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『予告殺人』:アガサ・クリスティ【感想】|いたずらか?悪ふざけか?正真正銘の殺人予告か?

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 こんにちは。本日は、アガサ・クリスティの「予告殺人」の感想です。

 

 マープルシリーズは、12の長編と20の短編が執筆されています。「予告殺人」は長編第4作目です。ジェーン・マープルは、ポアロに並ぶクリスティ作品の人気キャラクターです。クリスティ自身は、ポアロよりマープルの方がお気に入りだったようです。むしろ、ポアロに嫌悪感を抱いていたような言葉も残されていますが、33の長編と54の短編と1つの戯曲に登場するところを見ると、出版社も世間もポアロの方が好きだったのでしょう。望まなくても書かざるを得ない状況が、なおさらポアロを疎ましく感じさせたのかもしれません。

 マープルシリーズは初めて読みます。彼女は探偵のように振舞うが探偵ではない。警察に一定の評価を受けていますが、好奇心と推理力が卓越した一般の女性です。他作品を読んでみないと、彼女の本質は分からないと思いますが。

 ポアロのような職業探偵とは立ち位置が違います。本作では要所で推理を働かせますが、主人公かどうかは微妙です。常に登場し続ける訳ではありません。事件を捜査するのは、クラドック警部です。結末では、マープルの推理力が発揮され、事件の真相が明かされます。推理を披露する姿は、ポアロに似ている気もしますが。

 「予告殺人」はドラマ化されています。ドラマの細かいところは覚えていませんが、日本を舞台にアレンジされていました。

 犯人もトリックも分かった状態で読んだので面白みは減少しましたが、それでも楽しめました。納得感もあり、伏線もきっちりと仕込まれています。

 ネタバレ無しを心掛けた感想にします。  

「予告殺人」の内容

その朝、新聞の広告欄を目にした町の人々は驚きの声を上げた。「殺人お知らせ申しあげます。12月29日金曜日、午後6時30分より…」いたずらか?悪ふざけか?しかしそれは正真正銘の殺人予告だった。時計の針が予告の午後6時30分を指したとき、銃声が響きわたる!【引用:「BOOK」データベース】 

 

「予告殺人」の感想

偵ではない「ミス・マープル」

 彼女は警察に一目置かれているので、捜査に関わることができます。自ら情報収集もするし、警察から情報を得ることもある。警察に情報や助言を与えることもある。職業探偵ではないが、それに近い働きをしています。

 暇と好奇心を持て余す人物として、現場を訪れたり関係者と話したりします。警察ではないので得ることのできる情報は限られていますが、警察でないからこそ聞くことのできる情報や人間関係もあるのでしょう。

 マープルが登場するのは、物語の1/4ほどが過ぎてからです。事件が起こり、関係者の人間関係や個性などが出揃ってからです。遅い登場ですが、舞台が整ったとも言えます。

 彼女は事件を解決するために推理しますが、それ以上に自身の好奇心を満たすために見えます。正義のためというよりは、事件そのものの真相を知りたい欲求が強いのかもしれない。もちろん、死者がでているからこそ推理するのだろう。

 捜査はクラドック警部が中心になって進んでいきます。当然ながら、警察独自の捜査力で事件を解決しようとしますが、マープルを蔑ろにはしません。しかし、頼り過ぎもしない。そのバランスがいい。

 主役はマープルでなく事件そのものです。彼女は重要な存在ですが、彼女がいなければ物語が成り立たないほどの存在感にも感じません。マープルも警察も関係者も、事件があるから存在する。その意味ではマープルも一要素なのだろうか。

 ポアロとは全く違う探偵像は新鮮です。好奇心旺盛でいろいろと首を突っ込むが、ポアロほど目立ち過ぎません。ポアロの場合、彼のために事件があり、彼を中心に動いていく印象が強い。

 

ギリスらしさ

 イギリスの片田舎が舞台です。1950年に執筆されているので、第二次世界大戦の終戦後間もないくらいでしょうか。当時のイギリスやヨーロッパの状況を背景にしています。また、イギリス人の生活様式や人付き合いや性質などを理解しておかないと、彼らの行動を理解できないかもしれません。

 新聞に殺人予告が掲載されたことが事件の発端です。特定地域のほぼ全域に配達される新聞の存在は自然なことなのかどうか。その予告を受けて、パーティやゲームなどと考え、集まることは普通なことなのだろうか。リトルパドックスにいるシモンズ兄妹はレティシアの親族だから分かりますが、ドラやフィリッパが同居していることが普通なことなのかどうか。なかなか理解しがたいが、当時のイギリスでは普通のことだったのでしょう。メイドのミッチーの態度は被害妄想なのか、当時の外国人のありふれた感情だったのだろうか。いろいろと知っておく必要がある。

 登場人物たちの言動が普通だという前提に立たないと伏線に気付けません。彼女たちの言動が普通だからこそ、違和感のある部分が浮き出てきます。しかし、殺人予告を見てリトルパドックスに集まってくる感覚が普通に感じない。彼らの行動のどこに不自然さがあるのか理解しがたい。

 古いイギリスのしきたりやマナー、当たり前の考え方などを知っておかなければならないだろう。もちろん、それらを知らなくてもヒントは多く隠されているので気付けるかもしれませんが。

 

間関係の複雑さ

 登場人物は多い。事件に深く関わる者もいれば、そうでない者もいます。事件の全容が解明されるまで、関わり方は分かりません。事件の瞬間、リトルパドックスに集まった人々は全て容疑者です。それなりに人数は多いが、部屋にいた人数以上には膨れません。メイドのミッチーは部屋にいなかったが容疑者に含まれます。

 人間が集まると人間関係が生まれます。人数が増えるほど複雑になる。誰かに見せる顔と別の人に見せる顔が違ってくることも出てきます。本当の姿がどれなのか判別しにくくなる。

 弾丸がレティシア・ブラックロックに向けて撃たれたことからも、彼女が狙われていることは明白です。そうなれば、彼女は容疑者から外れます。犯人は、彼女を殺せば利益を得る者、もしくは恨んでいる者です。前者は捜査を続け何らかの事実をつかむ必要があり、後者は心の内まで探っていかなければなりません。違うアプローチが必要です。ただ、事件の大前提にクリスティのトリックが仕込まれているのだが。

 犯人の動機を探っていくと、新しい事実が生まれてきます。大きな転機はピップとエンマの名前が出てきたことです。レティシアの死によって明確に利益を得る者たちです。二人の名前が登場したことで、人間関係がさらにややこしくなります。登場人物たちの表の顔には大きな秘密が隠されています。

 

語力が必要か

 犯人に繋がる伏線のひとつがドラの言葉です。英語力というか、英語の表現を知らないと気付けません。殺人予告が彼女を不安定にさせ、言葉を暴走させます。レティシアに何かあればと思うと不安になるのは当然です。

 彼女とレティシアの関係は古く深い。一方、レティシアはドラを大事に思いながらも疎ましく感じています。この二つの感情の混ざり合いも伏線になっています。何故、ドラを疎ましく感じるのか。ドラの言葉の中に謎を明かす鍵が潜んでいます。それに気付くには英語力が必要です。

 ドラは犯人に繋がるための重要な存在です。彼女の言葉の裏には、どんな真実があるのか。違和感を単なる違和感でなく、根拠のあるものとして受け止めれば真実に近づいていきます。

 

終わりに

 終結に向けての展開は予想外です。新しい事実が続々と登場し、二転三転する状況にページを捲る手が止まりません。