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マルドゥック・スクランブル 排気〔完全版〕:冲方 丁【感想】|結末を迎えた時、バロットとウフコックに何が残るのか

 「燃焼」は、カジノでの負けられない闘いの途中で終わっています。「排気」は、その闘いの続きから始まります。「排気」は前半部分が「カジノ」での闘い。後半部分で最終局面を迎えます。「圧縮」「燃焼」「排気」と続いた物語が、どのような結末を迎えるのか。シェルを追い詰め、事件解決で終わるような単純なストーリーではないことは容易に想像できます。しかし、どのような結末を迎えるかは容易に想像できません。 

「マルドゥック・スクランブル 排気」〔完全版〕の内容  

バロットは壮絶な闘いを経て、科学技術発祥の地“楽園”を訪れ、シェルの犯罪を裏付けるデータが、カジノに保管された4つの100万ドルチップ内にあることを知る。チップを合法的に入手すべく、ポーカー、ルーレットを制してゆくバロット。ウフコックの奪還を渇望するボイルドという虚無が迫るなか、彼女は自らの存在証明をかけて、最後の勝負ブラックジャックに挑む。  

「マルドゥック・スクランブル 排気」〔完全版〕の感想  

「排気」での新たな登場人物 

  • アシュレイ・ハーヴェスト・・・最強のディーラーにしてハウスリーダー。カジノ業界の用心棒に据えられる優秀なディーラーであり、カードの位置を文字通り自在に操る上に寸分違わず位置を把握するという理詰めで裏付けされた超絶的な力をもって自らの運をも掌握する。
  • クリーンウィル・ジョン・オクトーバー・・・現在のオクトーバー社の社長。シェルがバロットたちに追い詰められていることを知り、ボイルドにシェル暗殺を指令する。 

「カジノ」の終焉

 シェルの「ある物」を手に入れるために、どれほどの勝ちが必要になるのか。とんでもない勝ちが必要になります。勝つために、ドクターが考えた作戦の緻密さに感心してしまいます。勝負の駆け引きの緊張感だけでなく、勝負を仕掛けるポイント・勝ち方・そして負け方。全てが計算され尽くしています。読んでいて著者の計算された構成と表現に驚かされます。単なる勝負だけでなく、その中でバロットを成長させ、ウフコックとの関係を進展させていくストーリーは読み応えがあります。その成長に欠かせない存在として、新たなるディーラーを登場させます。「燃焼」においてバロットを成長させるきっかけであったディーラーとは、また違った役割を与えられています。 

 「燃焼」では、ポーカー・ルーレット・バカラと勝負を繰り広げてきました。その勝負の緊張感は、手に汗を握るものでした。加えて、ルーレットのディーラーであった彼女との闘いにおいては、単なる勝負だけでなく心のやり取りも含まれたものでした。

 しかし、「排気」で勝負の舞台となるブラックジャックで最後に出てきたディーラー「アシュレイ」。彼とバロットの闘いは、「燃焼」での闘いがまるで遊びのように感じるほどです。 

それほどの緊張感に加え、恐ろしさも感じます。 

 その闘いが、バロットに決定的な変化と成長をもたらします。「燃焼」における「ベル・ウィング」との闘いは、バロットに成長のきっかけを与えたに過ぎません。しかし、ブラックジャックはバロットを成長させたのです。偶然の結果ではなく、「アシュレイ」が導いたものとして。 

 そう考えると、ふたりのディーラーはシェルのために闘うのでなく、ディーラーとしての矜持に従いバロットと対峙したのでしょう。その悪意のない闘いにより、バロットは自らが存在する意味とウフコックとの関係を理解したのでしょう。カジノの闘いは、「燃焼」の後半部分と「排気」の前半部分の文庫ほぼ1冊分のボリュームです。しかし、その静かな闘いは読む者に興奮を与え続けます。 

終局面

 カジノでの闘いが終わり、物語は最終局面を迎えます。物語の発端は、バロットがシェルに殺されかけたことです。この事件を解決することが、バロットにとっての解決です。

 「何故、自分なのか」

 それを知ることが出来るからです。しかし、ウフコックたちはシェルの向こうにある「オクトーバー社」を追っています。少なくともバロットの事件を解決するだけで、物語の結末を迎えることはありません。加えて、発端はバロットの事件であっても「圧縮」「燃焼」「排気」とストーリーを重ねていくうちに、事件を解決することだけで読者が納得できるはずがありません。著者も、当然、それだけで終わらせるつもりでないことは分かります。

終わりに

 バロットとシェルの事件。オクトーバー社。そして、ボイルド。 

 結末を迎えるべき事柄は、多くあります。それらの問題を解決した時に、バロットとウフコックには何が残るのか。ふたりの関係はどうなるのか。それらが明らかになることで、「圧縮」「燃焼」「排気」の3冊で綴られた物語が終焉を迎えるのです。

 それは、読者を納得させるに十分な結末です。おそらく再読することになる作品です。