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『ABC殺人事件』:アガサ・クリスティ【感想】|ポアロのもとに届けられた挑戦状

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 こんにちは。本日は、アガサ・クリスティの「ABC殺人事件」の感想です。 

 

 アガサ・クリスティの代表作のひとつで、エルキュール・ポアロシリーズの長編第11作目です。長編だけでも33作品ありますが、その中でも人気の作品です。アガサ・クリスティ自身は、ポアロに好意を抱いていないような言葉を残しているようですが。

 ポアロで最初に思い浮かぶのは、NHK「名探偵ポワロ」の「デヴィッド・スーシェ」です。彼はポアロを研究し尽くし演じていました。約25年演じ続けたこともあり、全く違和感のないポアロでした。デヴィッド・スーシェのイメージが強すぎるので、読んでいると彼の顔が頭に思い浮かびます。

 物語は、ポアロに送られてきた挑戦状から始まります。警察でなくポアロに挑戦してくるのは、彼の名声が背後にあるからでしょう。少なくとも、読者はそう考えます。その割にポアロの肩身は狭い。事件の担当になったクローム警部は、ポアロをいかさまのペテン師と見ています。もはやポアロの活躍する時代ではないということだろうか。

 ポアロに送付された理由は物語の大きな鍵なのでここでは詳細には書きませんが。

 事件の共通項は、犯行が重ねられることで明らかになっていきます。ABCの順で殺されていくことと挑戦状の意味は何だろうか。事件の背後に潜むものを探り、どのようにして解決に向かっていくのだろうか。犯行の未然防止という視点だと、ポアロは存在感が薄い。だからこそ先を読めない面白さがあります。

 極力、ネタバレなしを心掛け、感想を書きます。 

「ABC殺人事件」の内容

注意することだ―

ポアロのもとに届けられた挑戦状。その予告通り、Aで始まる地名の町で、Aの頭文字の老婆が殺された。現場には不気味にABC鉄道案内が残されていた。まもなく第二、第三の挑戦状が届き、Bの地でBの頭文字の娘が、Cの地でCの頭文字の紳士が殺され…。【引用:「BOOK」データベース】  

 

「ABC殺人事件」の感想

イスティングズの記述でない

 ヘイスティングズが視点となって物語が進みます。彼がその場に居なかったとしても、彼が集めたほぼ正確な情報に基づいています。彼の手記のような構成です。その中で「ヘイスティングズの記述でない」と明確に記載されているパートがあります。まさしくその通りの意味です。そこで描かれているのは、「アレグザンダー・ボナパート・カスト」です。殺人事件の犯人と思わせる内容が描かれています。

 本作では、すでに犯人が分かった状態で物語が進むのだろうか。そうであるならば、物語の主軸はポアロとカストの対決であり、ポアロがカストに辿り着くかどうかが焦点なのだろう。ただ、カストも壮大なトリックのひとつですが。

 別の視点で描かれるパートがあることで、読者には犯人像が見えてきます。ポアロには無くて読者だけが得る情報です。この情報を得て、読者は推理していくことになります。

  • カストをそのまま犯人にするのか
  • カストには何か秘密があるのか。
  • 彼の背後に潜むものがあるのか。

 ポアロが犯人に向けて進んでいくだけでなく、カストの視点からも事件を見ます。

 ポアロの終着点がカストだとすれば、ポアロが辿る道を予想していけばいい。それ以上の何かがあるはずだと期待するのはアガサ・クリスティの作品だからであり、その期待は裏切られません。

 

行を防ぐために

 ポアロは犯人からの挑戦状をとても恐れています。彼ほどの有名人になれば、脅迫状やら挑戦状やらが数多く届きそうなものです。そのような環境の中で、この挑戦状にただならぬ雰囲気を感じ取り特別視しています。論理的な推理をするポアロにしては、手紙に対する反応は意外な感じです。

 最初の事件は、アンドーヴァーでアリス・アッシャーが殺され、「ABC鉄道案内」が残されていました。第2の殺人予告の手紙が届き、この事件の法則性が見えてきます。

 こういう謎めいた事件こそポアロの出番のはずですが、問題は事件が進行形ということです。全ての事件がすでに起こっていて、そこに関わる人々や情報があれば、ポアロは「灰色の脳細胞」を駆使して犯人を見つけるだろう。

 この事件では、殺人を阻止することと犯人を捕まえることの二つの目的があります。犯人が分かれば事件は終わるので、犯人を捜すことは重要ですが、分からないとしても犯行は阻止しなければなりません。手掛かりは場所とイニシャルだけなので不可能に近い。

 ポアロは、犯行を阻止することをあまり真剣に考えていないように見えます。犯行を阻止する有効な手段は持ち合わせていないのだろう。警察との役割分担と割り切っているのかもしれません。論理的な考え方ですが、ヘイスティングズのように何とかしたいと思うのが普通です。

 犯行を防ぐことよりも、犯人像を追い求めます。ポアロの真骨頂は考え、推理し、真実に辿り着くことです。進行形の犯罪では、存在感が薄くなってしまうのだろう。

 

人の論理

 犯人には、犯行を繰り返す動機があるはずです。殺人により得る利益があるのか。それとも殺人自体が目的なのか。ポアロに挑戦状を送り付けてくることは、自己顕示欲を満たすためだと推測させます。

 犯行場所を告げることでポアロに頭脳戦を挑みます。被害者と犯行場所にイニシャルの法則性を与えることで、ポアロに対する挑戦は際立ちます。ポアロに勝つことが目的で、殺人は手段に過ぎないのだろうか。もちろん、殺人自体も楽しんでいるのだろう。警察はそのように考えます。

 一方、ポアロは思索に耽ることが多い。彼の捜査もどこか視点が違います。何かを感じ取っているように見えます。ポアロは犯人の動機と論理が事件の鍵だと考えます。犯罪者には犯罪者の論理があり、その論理をどれほど冷静に正しく推理するかが重要なのです。犯人をシリアルキラーという論理に当てはめると道を誤るだろう。ポアロの推理に見合うだけの犯人の論理が必要です。 

 

アロの出番

 警察が中心に動き、ポアロは事件に関わり切れていないような印象を受けます。ポアロだけが事件に対して違う視点で向き合っているからだろう。警察の捜査に積極的に協力しているようには見えません。警察(特にクローム警部)も、ポアロにあまり頼ろうとしない。

 犯人の動機も、先述したようにポアロへの挑戦と受け止めるほうが分かりやすい。多くの殺人事件と殺人犯に対峙してきたポアロには納得できない動機です。犯人の隠された目的を挑戦状から感じ取っているのかもしれません。

 切り裂きジャックが物語の会話の中で登場します。殺人対象は売春婦でシリアルキラーのように思われています。しかし、逮捕されていないので本当の動機も理由も分かりません。犯人の真の目的が判明していない事件になぞらえると本質を見失う。

 ポアロの仕事はカストの自首から始まります。事件関係者を集め、ポアロが推理を披露し始めた時、ようやくエルキュール・ポアロが登場したように感じました。 

 

終わりに

 ポアロの推理で事件は解決します。殺人事件が起きた時に考えることは、誰が最も利益を得るのかということです。そのために手の込んだ手法を犯人が考え出した。手が込み過ぎて墓穴を掘ったようにも感じます。