主人公の「サンちゃん(妻)」が、夫とそっくりの顔になっていくところから始まります。夫婦間の関係性を描いた作品なのかな、と思いつつ読み進めていきました。結末に至ると「もしかしてオカルト?」なのかな、と感じます。読後は、ボンヤリとした気持ち悪さが残ってしまいます。
異類婚姻譚の内容
子供もなく職にも就かず、安楽な結婚生活を送る専業主婦の私は、ある日、自分の顔が夫の顔とそっくりになっていることに気付く。「俺は家では何も考えたくない男だ。」と宣言する夫は大量の揚げものづくりに熱中し、いつの間にか夫婦の輪郭が混じりあって…。【引用:「BOOK」データベース】
異類婚姻譚の感想
理解できる部分
夫婦の顔が似てきたところまでは良かったのですが、夫の顔のパーツがズレるというくだりになったところで現実的な物語ではないのだなと気付いてしまいました。そうなれば、「顔が似てきた」「顔のパーツがズレる」などのエピソードに一体どういった意味を含ませて書いているのかが問題になってきます。
少しストーリーを言ってしまいます。夫は「1日3時間はテレビを見る」「家では何も考えない」と、結婚当初に「サンちゃん」に宣言します。そして、その通りに実行していきます。とにかく、だらしない。読んでいて苛立ちを覚えるほどです。そうする内に夫の顔のパーツが本来あるべき場所から、だらしなくズレていってしまうようになります。このズレは、だらしなく過ごす夫の生き方を表しているのでしょう。この部分は、おそらく理解できていると思っていますが。
理解できない部分
ある日、サンちゃんは自分の顔のパーツまでズレていることに気付いてしまいます。冒頭の夫婦は似てくるという話が繋がってきます。サンちゃんの夫は会社も行かなくなり、専業主夫のような生活を送り始めます。毎日揚げ物をして、サンちゃんに食べさせるようになります。サンちゃんは夫の揚げ物に辟易としながらも、食べ始めると止まらない。だらしない夫に同化していっているということなのでしょう。
話は前後しますが、この物語には、サンちゃん夫婦ともう一組の夫婦「キタエさん」夫婦が登場します。キタエさんは、飼っている猫が家のあちこちにおしっこをするので捨てることを決意します。捨て場所として、サンちゃんが「山」を提案します。そして、山に捨てにいくのです。
ここで、サンちゃんの夫の話と繋がるのでしょうか。家で揚げ物をし続ける夫を、おしっこをし続ける猫とだぶらせているのかもしれません。最終的には、夫もキタエさんの猫と同じ運命を辿ります。
ちょっと読み取れませんでしたが、猫と夫には同一性があるのでしょうか。
猫のおしっこに純粋に困っているキタエさん。夫の揚げ物に困っているようでありながら食べてしまうサンちゃん。ここに同一性を感じることは出来なかった。猫と夫に関連性を感じることが出来ないなら、猫の話は不要になってしまいます。そうだとしても、このふたつの事柄にどういった意味を持たせているのか。私には読み取れませんでした。しかも夫の成れの果ての意味するところも、よく理解できませんでした。
終わりに
比喩が暗示していること。そして現実の話。その絡まりあいが混然として収拾がつかず、何だかモヤモヤしてしまいました。しかも、結末はオカルトですし。「何だったのかなあ」というのが、正直な感想です。だらしない夫を持った妻が、夫に取り込まれそうになっただけの話にしか感じませんでした。
ただ芥川賞の選考委員の選評を見てみると、高評価をしている委員の方が多いように感じます。そうなると、まだまだ私には読解力がないのかなと自省しないと駄目なのでしょう。
「異類婚姻譚」のほか、「犬たち」「トモ子のバウムクーヘン」「藁の夫」の3編が収録されていますが、どれもオカルト気味で好みではなかったです。
ちなみに、標題の「異類婚姻譚」とは
民俗学用語。異類求婚譚ともいう。人間が動物や精霊などの異類と婚姻する昔話の一つ。異類が男性の場合と女性の場合がある。男性の場合は,名を隠して女のもとに通う婿の本体がへびだったというへび婿入り型が代表であり,その他,笑話的なさる婿説話も知られている。女性の場合は,危機を救われたつるが美女となりその妻になる「つる女房」や,「はまぐり女房」のように動物が恩返しをする形式のものが多い (→動物報恩譚) 。その他,「柳の精物語」「羽衣伝説」などもこの類型である。 【コトバンクより】
- 作者: 本谷有希子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/01/21
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