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『ナポレオン3 転落篇』:佐藤 賢一【感想】|果たすべき、使命がある

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 転落篇が一番スピード感があります。二度の退位と復権、そして人生の終末へと続きます。ナポレオンの失脚は、フランス国家の変革です。一族を次々と王に任じれば、敵を作ることになるのは明白です。王政を排したフランス革命を知っているナポレオンが何故でしょうか。手に入れると離したくなくなるのかもしれません。実力で手に入れたものなら尚更でしょう。

 戦争で広げた版図を守り、奪い返すために新たな戦争を起こします。戦争自体がナポレオンの望むものであり、彼の権力の背景です。しかし、戦争は国を疲弊させます。

 コルシカ島出身のナポレオンが、フランス革命を経て皇帝へ。ヨーロッパを手中に収めようとします。彼の行き先に待っているものは歴史が証明しています。 

「ナポレオン3 転落篇」の内容

諸国との戦争に破竹の勢いで勝利し続け、ヨーロッパをほぼ手に入れたナポレオン。オーストリア皇女と再婚して跡継ぎにも恵まれ、絶頂期を迎えるが、酷寒の地・ロシアへの遠征に失敗し、対フランス同盟軍に追い詰められてゆく。

1814年、ついに退位を余儀なくされ、地中海に浮かぶエルバ島への追放が決まるが―。「まだ私は終わりではない」。再起を懸け、男は最後の戦いに挑む!【引用:「BOOK」データベース】 

「ナポレオン3 転落篇」の感想

位と退位

 ナポレオンは二度の退位を迫られます。タレイランによるフランス臨時政府樹立の時とワーテルローの戦いの敗北の時です。

 ロシア遠征・ドイツ遠征の中で勝利と敗北を繰り返しますが、ナポレオンの強さは健在です。ロシア遠征では、モスクワを陥落します。焦土作戦により予想外の結末を迎えることになりますが。ロシアの寒さも想定以上だったでしょう。それでも、対フランス大同盟を相手に引きません。それほどナポレオンは強大です。

 そのような中、パリの陥落はナポレオンの戦略ミスとタレイランの策略です。ナポレオンに対する風向きが変わります。フランス国家の目的とナポレオンの目的が一致しなくなってきたのでしょう。ナポレオンの目的は政治家たちの思惑から離れていきます。

 タレイランやフーシェが王政復古に走るとは考えにくい。そうだとしても彼らは自身の安全を確保した上での王政復古を考えるはずです。政治的駆け引きでは、ナポレオンは彼らに敵いません。ナポレオンが皇帝になった力の源泉は戦争であり、いつまでも続かないと判断されたのかもしれません。戦争で力を見せるのならば、国を空けなければなりません。しかし、国内での謀略を止められません。それを防ぐために皇帝になったはずですが実情は変わらなかったのでしょう。

 ナポレオンの復権は民衆の敵と彼の敵が同一になったからです。ただ、ナポレオンが皇帝であり続けるには力を見せ続ける必要があります。戦争での勝利です。しかし、フランスにその力はあまり残っていません。

 ワーテルローの戦いの敗北は起こるべくして起きたのかもしれません。わずか3か月の復位です。復位に至る過程があまりにも順調でありすぎたからこそ維持できなかった。皇帝になるための苦労と皇帝に戻るための苦労、皇帝を維持するための苦労。維持するための苦労が一番大変なのかもしれません。 

 

ーテルローの戦い

 ナポレオンの運命を決めた敗北です。戦争には勝利もあれば敗北もあります。これまでも手痛い敗北は喫しています。しかし、ワーテルローはイギリスとの陸戦です。陸戦に絶対的自信を持つフランス軍が敗れることは、ナポレオンに戦況を見極める力が無くなったからでしょう。彼我の戦力を冷静に分析し戦略を練ることがナポレオンの強さでしたが、すでに戦力差を埋めるだけの人材もいなかったということです。将軍の不足を頭で理解していても、感覚的に分かっていなかった。

 戦略どおりに軍勢が動けば、もしかしたら結果は変わったかもしれません。しかし、動かないことを前提に作成を立てることもできたはずです。陸戦の強さを過信し、勝てると思い込む。冷静でいるようで状況判断ができなくなっています。マリー・ルイーズとナポレオン2世の存在があったからでしょう。勝たなければならないではなく、勝てると妄信してしまった。今まで得たものが大きいからこその自信ですが、失う恐怖もどこかにあったはずです。それを忘れるためにも勝利を信じ込んだのでしょう。

 プロイセンの加勢を考えないのは都合の良い戦略であり、勝つ要素しか見ていません。ワーテルローはの戦いは、始まる前から勝つ見込みはなかったのかもしれません。

 

ントヘレナでの晩年

 二度目の退位の後、イギリスへの亡命を図ります。自身を負かしたイギリスを利用しようとすることはナポレオンの戦略らしい。しかし、ナポレオンに運命が味方することはありません。

 セントヘレナに送られたナポレオンは復権を考えていたでしょう。しかし、あまりに遠く、現実的に脱出は不可能です。イギリスがヨーロッパに戻してくれることを期待するしかなく政治力も使えません。もはや何の力もありません。

 セントヘレナでのナポレオンは解き放たれた印象もあります。全てを失ったからでしょう。皇帝の座を取り戻したい気持ちあるでしょうが、最も重要なのは妻と子です。三人で穏やかに暮らすことで満足できたかもしれません。コルシカ島にいた頃のナポレオンに戻ったように見えます。

 セントヘレナで過ごした晩年は幸せだったでしょうか。もちろん、幸せとは言い難い。自らの意思で来た訳ではありません。皇帝であり続け、戦争を続け、地位を守ることに全てを費やす人生も幸せとは言い難い。 

 

フランスへの帰還(終わりに)

 没後、20年弱経ってヨーロッパに帰還します。彼の帰国がフランス国民に受け入れられます。ナポレオンが生きていた頃を知る人々も多いし、ナポレオンを失脚させた者もいます。ナポレオンは特別な存在であり、強いフランスの代名詞です。

 上り詰めるまでの過程は長かったが、転落のスピードは速く止めることができません。転落篇のスピード感はナポレオンの転落のスピードそのものです。3冊の中で、一番引き込まれます。