果です。選択は違う未来を作りますが、その違いはそれほど大きくない。四畳半の違いは、外の世界の違いを象徴しているのだろう。

 選択の結果が大きな違いを生むには、多くの選択と時間が必要です。大学の二年間余りではあまり変わりません。

 並行世界の存在を四畳半という限られた世界で明かします。四つの物語はそれぞれが独立していますが、最後は四畳半で繋がります。予想外の展開と結末に感心します。