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『フランス革命 ー歴史における劇薬ー』:遅塚 忠躬【感想】

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 こんにちは。本日は、遅塚 忠躬氏の「フランス革命 ー歴史における劇薬ー」の感想です。

 

 以前、佐藤賢一著「ナポレオン」を読みました。フランス革命はナポレオンを歴史に登場させた要因のひとつです。フランス革命の一連の流れの中にナポレオンは存在します。正確かどうか自信がありませんが、おおまかな流れは次のようなものだと理解しています。

絶対王政⇒フランス革命⇒共和制⇒第一帝政⇒王政復古⇒第二共和政⇒第二帝政⇒第三共和政

 革命期の人間関係、権力争いは複雑です。政治的な敵と味方、力関係、思想がなかなか理解しづらい。「ナポレオン」を読んで、フランス革命の知識のなさに愕然としました。

 そこで手に取ったのが本書です。岩波ジュニア文庫なのでジュニア向けの新書です。大人が読むには物足りないかもしれませんが、私の知識の無さを考えると適切な選択です。フランス革命の歴史ではなく、革命の効用・効果が書かれています。革命を劇薬に例えて、正と負、善と悪、光と影を説明しています。

 革命の原点、原動力、目的、効果、動機。様々な社会的階層の視点から考察します。フランス革命の裏にある本質が見えてきます。私が知りたかった内容とは多少違いますが、フランス革命の一面を知ることができます。 

「フランス革命 ー歴史における劇薬ー」の内容

「自由・平等・友愛」を合言葉に、近代史に最大の劇的転換をもたらしたフランス革命―。この事件は人間精神の偉大な達成である一方で、数知れぬ尊い命を断頭台へと葬った暗い影をもつ。なぜ革命はかくも多大な犠牲を必要としたのか。時代を生きた人々の苦悩と悲惨の歩みをたどりつつ、その歴史的な意味を考える。【引用:「BOOK」データベース】  

 

「フランス革命 ー歴史における劇薬ー」の感想

薬としての革命

 フランス革命を劇薬に例えています。劇薬はとんでもない効用を得ますが、とんでもない副作用ももたらします。正の効果と負の効果があります。劇薬であり毒薬ではありません。良い意味で、フランス革命がフランスだけでなく世界に及ぼした影響は大きい。

 一方、悲惨な効果ももたらしています。恐怖政治はそのひとつです。多くの人間がギロチンで命を落としています。罪の在り方は情勢で変わり、絶対的な罪でなく政治的な判断で罪が決められていきます。

 フランス革命が人類の歴史に与えたインパクトは大きいが、その裏の悲惨さも大きい。物事には二面性があるということでしょう。また、フランスという国家に与えた影響とフランス国民に与えた影響のそれぞれを考える必要があります。

 「自由・平等・友愛」に着目するなら、革命は必要であり必然であり望むべきものです。恐怖政治に着目するなら、革命は不要で遠ざけるべきものです。フランス革命は両者を同時に運んできました。

 両者を分けることはできるのでしょうか。偉大さと悲惨さを区分し、偉大さだけで革命を成し遂げることは可能だったのでしょうか。それを検証することで劇薬でなく良薬を用いることができた可能性を探ります。

 また、切り分けることができないならば正と負の両面から革命を検証しなければなりません。革命が劇薬ならば、そもそも劇薬が用いられた理由についても考える必要があります。何故、現状を変えるために革命が行われたのかについてもです。

 原因と効能(偉大さと悲惨さ)を考えることでフランス革命が見えてきます。

 

薬が用いられた理由

 何故、穏やかな方法で社会を変革できなかったのか。劇薬という痛みを伴う方法が選ばれたのか。当然、理由があるでしょう。選択したのではなく必然的な流れだったのかもしれません。ただ、相当に根拠のある状況があったはずです。

 革命は変革のためにあります。変革は現状を変えるためです。旧体制が行き詰まり、国民の不満が溜まることで、状況は現状を続けることを許さなくなります。穏やかで緩やかな手段を待てないほどにです。フランスはヨーロッパ大陸にあり、陸続きで多くの国と接しています。自国だけの問題で済まない部分も多い。変革のスピードも求められます。

 旧体制のフランス社会の特徴は、次の三つでしょう。

  • 身分制度(差別)
  • 領主制(租税の徴収権)
  • 絶対王政(権力の集中化)

  身分制度は、聖職者を第一身分、貴族を第二身分、平民を第三身分にしています。聖職者と貴族には特権が与えられ、国民の98%を占める平民は差別を受ける。中世では合理的な制度だったからこそ生まれたのでしょう。しかし、貴族の役割が薄れると不当な特権に成り下がります。加えて平民は精神的な屈辱も感じています。

 第三身分の中でもブルジョワ階級と貧しい民衆・農民が存在します。第三身分が革命への原動力になりますが、ブルジョワと大衆には隔たりがあります。それぞれの目的は違いますが革命の担い手になる意思は同じです。劇薬を用いるのは、彼らの意思だったのでしょう。

 

薬の効果

 フランス革命は旧体制の変革という大きな目的を果たしますが、効果を一言で言い表すのは難しい。多くの変革と情勢の変化、形成の逆転などが入り混じります。聖職者・貴族・ブルジョワと大衆のそれぞれの利害に加え、同じ階級でも立ち位置が違うものが混在します。旧体制の特権を維持したい者もいれば、特権の廃止と権利の平等、生存権の確立を求める者もいます。

 革命の方向性は常に変化します。誰もが自身の考える(望む)方向に変革を進めようとします。多くの大衆が求めたのは平等であり、それ以上にパン(生きるための糧)の確保です。共産主義的な発想です。ブルジョワ階級が求める自由主義とは相容れません。ブルジョワ階級は資本主義的発想に依っています。

 本来、相容れないが旧体制を倒す必要性は同じです。平等と自由の確立です。平等には機会の平等と完全な平等があり、自由には精神的な自由と物質的な自由がありますが。

 ブルジョワと大衆が手を結び、自由と権利を手に入れるために行動します。後にブルジョワと大衆は離れていき、ブルジョワは大衆の敵になります。元々、目的が完全に一致している訳ではないので必然の流れかもしれません。政治の派閥の力関係も革命の方向性を変えていきます。

 劇薬の効果は何十年も後になって定着したものもあります。生存権は現在の我々にとって欠かせないものとして存在します。

 

薬の痛み

 フランス革命で思い浮かぶもののひとつにギロチンがあります。負の印象が強い証拠です。血の流れない革命はないということでしょうか。だとしてもフランス革命で流された血の量は尋常ではありません。

 革命時は社会が不安定になり、国民の心も不安定になります。不安定な心は疑心暗鬼を生み、間違った暴力を発生させます。革命を成し遂げることではなく、自身の立場を守る為の行動に走り悲劇を生みます。

 大衆が議会を信頼せず直接政治を求めることで議会が機能不全に陥ります。議会政治の機能不全は独裁と恐怖政治を招きます。議会が正当に機能しないことで諸党派の対立が激化する。機能していれば民主的な話し合いで問題解決を図ることができますが、利害の調整ができないので対立する勢力を排除していくことになります。結果、排除を正当化する論理が展開し恐怖政治が始まります。

 恐怖政治が招いた犠牲(痛み)は、今なおフランスの人々に亀裂を残しているのでしょうか。しかし、劇薬は革命の流れであり、傾向であり、選択するものではなかったのかもしれません。近代化にはいくつかの道がありますが、フランスの取るべき道の選択肢は他になかったのでしょう。

 

終わりに

 フランス革命は偉大で悲惨です。人間の偉大さと悲惨さの表れでしょう。フランス革命の歴史的事実だけでなく、背後にある人々の動機や駆け引き・流れなどが分かります。劇薬は大きな効果とともに副作用があり、人間の情熱の大きさを見せます。

 劇薬を選ぶことは、人間がそれだけの大きさのものを求めている証拠です。フランス革命はフランス人の果てしない熱意の放出です。良い面も悪い面も含めて、我々はフランス革命を知り、学び、活かさなければならないことを実感しました。