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『空の中』:有川 浩【感想】|与えられる愛情で、頑なな心が溶けていく

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 「塩の街」「海の底」と並び、自衛隊三部作の航空自衛隊編「空の中」です。三部作の中では、この「空の中」が一番読み応えがありました。ページ数からも分かる通り、一番ボリュームがあったということもあります。 

 「塩の街」よりは多少ましですが、非現実的で有り得ない設定です。どちらかと言えば、SF的な雰囲気が漂います。ただ、その非現実的な世界をロジックで説明しようとする努力は感じます。本作は、高度2万メートルに浮かぶ「ある物体」との邂逅によって引き起こされる物語です。単なるSFではなく、そこには有川浩氏の作品に欠かすことのできない恋愛物語も根底にあります。

 ネタバレがありますので、ご了承ください。

「空の中」の内容

200X年、謎の航空機事故が相次ぎ、メーカーの担当者と生き残った自衛隊パイロットは調査のために高空へ飛んだ。高度2万、事故に共通するその空域で彼らが見つけた秘密とは?一方地上では、子供たちが海辺で不思議な生物を拾う。大人と子供が見つけた2つの秘密が出会うとき、日本に、人類に降りかかる前代未聞の奇妙な危機とは―【引用:「BOOK」データベース】 

「空の中」の感想   

定外の存在

 知的生命体と人類の邂逅は、二度の航空機衝突という悲惨な事故から始まります。この事故が物語が始まるきっかけであり、後に物語を大きく動かすことにもなります。高位の知的生命体の出自は物語の根底に関わることなので、詳しく書きません。この知的生命体は、物語中では【白鯨】と呼称されます。 ここからは高位知的生命体のことを【白鯨】と書きます。

 圧倒的な知的レベルを持った【白鯨】と、どのように人類は関わっていくのか。それが物語のひとつの軸です。それをふたつの異なる物語で語っていきます。舞台は航空自衛隊岐阜基地と高知のとある田舎町です。  

空自衛隊岐阜基地

 当初、政府は【白鯨】と友好的な関係を構築しようとします。その裏には、圧倒的な知性の前に対抗する手段がないという側面もあります。航空自衛隊岐阜基地に対策本部を設置し、初めて【白鯨】と接触した女性パイロット武田光稀三尉と技術者の春名高巳を窓口にして【白鯨】との関係を構築しようとします。この二人が、航空自衛隊岐阜基地における主人公です。

 武田三尉は、とても個性的で魅力ある女性として描かれています。魅力あるというと語弊があるかもしれません。パイロットという男社会の中を生きていくために身に付けたであろう高圧的で頑固な性格です。特に、男性に対しては頑なです。美人ということですが。一方、高巳は軽い男のように描かれていますが、実は芯の通った男です。最初は、高巳が武田三尉に好意を抱きます。 

そこからは有川浩氏らしい恋愛要素をふんだんに取り入れ微妙な恋愛模様を描いています。 

 二人は【白鯨】との窓口として、友好的な関係の構築に奔走します。しかし、政府の裏切りにより【白鯨】と敵対してしまいます。まさに、後ろから鉄砲を撃たれたと言うか梯子を外されたと言うか。結局は政府の思惑どおりにいかず、その後始末を対策本部が丸投げされることになるのですが。新たな友好関係の構築のための交渉には、様々な障害が伴います。国としての危機管理が失敗した時のつけがどのようになるのか。現実的な問題提起を含んでいるのかもしれません。その状況変化に対応しようとする対策本部の激務の様子が伝わってきます。

 その激務の狭間に、二人の恋愛を散りばめています。三尉は20代前半。高巳は20代後半。若い二人に頼らざるを得ない状況に、二人の負担はかなり大きいのでしょう。その負担を分かち合えるのが二人だけ。頑なな三尉の心が揺れ動くのも分かります。 

知の田舎町 

 もうひとつの物語は、高知の田舎町で始まっています。主人公は、【白鯨】との航空機衝突事故で父親を亡くした高校生の斉木瞬と幼馴染の天野佳江です。父親を亡くした後、瞬は浜辺で未知の生物を拾います。フェイクと名付けられた生物は、読者には【白鯨】と何らかの関係があると分かります。しかし、瞬にとっては【白鯨】との関係性は分かりません。ただ、父親を失った心の穴埋めのためにフェイクと生活をします。フェイクに対する瞬の異様な愛着に危機感を抱いた佳江は、だんだんと瞬との距離が開いていくことを感じ心を痛めます。 

この二人の物語は、恋愛というよりも恋心に気付くまでの心の動きを描いています。

 離れることによって、本当の気持ちに気付く。高校生としては少し幼い感じもしますが、幼馴染という関係が恋心を抱いているかどうかの判別を狂わせていたのでしょう。瞬は、ある事件をきっかけに異常な愛着を憎悪に転換してしまいます。その後、その憎悪が誤りであったことにも気付きます。しかし、どうすればその過ちをなくすことが出来るのか。その方法が分からず、佳江から更に離れていってしまうのです。 

たつの物語が合わさる

 後半、物語の鍵となる人物が登場します。航空機衝突事故のもう一人の遺族である少女です。この少女の登場で、武田三尉と高巳、瞬と佳江、そしてふたつの物語が交わります。少女は【白鯨】に燃えさかる憎悪を抱いています。そして、瞬を【白鯨】の元へと連れて行くのです。自分の目的を達成するために。

 ここからは、今まで別に進んでいた物語が一気に一ヶ所に収束していきます。三尉と高巳。瞬と佳江。そして少女。それぞれの思惑を持って、直接対決に挑みます。

 三尉と高巳は、【白鯨】と共存すること。瞬は、過ちをなかったことにすること。少女は、私憤を晴らすこと。それぞれの思惑の中で、テーブルを挟み闘います。

終わりに

 結末は、予想範囲内ってところでしょうか。しかし、これ以外の落とし所もないと思います。結果としてはハッピーエンドの部類です。エピローグ的に、三尉と高巳、瞬と佳江の話があります。恋愛小説としての結末もきっちりと入れてきます。特に、三尉と高巳の結末はとても心温まるものでした。

 何だかんだ言っても、やっぱり恋愛小説です。いい意味でも悪い意味でも、有川浩氏らしい小説でした。ラノベの延長線上に位置する小説です。

空の中 (角川文庫)

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