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『ナポレオン1 台頭篇』:佐藤 賢一【感想】|道を拓け、己の力で

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 「ナポレオン・ボナパルト」 の名前を知らない人はいないだろう。フランス革命期の初代フランス皇帝であり、数多くの足跡を残している。では、彼の人生はどうだろうか。どのような幼少期を過ごし、どのようにして皇帝にまで上り詰めたのか。結果でなく、ナポレオンという人物を形成した過程を描いています。

 ナポレオンも一人の人間であり、高級貴族でもない。自らの力で成り上がります。フランス革命という時代も彼に味方しただろう。フランス革命は絶対君主制の崩壊へと繋がりますが、実際はそれほど単純ではない。多くの政治的駆け引きと力関係が蠢く時代になります。ジロンド派、ジャコバン派、王党派と多くの派閥が登場し、混迷を極めます。国内のみならず国外の情勢も常に変わる。

 ナポレオンの台頭は、彼の軍事的才能が注目されたことによる。軍事と政治は切り離せない。政治の後ろ盾となるが諸刃の剣とも言える。彼の浮き沈みが政治と軍事の両方に及ぶことからも分かる。

 彼の幼少期からイタリア方面軍司令官へ。そして、ロベスピエールの処刑と自らの投獄。そこからの復活。小貴族の末裔の次男に過ぎない彼の波乱に満ちた人生に引き込まれていきます。 

「ナポレオン1 台頭篇」の内容

1769年8月15日、コルシカ島の小貴族の次男として生まれたナポレオン。一代でフランス皇帝に上り詰めた男は、いかにして「英雄」となったのか?

1793年のトゥーロン包囲戦、1795年のヴァンデミエールの蜂起鎮圧で一躍名をあげ、イタリア方面軍司令官として数々の戦争に歴史的勝利を収めるまでの躍進期を描いた、第1巻「台頭篇」。  

 「ナポレオン1 台頭篇」の感想

ランス革命

 フランス革命期の混乱の中、ナポレオンが台頭する過程は困難を極めます。それを理解するにはフランス革命の知識が必要です。ある程度の知識を求められます。

 私がフランス革命で思い出すのは、ルイ16世とマリーアントワネットぐらいです。市民革命の印象ですが、背景に政治的思惑があったことも知りました。それも想像以上に複雑な政治的駆け引きです。絶対君主制の崩壊がもたらすものは、自由だけでなく権力の空白です。誰が権力を握るのか。革命の成功の裏には派閥闘争も含まれます。新しい近代国家体制の行く末は混沌としています。

 革命の背景には、

  • 不平等な階級制度
  • 経済危機
  • 思想の変化

といった様々な要因があります。市民による貴族の排除は過激を極めますが、それほどの不満があったことの表れです。しかし、革命が成功しても簡単に問題は解決されません。何故なら、思想は統一されることはありません。そのことが権力の奪い合いを生みます。また、経済の立て直しも簡単ではありません。国内の混乱は諸外国の付け入る隙を生み、更なる危機をもたらします。

 フランス革命を紐解くと、それだけでひとつの学問になります。全てを理解するためには相当の勉強が必要です。本書を読むために知識があるに越したことはありませんが、ある程度の知識があれば読み進めることはできます。流れと背景を知っていれば、物語を追うことはできます。

 革命は、貴族を追い落として終わりではありません。その後の安定期にまで辿り着いて、初めて革命が成功したといえます。絶対君主制からどこに向かうのか。共和制なのか。それとも君主制に戻ってしまうのか。

 革命は勢いで始まります。その後は市民の手から離れてしまい、一部の人間の権力闘争になってしまいます。フランス革命とその後の混乱の中で、ナポレオンの役割とは一体何だったのでしょうか。

 ナポレオンの主観で描かれるフランス革命は、当然、彼の立場からから見ている景色です。また、彼にかかわる人々がどのような役割を果たしたのでしょうか。それを理解すれば、ナポレオンの存在の意義も理解できるはずです。フランス革命を勉強した後で読めば、また違った側面が見えてくるかもしれません。 

 

ポレオンの出自

 ナポレオンは初代フランス皇帝なので、少なくともフランス人だと思っていました。しかし、彼の出自はコルシカ島です。出生時の名前は「ナブリオーネ・ブオナパルテ」です。イタリアのトスカーナ州に起源を持つ血統貴族です。

 コルシカ島はジェノバ共和国に属していましたが、フランスへ売却されたことによりフランス領になります。ナポレオンは先祖からのフランス人ではありません。時代がナポレオンをフランス人にします。

 彼は故郷コルシカに対する思いが強い。フランス軍に配属後も、長期休暇を取得してコルシカ島に戻っています。彼にとってフランス革命よりもコルシカ島の情勢の方が大事なのです。だからと言って、コルシカが応えてくれると限らないところが皮肉です。勢力争いの結果ですが、コルシカ島から追われてしまいます。生粋のフランス人でなくコルシカ島からも見放されれば、彼はアイデンティティをどこに求めればいいのでしょうか。彼は自分自身の存在に求めたのでしょう。

 コルシカ島でなくナポレオンという人物を中心に考えることで、出自を超えた存在になる必要があったのでしょう。 

 

事的才能と努力

 彼の軍事的能力は才能なのか努力なのか。

 努力が大きい気がしますし、実際、眠らない男が強調されています。眠らないのではなく、どこでも深い眠りを得ることができるということですが。

 冷静に戦力を分析し、軍勢と装備を配置します。当然のことですが、知識と経験と決断力が必要です。経験は積む以外に得ることはできませんが、知識と決断力は努力で得ることができます。

 ブリエンヌ陸軍幼年学校からパリ陸軍士官学校へ進学し、圧倒的なスピードで卒業します。家庭の事情もありますが、彼の努力の結果です。一方、砲兵科を選ぶ姿は上昇志向の強さを感じさせます。自らの特性も認識していて冷静に分析し行動しています。それが軍事的行動にも繋がるのでしょう。

 しかし、過大な能力は権力者にとって危険視されます。コルシカ島を追われたのも、彼の能力の高さが一因です。そのことは彼の教訓となりますが。

 トゥーロンの戦いで、彼は軍隊での地位を上げていきます。彼の上昇志向を満たし、かつ軍事的能力の発揮の場でもありました。ロベスピエール兄弟の後ろ盾を得ることにもなります。しかし、この時期のナポレオンは、まだ立ち回りが未熟だったようです。ロベスピエールの失脚に巻き込まれてしまいます。軍事的才能も、政治的権力争いには役立ちません。コルシカ島に続き、再びすべてを失います。失う時は一瞬で全てを失うことが、その後の彼の行動に与えた影響は大きい。

 イタリア遠征での活躍の裏には、これまでの転落の経験があります。慎重さを兼ね備えたことにより、軍事だけでなく政治の重要性も理解していきます。

 

終わりに

 様々な危機を乗り越え、着実に地位を固めていきます。戦争での勝利ほど分かりやすい結果はありません。分かりやすいからこそ危険だとも言えますが。

 ナポレオンが歴史の表舞台に出るまでの時代であり困難な時代でもあります。一軍人としてのナポレオンが、今後、どのように上り詰めていくのでしょうか。

 

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