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『なぜ秀吉は』:門井 慶喜【感想】|世のすべてを狂乱させる正気の人

ご覧いただきありがとうございます。今回は、門井 慶喜さんの「なぜ秀吉は」の読書感想です。

豊臣秀吉を描いた時代小説は多い。描かれ方も様々です。好意的に描かれることもあれば、冷酷で残忍な側面が描かれることもあります。多様な捉え方ができる人生と足跡だったということでしょう。

本作は、秀吉の朝鮮出兵の理由を問う物語です。最終目的は中国(当時は明)なので、朝鮮出兵はその過程に過ぎません。いずれにしても、海を超えて明を支配下に置くことを実行した理由は何なのか。

様々な解釈がされていますが、明確な答えは出ていないようです。想像し難い理由が必要なほどの暴挙なのでしょう。

「なぜ秀吉は」のあらすじ

舞台は大坂、京、名護屋…秀吉に巻き込まれる人、人、人。秀吉暗殺を企てる若き朝鮮人陶工・カラク。神出鬼没の謎の女性・草千代。博多復興に身を捧げた豪商・神屋宗湛。出兵の先駆けを務めるキリシタン大名・小西行長。秀吉なき世を構想する・徳川家康。いま明かされる天下人、晩年の胸のうち。【引用:「BOOK」データベース】

 

「なぜ秀吉は」の感想

実に基づく世界

物語は、朝鮮出兵のかなり前から始まります。明への出兵を決意したのが、天下統一の前であることを示すためです。周りの者たちは、まさか本気だとは思っていなかったでしょう。秀吉自身もどこまで現実的に捉えていたかは分かりません。目の前には、国内でやるべきことが山積していたのですから。

九州平定、小田原北条氏を降伏させ、天下統一を成し遂げます。天下統一後、秀吉は正式に明の征服を表明します。正式とは、大名たちに出兵を命令することです。過去に口に出した程度の話ではありません。

ここから明の征服のための実際的な動きが始まります。最終目的は明の征服ですが、これからは朝鮮出兵と表記します。

登場人物たちは、史実に存在した人々です。徳川家康、小西行長、石田三成などの武将をはじめ、豪商の神屋宗湛、千利休などです。名前が出る程度の人も多いですが、知っている名前が出るだけで全てに現実感が伴います。

一方、カラクは創作された登場人物でしょうか。彼は市井の人であり、朝鮮から来ました。彼の存在が、秀吉の朝鮮出兵に影響を与えることはなかったでしょう。しかし、武将や商人以外の視点も必要なのは間違いありません。

朝鮮出兵のための名護屋城の普請、秀吉の行動、朝鮮での戦況なども史実に基づいています。武将たちの心情も、残っている資料や行動から導き出したものならば、かなり的を得ているのかもしれません。

朝鮮出兵の理由という日本史の謎に何らかの結論を導き出すのならば、説得力のあるものにしなければなりません。史実に基づいた設定は説得力を増します。

 

鮮出兵の無謀

「なぜ」という疑問が生まれるのは、秀吉が明確な意図を伝えなかったことが大きな理由です。しかし、大陸への出兵があまりに無謀なことも理由でしょう。

簡単なことであれば、理由が分からなくても動けます。自分たちが受ける被害が少ないからです。しかし、現実的に考えれば、予想されるのは苦戦と甚大な被害です。そのリスクに見合うだけの理由が欲しいはず。

海を渡り、見知らぬ土地で戦いを続けるだけでなく、勝ち進まなければなりません。日本から兵を送るだけでなく、物資の補給もしなければならない。戦線が前進すればするほど補給線は長くなります。食料などは現地で調達可能かもしれませんが、渡海している人数は巨大です。

大名たちの中にも、大陸への出兵を疑問視し、無謀だと考えている者もいます。しかし、天下人となった秀吉の命令は絶対です。一度決めてしまえば、なかなか変えることはできません。翻意させるのも難しい。

冷静に考えれば、リスクの方が圧倒的に大きい。そこまでして明を征服する目的は何か。秀吉には何が見えていたのでしょうか。

 

吉の動機はどこに

秀吉は一体何を求めていたのでしょうか。

研究でも、朝鮮出兵の理由は明確ではないようです。様々な解釈が存在しますが、秀吉自身が明確に述べて歴史に残していなければ永遠に分かりません。残された資料から類推するしかありません。

作中でも、様々な理由が登場します。神屋宗湛は勘合貿易による利益が目的だと考えています。徳川家康は不安定な国内を安定させるために、日本の外に共通の敵を作ったと考えます。現在の研究においても、家臣の俸禄とするための土地が必要だったなど、様々な解釈がされています。

その中で、著者がどの説を採用するかです。どの説も一定の説得力がありますが、反論もあります。また、著者が全く新しい説を作り出すこともできます。

本作は小説であり、学術書ではありません。著者は創作することができます。もちろん、突拍子もないことであれば、読者は納得しません。すでにある説のどれかひとつを採用すれば新鮮味はない。他の説を支持する人にとっては、やはり納得できないでしょう。

本作で描かれている理由は、秀吉自身の性質です。説明はされていますが、論理的とは言い難い。人の本質は論理的ではないということでしょうか。

秀吉が明かした理由に対して、家康が独自の解釈をします。秀吉自身が語ったことでありながら、解釈によって変わってきます。秀吉の内面に理由を求めるのは、創作しやすかったことが理由かもしれません。

 

終わりに

波乱万丈な秀吉の人生の中でも、晩年の朝鮮出兵に絞った作品です。朝鮮出兵が謎に包まれていることを改めて認識しました。また、名護屋城の普請など朝鮮出兵に至る具体的な動きも描いているので、知らなかった歴史を知ることもできます。どこまで史実で、どこからが創作かを見極める必要もありますが。

最後までご覧いただきありがとうございました。