こんにちは。本日は、伊坂幸太郎氏の「ラッシュライフ」の感想です。
伊坂幸太郎氏の第2作目です。前作「オーデュボンの祈り」でも感じましたが、彼の作品はまるでジグソーパズルが作られていくような感覚です。いろんなピースが嵌まっていき、最後に一つの絵が完成します。
様々な張られた伏線が、物語の結末で一気に収束します。限りない爽快感があります。
「ラッシュライフ」の内容
泥棒を生業とする男は新たなカモを物色する。父に自殺された青年は神に憧れる。女性カウンセラーは不倫相手との再婚を企む。職を失い家族に見捨てられた男は野良犬を拾う。幕間には歩くバラバラ死体登場―。並走する四つの物語、交錯する十以上の人生、その果てに待つ意外な未来。不思議な人物、機知に富む会話、先の読めない展開。巧緻な騙し絵のごとき現代の寓話の幕が、今あがる。 【引用:「BOOK」データベース】
「ラッシュライフ」の感想
魅力的な登場人物
本作は、全く違う4つの物語(実際には5つだと自分は思いますが)が登場します。1冊に4つの物語を書いているので、それぞれの物語を描く文章量は少ないはずです。
しかし、個性が豊か過ぎる登場人物と巧みなストーリー展開で、全ての物語が印象に残ります。登場人物の個性を表現するのが、軽快で洒落た台詞と行動なので、個性を説明する余計な文章がありません。また、小気味よいテンポが気持ち良く、ページを捲る手が止まりません。これこそ、伊坂ワールドです。
4(5)つの物語
4つの物語は非現実的なものばかりですが、実際に起こっているかのような錯覚を起こします。人が死ぬ場面も登場します。日常で人が死ぬ場面に出くわすことは、ほとんど経験することはありません。それでも悲壮感や残酷さを感じさせず、それが当たり前のように描かれています。前作と同じく自然と受け入れてしまいます。
全く関係のない5人が送るそれぞれの日常が、仙台という街で意外な関係性を持ちながらリンクしていきます。関係は結構複雑です。時間軸が前後することも原因かもしれません。それが最後には全て繋がります。気持ちのよい読後感です。
ちなみに「オーデュボンの祈り」の伊藤も、会話の中で登場します。それも面白い。
終わりに
群像劇なので、一本の大きな筋の通ったストーリーがある訳ではありません。しかし、それぞれのストーリーがしっかりしているから物足りなさはありません。
特に、泥棒の黒沢がいい味を出しています。黒澤は、後の伊坂作品にも登場します。著者にとってもお気に入りのキャラなのかもしれません。
黒沢のセリフに、私が心打たれた台詞があります。
そのとおりです。当たり前のことですが、気付くことが出来ないことです。伊坂幸太郎だからこそ書ける台詞です。著者の面白さが詰まった作品です。是非。