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『ナポレオン2 野望篇』:佐藤 賢一【感想】|世界を、手に入れろ

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 イタリアで勝利を得て、パリに凱旋します。英雄としてフランスでの存在感は増し、結果、イギリス方面軍司令官に任じられます。イギリスはフランスにとって大きな敵だからです。ナポレオンにとって厳しい敵であることは間違いありません。少なくとも海戦においては。

 しかし、イギリス本土への進出は現実的ではありません。それでもイギリス方面軍司令官として戦わなければならない。軍人として戦果を出さなければ存在価値を高めることはできません。

 彼の才能は、戦略を練り勝つための戦いをすることです。考えた結果がエジプト遠征です。イギリスの植民地であるインドとの連携を断つ。イギリスと正反対の方向への進出を考え、総裁政府も認めるだけの戦略を示します。それでいて勝利の見込みも持っています。どのような戦略を持ってエジプトとの戦いを進めるのか。常勝将軍の行く末が気になります。 

「ナポレオン2 野望篇」の内容

イタリア遠征で数々の勝利を挙げ、次に大軍を率いてエジプトへ向かったナポレオン。だが、諸外国による対フランス大同盟で、フランス本国が危機に陥る。

クー・デタで権力を手に入れたナポレオンは、1804年、34歳で初代フランス皇帝の座に。若き将官が皇帝まで上り詰め、ヨーロッパの覇権争いに乗り出す第2巻「野望篇」。 【引用:「BOOK」データベース】 

「ナポレオン2 野望篇」の感想

ジプト遠征

 地中海と言えどもイギリス海軍の制海権が及んでいます。地中海を渡る緊張感が伝わってきます。数々の偶然の結果、エジプトに辿り着きますが、これもナポレオンの強運でしょうか。それとも運命なのでしょうか。

 上陸後は、順調に勝利を重ねます。ナポレオンの軍才と陸戦でのフランス軍の強さが際立ちます

  • 状況に応じた戦略
  • 状況把握
  • 軍の士気の高さ

 エジプトが戦略において立ち遅れている点もありますが、フランス軍は勝利を重ね、勢いを増します。しかし、転機は訪れます。アブキールの海戦でイギリス艦隊に大敗を喫します。フランス軍は船の大半を失い、フランスに帰国できなくなります。そもそも地中海における制海権はありません。孤立はフランス軍の士気を下げかねません。フランスのための戦いですが、故国に帰れない上に応援もありません。何のための戦いか見えなくなってしまい、総崩れの可能性もあります。

 そこで方針を転換します。状況に応じて動きを変えるのは、ナポレオンの才能でしょう。勝利を得るのと同じくらい生き残ることも重要であり、それが軍を動かす者の責任です。ナポレオンが選択したのはトルコへの進出です。ペストの流行もあり順調ではありませんが、一進一退を繰り返します。

 一方、フランス国内も動きがあります。戦場で日々が経過するのと同様に、フランス国内も日々は経過します。戦争を行っている国は内政も安定しないものです。外部の敵の存在とともに、内部にも敵が存在します。エジプト遠征中の国内政治の混乱はクーデターを生みます。ナポレオンにとって混乱をうまく立ち回れば権力を握る手段になる可能性はありますが。 

 

一執政から皇帝へ

 ナポレオンが求めるのは自身の立場の安定です。クーデターで立場が危うくなった経験もありますし、内政の安定が国の安定にも繋がるからでしょう。戦場で結果を出すためには、国内を留守にします。帰ってきた時に政情次第で立場が変わるのでは危うい。クーデターがいつ起こるか分からないのでは戦場に行くことはできません。第一執政になったのはクーデターの危険をなくすためです。軍才のみならず政治力も必要になってきます。

 軍事は敵が明確であり、勝利という同じ目的のために行動することができます。一方、政治は人間関係と思惑により敵味方が入れ替わります。ナポレオンの政治力だけでは十分ではありません。だからこそ、タレイランやフーシェの存在感が強くなります。

 政治の世界では、国内の安定が目的の者ばかりではありません。自身の保身や出世を第一に考える者も少なくありません。時々の情勢で敵味方が簡単に変わります。また、その場にいないとすぐに情勢を変えられてしまいます。

 ナポレオンにとって軍人として果たすべき役割は第二次イタリア遠征です。国を留守にしても行かなければならない理由は、戦場こそがナポレオンの存在価値だからでしょう。

 ナポレオンは自身の立場の安定とフランスの安定の両方を求めていたのでしょう。そのためにナポレオンは絶対的な地位を必要とします。終身執政では足りず皇帝になり、フランスは帝政になります。王政と帝政の違いは何でしょうか。権力が集中しているのは同じに見えますが、ナポレオンは実力で皇帝になっています。国民の力も十分に理解しているからこそ民衆にも目を向けます。フランス民法典の制定は軍事的才能ばかりでないことの表れかもしれません。

 国内が安定すれば国外へ目を向けることができます。戦争の版図の拡大していきます。 

 

頂期

 ドイツ遠征を始めヨーロッパ大陸での戦争は勝利が続き、順調に版図を広げます。ナポレオンの戦略を信頼するからこそ兵の行動も一丸となります。加えて、皇帝という名前が彼の行動を力強く前に進めます。戦場を指揮し相手国と和平を結ぶ。皇帝だから国内の根回しの必要はなく、すばやく政治的判断を下せます。だからと言って、反感を得ない訳ではありませんが。

 皇帝になりヨーロッパ大陸を支配していくにつれ、彼の行動と心中も変化していきます。フランスのための戦いから、自身のための戦いへと変化しているように感じます。各地の王に一族を配置します。信頼に足る人物が一族だけという事情もあったでしょうが、周りから見れば不満の原因になります。特に、ナポレオンのために動いてきた人々にとっては。

 軍では目に見える成果があるから、能力のある物を抜擢しやすい。ナポレオンにとっても軍事の才能のある者は魅力的なのかもしれません。政治は目に見えにくく、裏切りがあり信頼できない。一族に傾くのは仕方ないことかもしれません。ナポレオンの独裁色が強まります。 

 一方、トラファルガー海戦での敗北が尾を引きイギリスとの戦いは苦しい。海軍力の差はナポレオンの苦悩の一つです。

 

終わりに

 王政の独裁は市民を顧みませんでした。共和制は安定した政治を生まなかった。ナポレオンが独裁に向かうのは自然な流れかもしれません。しかし、敵は増えていきます。

 政治の世界は敵が見えにくい。静かに彼の絶頂期を脅かすことになります。頂点がいつまでも続かないことは歴史が証明しています。ナポレオンは理解していそうだが、権力の座に就くと忘れてしまうのでしょうか。

 

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