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『ミュータンス・ミュータント』:島谷浩幸【感想】|歯のない死体の謎を解く

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 本格歯科ミステリー!初めて聞くジャンルです。ジャンルはともかく、帯を見る限りとても斬新な設定のミステリー作品だと思わせます。連続変死体。しかも、死体には歯が全く残っていない。一体、どういうことなのか?何が起こっているのか?期待が膨らみます。歯科ミステリーということは、医療ミステリーの部類に入るのでしょうか。

 医療ミステリーというと「チームバチスタの栄光」の海堂 尊氏を思い出します。現役医師の知識と問題意識を駆使し、素晴らしいミステリー作品を発表しました。医師だからこそ書ける内容ですし、そこには医療制度に対する大きな問題提起もなされていました。その後も、作品を発表し続けています。 

 「ミュータンス・ミュータント」の著者:島谷浩幸氏は現役の歯科医師です。歯科医師の知識を存分に駆使し一般人には想像もつかないようなトリックを読者に見せてくれるのでは、と期待が高まります。 

「ミュータンス・ミュータント」の内容 

夏の盛り、首都圏で不可解な遺体が次々と発見された。その遺体の共通点は、若者・歯がない・死因は心臓発作、というものだった。警視庁は捜査を進めるうち、被害者の部屋のくず入れに高頻度で、あるコンビニが販売しているデザートの包みが捨ててあることを突き止めたが…。果たして、この事件は病気なのか、事故なのか。それとも殺人なのか―。【引用:「BOOK」データベース】   

「ミュータンス・ミュータント」の感想

人像を追うことが主軸

 共通する死因と死体の特徴。一体、何が起こっているのか。謎解きのための伏線を張り、最後に一気に収束し謎解きをするといった組み立てではありません。そもそもプロローグで、若い女性の歯を全て抜く作業をしている男の描写から始まります。この時点で、この連続不審死が殺人であることを明らかにしています。

 一体誰が犯人で動機は何なのか。そのことが主軸となって物語が展開していくのだろうと想像します。 

人称視点で描かれる物語 

 事件に関わる様々な人物をそれぞれを軸にして描いているので、特定の一人が主人公という感じがしません。事件の容疑者として捕まった人物を主軸に描かれたと思えば、この事件の原因解明をしようとする歯科大の教授を主軸にしたり、事件の真相を究明しようとする刑事を主軸にしたり、生き残った被害者を主軸にしたり。

  場面場面で主軸となる人物が変わる上に三人称なので、話が見えにくい感があります。一体、この物語はどこへ向かおうとしているのか。時々、迷子になってしまいそうになります。 

ロローグで答えは分かっているのに・・・

「この事件は病気なのか、事故なのか。それとも殺人なのか」

 このように紹介されていますが、先ほども書いたようにプロローグで殺人現場の描写があるので、当然、連続殺人と思い読み始めます。しかし、読み始めてからしばらくは、本当に殺人なのか?と思ってしまうほど殺人でないことの状況証拠ばかりが描かれてます。容疑者として「草野正」は逮捕されますが、彼が犯人という証拠は全く出てきません。逆に、犯人でないという証拠ばかりが出てきます。 

  • 一体、彼は何者なのか?
  • 本当に犯人なのか?
  • そして、本当に殺人なのか?

 そういう疑問が沸いてきます。この事件が殺人でない証拠として出てきたのが、ミュータンス菌の突然変異体「ミュータンス・ミュータント」です。この説が出てきたことにより、殺人からさらに遠ざかります。読者の混乱は増すばかりです。
殺人と細菌。どちらなのか?
 しかし、プロローグでは殺人が描かれている。プロローグで描かれていたシーンは一体どういうことなのか、と思ってきます。  

人の回想 

 事件から20年後。物語の中盤で、犯人が当時の犯行を回想します。この時点で、殺人事件であったことが明確にされるとともに犯人が分かります。「ミュータンス・ミュータント」の説は誤っていたことになります。犯人が分かることにより、中盤以降は趣を変えます。前半は、殺人と細菌で読者を混乱させました。その混乱を犯人の回想で殺人へと収束させてしまうのも、ちょっと強引かなと感じざるを得ませんが。犯人が分かった中盤以降は、動機と犯行の方法が中心に描かれていきます。 

 動機については、無理があるような気がします。抜歯を極めるために、健康な人間の歯を抜き続ける。その結果、たまたま死に至ってしまう。殺人が目的でなく、抜歯の練習が目的というのは猟奇的で異常です。抜歯を行う行為を、比叡山の千日回峰行になぞらえるのも無理があるかな、と感じます。被害者の人数の説明にもなるあたりは面白いのですが。 

 抜歯行為を、技術を極めるためという目的を持たせている割には遺伝子で引き継がれた行為であるとも言っています。犯人は三世代にわたって、同じ抜歯行為を行っているからです。純粋な目的のためなのか、遺伝子による欲求なのか。相容れない二つの動機に感じますが、その両方を原因にしています。 

察の無能さ 

 30人以上に及ぶ連続殺人でありながら、警察が犯人を捕まえることが出来ないとは考えられない。しかも、犯人は大学生に過ぎないのに。警察の存在感が薄いので、この犯罪に対する緊迫感がかなり薄まっているように感じます。しかも、最後の被害者には、比叡山の御札が置かれていた。それなのに犯人の目星がないからと言って、御札を極秘にし「ミュータンス菌」のせいにして事件を終わらせてしまうだろうか。

 最終的には犯人を逮捕することになるのですが、少し警察を甘く書き過ぎな気がします。 

最後に 

 現役歯科医が執筆した小説で、著者は予防歯科に対する啓発を大きな目的としているようです。歯磨きの大切さを小説のあちこちで書いています。そのことが、物語の進行を妨げている部分もあります。突然、歯磨きの大切さを詳細に語りだしたりします。突然変異体のミュータンス菌「ミュータンス・ミュータント」は事件の原因でないのですが、最後に「ミュータンス・ミュータント」による遺体が発見されることになります。そのことを描くことにより、最後の最後で、さらに予防歯科の重要性を強調してきます。

 歯のない死体の謎を解く。その発想はとても面白いのですが、犯人の回想で犯行を明らかにするのは反則かな。伏線も感じなかった。一気に読み終えましたしつまらない訳でもないのですが、物足りなさはありました。 

ミュータンス・ミュータント

ミュータンス・ミュータント