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『螺鈿迷宮』:海堂 尊【感想】|桜宮一族が抱く闇とは何なのか

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 「螺鈿迷宮」では、終末期医療と死亡時医学検索がテーマです。死亡時医学検索は、著者にとって重要なテーマです。現在の日本は死因不明社会だと断言しているからです。死因究明を果たさせない医療システムに未来はない。著者が抱いている危惧でしょう。ミステリーとして味付けをし、読者を楽しませながら問題提起をしていく。海堂尊の小説が読み応えがあるのは、医療システムに対する警告が根柢に流れているからでしょう。単なるミステリー以上のものを感じさせます。 

 螺鈿迷宮では、「死」が物語の軸になっています。そして、終末期医療と死は切り離すことが出来ません。人生の終末に医療を受けるかどうかは人によりますが、ほぼ全ての人が医者の関与なしに人生の終末を迎えることはないでしょう。 この小説に描かれていることは、避けて通ることの出来ない「死」です。医師と医療は、「死」にどのように向き合うべきなのか。その在り方について描こうとしているのだと感じます。  

「螺鈿迷宮」の内容 

医療界を震撼させたバチスタ・スキャンダルから1年半。東城大学の医学生・天馬は、留年を繰り返し医学の道をリタイア寸前だった。ある日、幼なじみの記者・葉子から「碧翠院桜宮病院に潜入できないか」と依頼を受ける。桜宮病院は、老人介護センター、ホスピス施設と寺院を一体化した複合型病院で、終末期医療の先端施設として注目を集めていた。しかし、その経営には黒い噂が絶えないという。天馬は看護ボランティアとして桜宮病院に通い始めるが、ある時から疑念を感じる。「この病院、あまりにも人が死にすぎる」と…。【引用:「BOOK」データベース】 

「螺鈿迷宮」の感想

療行政

 著者は、日本の医療行政に対し非常に批判的です。小説内でも、厚労省の無為無策で展望のない政策が様々なシーンで表現されています。螺鈿迷宮で起こる事件は、終末期医療の切り捨てがひとつの発端になっています。終末期医療を押し付けられた碧翠院桜宮病院。その終末期医療で生き残る方法を模索してきたにも関わらず、押し付けてきた東城大が患者激減の穴埋めに終末期医療まで取り上げる。そのことが、桜宮病院をさらに追い詰める。 

 物語の根底に、終末期医療を切り捨てる医療行政への批判を描いています。終末期医療の切り捨てに加え、死亡時医学検索の軽視。「死」にまつわる医療への軽視に対する警鐘がありありと窺えます。 ただ、残念なことに、私は医療行政に詳しくない。死亡時医学検索に予算がつかず、解剖率も低いのは数字で表現できるので分かります。 

問題は、終末期医療に対する理解です。 

 終末期医療でかろうじて経営を成り立たせていた碧翠院桜宮病院が、終末期患者の切り捨てに舵を切った医療行政に追い詰められたことが語られます。そのことが、よく分かりません。医療行政が、従来、終末期患者をどのように取り扱っていたのか。切り捨てたとは、一体どのようなことなのか。分からなくても医療行政の方向転換で碧翠院が追い詰められた事実だけ理解できれば、物語の進行上、それほど問題ではありません。ただ、重要な要素のひとつなので、分からないままモヤモヤした気持ちを抱えてしまいました。  

翠院桜宮病院の謎

 ミステリー小説なので、当然、謎があります。その謎は、さらに大きな謎への入口に過ぎません。当初、主人公の天馬大吉に与えられた使命はふたつ。

  1. 碧翠院桜宮病院に潜入し、桜宮病院の闇を暴くこと。
  2. 桜宮病院で行方不明になった立花善次の消息を探ること。

 厚労省の取材依頼などが巡りめぐって降り注いだ結果、彼に押し付けられた任務です。この段階で明確な謎は、立花善次の消息のみ。桜宮病院の闇は、漠然とした謎とも言えない謎なのです。桜宮病院に、一体何があるのか。

 謎自体を探っていく感覚です。探っていくことにより現れる謎。謎が多重に構成され、迷路に迷い混んだような気分になります。解くべき謎が、よく分からなくなってきます。その複雑な構成を読み解いて、結末を想像していくのです。なかなか先行きが読めなかったですが。 

 桜宮一族の桜宮巌雄、華緒、小百合、すみれ。華緒は別にして、それぞれがそれぞれの思惑と謎を持っています。桜宮一族としての秘密も。そのことが、物語を複雑化しています。もうひとつ物語を複雑にしているのが、碧翠院桜宮病院の構造です。碧翠院は一体何なのか。それがよく分からなかった。お寺?ホスピス?病院?今いち、実態が掴めなかった。  

性的な登場人物

 個性溢れる登場人物が、海堂尊の持ち味でしょう。本作の主人公「天馬大吉」に加え、白鳥圭輔の部下の姫宮。この二人がとても面白い。典型的な巻き込まれキャラの天馬大吉。ターミネーターの異名を持つ姫宮。物語の前半は、この二人の掛け合いに笑いを誘われます。レギュラーの白鳥圭輔も登場し、相変わらずの無茶ぶりをします。ただ、それ以上に姫宮が無茶ぶりを発揮するので、少しおとなしく感じてしまいましたが。 

 桜宮一族も、一族でありながらそれぞれ個性が大きく違います。どの登場人物に共感を覚えるのか。必ずしも天馬大吉や白鳥が善で、桜宮一族が悪という訳でもない気がします。桜宮一族には闇があります。ただ、闇があるからと言って彼らが悪だと思えないのです。法律的にはアウトでもです。彼らの行動に信念を感じたからかもしれません。登場人物全員が、深く心に記憶されます。  

最後に

 先ほど書きましたが、解決すべき謎がよく分からなかった。立花善次の消息を探るのは解りやすい謎です。碧翠院桜宮病院の闇を暴くのは、闇の正体が何かということを暴くことです。その闇が徐々に明かされていくと言うよりは、桜宮一族に翻弄され続けた印象です。対等に渡り合っているように思わせながら、桜宮巌雄はその上を行く。裏をかくこともありますが、力関係は圧倒的に巌雄の方が上かな。天馬大吉と白鳥が翻弄されているから、読んでいる方も翻弄されてしまい謎が見えてこない。だから、解けない。 

 最後は、巌雄の独白で全貌が明らかにされてしまいます。反則的な謎解きの結末に感じます。巌雄の独白で、全ての帳尻を合わせたといった印象です。また、文章表現も読みにくさを感じさせます。風景描写や登場人物の心象が、比喩的表現で描かれていることが多い。もちろん、表現方法として比喩を用いてもいいのですが、本作の表現はあまり正確に伝わってこなかった気がします。  

新装版  螺鈿迷宮 (角川文庫)

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