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『キャプテンサンダーボルト』:阿部和重、伊坂幸太郎【感想】|世界を救うために、二人は走る

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 阿部和重と伊坂幸太郎の合作小説。伊坂幸太郎はお気に入りの作家ですが、阿部和重の小説は読んだことがありません。芥川賞作家と本屋大賞受賞作家に重なり合う部分があるのでしょうか。

 全体的に伊坂風に感じてしまうのは、私が阿部和重の作品を読んだことがないからでしょう。伊坂幸太郎の小説だと言われれば納得してしまいます。阿部和重の小説を読めば、阿部らしさを感じる部分はあるはずですし、両者が混じりあった醍醐味を味わうことができたと思います。

 合作小説を読むのは初めてです。本作は、阿部と伊坂の二人でプロットを作成し、章ごとに担当を割り振り執筆した上で、原稿をやり取りして完成しています。書き進めながら前に戻って書き直すことから、全てにどららの手も加わっていることになります。最終的に伊坂が全体を直した上で、阿部も同様に全体を直しています。二人の作風が複雑に混ざり合っているはずです。

 物語の中心は、蔵王、御釜。伊坂の居住地「仙台」と阿部の出身地「山形県東根市神町」の中間地点です。秋田と宮城を舞台にしたスピード感溢れる物語です。世界平和まで広がるスケールの大きさに非現実的な部分もありながらも引き込まれていきます。合作がどのような効果を生んだのかも興味深い。 

「キャプテンサンダーボルト」の内容

ゴシキヌマの水をよこせ

突如として謎の外国人テロリストに狙われることになった相葉時之は、逃げ込んだ映画館で旧友・井ノ原悠と再会。小学校時代の悪友コンビの決死の逃亡が始まる。破壊をまき散らしながら追ってくる敵が狙う水の正体は。【引用:「BOOK」データベース】 

「キャプテンサンダーボルト」の感想

立つキャラクター 

相葉と井ノ原 

 主人公は少年野球仲間だった「相葉」と「井ノ原」です。性格は正反対ですが共通点もあります。戦隊ヒーロー作品「鳴神戦隊サンダーボルト」です。これが二人を強く結びつけています。サンダーボルトは物語上、重要な役割を果たすことになります。

 高校で離れ離れになり疎遠になってしまいますが、再開すれば井ノ原は相葉を放っておけません。子供の頃の繋がりが強いのは、利害関係がなく純粋なものだったからです。高校生になれば状況も変わります。井ノ原は関わろうとしますが、相葉は突き離します。自身の変わりようを見せたくないでしょうし、過去の純粋な繋がりを壊してしまうと考えたのかもしれません。

 二人の現在の共通点は、金に困っていることです。現実的な切羽詰まった繋がりは、過去の出来事を一時的にでも超越したのでしょう。再開後、過去のわだかまりがあったようですが行動を共にします。二人の間に何かを不穏なものを感じさせることで緊張感が伝わります。

 どちらにしても正反対の二人です。相葉は、勢い、浅慮、まずは行動、そして楽観。井ノ原は冷静沈着。船のエンジンと舵のようであり、二人の基本的の関係です。時に入れ替わることもあります。反対の性質がさらに反対になることで、彼らの性質がさらに際立ちます。 

桃沢瞳 

 桃沢瞳は、井ノ原を通じて事件の核心に迫ります。目的は父親の無念を晴らし、村上病の謎を解くことです。井ノ原・相葉の目的(金)とは違います。彼女は、村上病の裏に潜む大きな陰謀に巻き込まれていくことになります。彼女が持つ情報は事態を大きく動かします。

 一方、後半になると彼女自身の活躍の場は少なくなります。捕らわれることで、相葉たちの行動の原動力の源になります。人質としてですが存在価値は残っています。

 物語の始まりは、彼女の視点からです。「ガイノイド脂肪に注目しろ」の意味不明さに引き込まれます。色仕掛けで情報を集めているだけですが。ただ、書き出しのインパクトは強い。一気に彼女の印象が頭に叩き込まれます。 

銀髪の怪人

 もう一人の重要な登場人物は銀髪の怪人です。ターミネーター並みのインパクトです。彼の不死身さに加え、裏に潜む陰謀の大きさも伺わせます。全世界規模のテロという陰謀の大きさは予想以上です。テロの目的にも驚かされることになります。

 彼の追跡の緊張感は手に汗を握ります。殺人すらも日常のように行います。相葉と井ノ原は一般人に過ぎません。対決する恐怖は並大抵ではありません。銀髪の怪人の目的は「五色沼水」の入手です。使用目的は分かりませんが、そこが本作の最も重要な謎です。

 スマホの翻訳ツールを使って会話をするところも面白い。機械の音声が敬語なのも恐ろしさを倍増させます。行動と会話のアンバランスが彼の怖さを強調します。相葉と井ノ原のように、比較することにより協調されるのでしょう。

 

界規模の陰謀

 御釜、五色沼が舞台です。日本の地方都市の観光地が世界規模の陰謀の舞台になります。阿部の作品を読んだことがないので分かりませんが、少なくとも伊坂の作品でここまでスケールの大きな作品があったでしょうか。相葉たちの行動範囲は東北の限られた地域であり、それ自体は大きくありません。そこに全世界規模の陰謀を潜ませ、彼らに背負わせます。小説だからこそ生まれる設定であり現実感は薄いが、これこそフィクションの醍醐味です。

 五色沼水の有無は、世界規模のテロリズムの成否にも関わってきます。五色沼水の有無だけで世界的なテロの全てを防ぐことはできませんが、村上病のパンデミックは日本だけで済まないのも事実です。世界を恐怖に陥れることができます。テロリストたちにも危険はありますが、それを顧みないのがテロリズムでしょう。

 銀髪の怪人の存在が大きく見えるのは、彼の不死身さだけでなく背負っている陰謀の大きさも影響しています。一方、立ち向かう敵が大きければ大きいほど、相葉たちの覚悟と決意の大きさも際立ってきます。金に困っていた二人が巻き込まれるには手に余る事態の大きさです。相葉たちの命にも関わる話なので対決するのは分かります。しかし、二人で対決していく決意の理由はキャプテンサンダーボルトの存在です。二人の共通の考え方であり、ここに理由を持ってくると納得できます。

 

つのサンダーボルト

 物語の鍵になる「サンダーボルト」は二つあります。

  • 実在の映画クリント・イーストウッドの「サンダーボルト」
  • 架空のヒーロー戦隊「鳴神戦隊サンダーボルト」

 物語の鍵になるのは「鳴神戦隊サンダーボルト」です。事件の謎に迫る重要な存在です。「鳴神戦隊サンダーボルト」は大まかな説明だけですが、オーソドックスな戦隊ものだから想像しやすい。設定やストーリーを説明するまでもないということです。映画の背景に映ったものが事件を劇的に動かしていきます。井ノ原の頭脳と推理が最大限発揮されます。

 映画「サンダーボルト」は、相葉と井ノ原の再開のきっかけであり、相葉がアイデンティティの象徴「ポンティアック・ファイヤーバード・トランザム」に乗っている理由です。彼の借金の理由の一端でもあります。

 桃沢瞳の持つB29の情報も繋がります。第二次世界大戦末期まで遡る壮大な物語へと広がります。「鳴神戦隊サンダーボルト」のお蔵入りと映り込んだものから導き出される答えは隠されたものの存在です。

「村上病はあるが、ない」

 更に深い考察を重ねないと真相に辿り着くことはできません。井ノ原が気付いてから一気に物語の展開のスピードが上がります。ただ、一気に展開し過ぎる感もあります。映り込んだものがなければ物語は進みませんが、その存在は決定的過ぎます。「鳴神戦隊サンダーボルト」は相葉と井ノ原を繋げ、村上病の謎にも繋がります。存在感は圧倒的ですが、架空の戦隊ものだけに都合の良すぎる存在にも映ります。

 

線の回収と終結

 伊坂幸太郎らしい伏線と回収が際立ちます。会話も伊坂らしさを感じます。阿部らしさも交じっているはずですが。伏線を書き出すとキリがありません。伏線を結末に向け回収していく爽快感に引き込まれます。井ノ原の副業と結末の金庫は、伏線がなければ納得できません。謎の解決に直接関係ありませんが、多くの事象が繋がり丸く収まります。戦中の宣伝チラシまで伏線だったことには驚きます。

 前半に出てきた出来事が忘れかけた頃に再登場し重要な役割を果たします。伏線回収は納得感が一番大事です。納得感があれば爽快感も伴います。非現実的な物語だからこそ納得感は重要です。何でもありでは駄目になってしまいます。

 全てが繋がっていたかどうかを見極めるには、再読が必要かもしれません。少なくとも、私が気付いた伏線と回収は納得できるものばかりでした。

 

終わりに

 視点にはなりませんが、ポンセも重要なキャラクターです。相葉たちの行動を助け、動かす動機を与えます。相葉に懐かず井ノ原に懐くことも面白いし、態度で表現するしかない犬の表現力も面白い。

 長編なのでダレるところを感じたのも事実です。阿部と伊坂が書きたいことを書き加えていくと、自然と長くなってしまったのかもしれません。ジェットコースターのようなスピード感が読みどころですが、全編を通しては難しい。後半に向けスピード感は上がっていきますが。