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『モダンタイムス』:伊坂幸太郎【感想】|検索から、監視が始まる。

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 こんにちは。本日は、伊坂幸太郎氏の「モダンタイムス」の感想です。

 

 「魔王」から50年後が舞台です。魔王の続編とも言えますが、物語が続いている訳ではありません。時間軸として魔王の延長線上にありますし、共通する登場人物として安藤詩織や潤也なども登場します。主人公である「渡辺」も、安藤潤也に連なる者として描かれています。しかし、物語はあくまで独立しています。魔王を読んでいなくても、十分楽しめます。それでも、やはり魔王を先に読むことをお勧めしますが。 

 魔王はメッセージ性が高く、謎や暗喩が多くて爽快感のある小説とは言い難い。モダンタイムスもメッセージ性が強い作品です。巨大なシステムの力の存在を、国家を主として描かれています。個人の力がいかに無力なのか。立ち向かうことの困難さを描いています。

 同時期に執筆された「ゴールデンスランバー」も、目に見えない大きな力に翻弄される主人公の姿を描いています。この時期の伊坂幸太郎は、大きな力に流されたり翻弄されたりすることに慣れ切ってしまうことへの危惧を抱いていたのかもしれません。そのことがメッセージ性の高い小説として表れているのでしょう。 

「モダンタイムス」の内容 

恐妻家のシステムエンジニア・渡辺拓海が請け負った仕事は、ある出会い系サイトの仕様変更だった。けれどもそのプログラムには不明な点が多く、発注元すら分からない。そんな中、プロジェクトメンバーの上司や同僚のもとを次々に不幸が襲う。彼らは皆、ある複数のキーワードを同時に検索していたのだった。5年前の惨事―播磨崎中学校銃乱射事件。奇跡の英雄・永嶋丈は、いまや国会議員として権力を手中にしていた。謎めいた検索ワードは、あの事件の真相を探れと仄めかしているのか?追手はすぐそこまで…大きなシステムに覆われた社会で、幸せを掴むには―問いかけと愉しさの詰まった傑作エンターテイメント。【引用:「BOOK」データベース】 

 

「モダンタイムス」の感想

える恐怖と見えない怖さ

 ゴールデンスランバーでは、目に見え難い巨大な力の怖さを描いていました。本作も見え難い大きな力(=国家)に翻弄される人々を描いています。国家や国家が作ったシステムの恐ろしさを伝えます。それに加えて、モダンタイムスは直接的な恐怖も描いています。物語の冒頭から始まり、その後も登場する「拷問」の場面もそのひとつです。身体に直接刻み付けられる痛みと恐怖です。 

 伊坂幸太郎らしいセリフ回しで軽妙な部分もありますが、それでも拷問の描写は読んでいて鳥肌が立ちます。 

 伊坂幸太郎の小説には、往々にして「死」が登場します。しかし、本作のような生々しい暴力=拷問の描写は初めてかもしれません。後半になるほど生々しく過激さを増していきます。 

 目に見えない怖さも伝わってきます。国家が構築したシステムに闘いを挑んだ個人が、圧倒的な力の前で押し潰されていきます。国家の前では、個人はあまりに無力です。

  • 諦めてしまうのか。
  • 真実を求め、闘うのか。
  • 勝ち目はあるのか。

 渡辺がシステムの存在に気付いていくことで、システムが渡辺を排除しようとします。渡辺の周りの人間が次々と潰されていく。追い詰められていく彼らが、どのように行動していくのか。さらに何が明らかになっていくのか。

 渡部が拷問されることと、国家による渡辺たちの排除に関係はあるのか。それはネタバレなので書きません。直接的な暴力と目に見えない力に押し潰されようとしている恐怖。読み進めていくと出てくる新しい状況に先の展開が読めません。  

 

場人物たちの個性

 一般人の渡辺たちが国家とシステムに翻弄される中で、特に印象に残った登場人物は3人です。異彩を放っていたという言い方が相応しい。 

  • 渡辺の妻「佳代子」
  • 佳代子が渡辺を拷問するために雇った「岡本猛」
  • 渡部の友人の作家「井坂好太郎」 

 他にも個性溢れる登場人物はいますが、物語に多大な影響を与えたという意味ではこの3人になります。 

 まずは、渡辺の妻「佳代子」です。渡辺の浮気を疑い、彼に浮気を認めさせるために拷問を依頼します。過去にも浮気を疑い、人を雇い、渡辺の腕を骨折させています。彼女の素性はよく分かりません。単に嫉妬深いだけでなく、裏の世界と何らかの繋がりがあると思わざるを得ない。 

 渡辺が巻き込まれていく国家の陰謀に関係しているのかどうか。少なくとも拷問を依頼している時点で、渡辺のトラブルのひとつであることは確かです。物語の終盤では、圧倒的な体術で渡辺たちの危機を救います。彼女の素性は謎のまま終わりますが、少なくとも渡辺にとって敵対する側の人間ではなかった。 

 次に、佳代子に拷問を依頼された「岡本猛」です。

 「勇気はあるか?」

 とてもいい響きの言葉です。しかし、彼が発した意味は拷問を受ける勇気があるか?という恐ろしいものです。裏の世界に実在する職業かもしれません。一生、関わりたくありませんが。 

 彼の拷問に対する美学も異様です。彼自身が拷問を受けることになった時の反応がそれ以上に異様です。彼が拷問を受けるシーンは、この小説の中で一番生々しく恐ろしい。彼の反応の異様さが、さらに恐ろしさを倍増させています。彼は職業として拷問を行いますが、あまり悪意を感じません。その落差も彼の特異さを際立たせています。 

  最後に「井坂好太郎」です。

 伊坂幸太郎は作中に登場する作家の名前を考えるのが億劫になり、自分の筆名を変形させたに過ぎないと語っています。井坂好太郎は国家の陰謀を解明していく重要な役割ですが、女好きでだらしない。しかし、渡辺が巻き込まれているトラブルの本質を見抜いているように感じます。

 渡辺に託した小説に隠された様々なメッセージを全てを知っていたのでは?と思わせるほどです。彼が行った調査と作家としての想像力と創造力により導かれた想定と結論です。それが事件の本質を言い当てていた。

 彼の言葉で印象に残った言葉が、この小説の中で最も印象に残った言葉になりました。

人生は要約できない 

 たった一言の言葉ですが、とても奥が深い。   

 

王との繋がり

 安藤潤也と安藤詩織が登場します。安藤潤也と兄の超能力の話を知らないと、渡辺の超能力の話に繋がってきません。安藤兄弟が不思議な力を持っていたことが安藤詩織と愛原キラリによって語られています。魔王を読んでいなくても渡辺が超能力を発揮したことの説明はつきます。 

 魔王から引き継がれているのは、次の4人です。

  • 安藤潤也(作中では死亡しています)
  • 安藤詩織
  • 犬養舜二(話の中でだけ)
  • 緒方(明確にされていないが、潤也の兄を殺した人物と思われる) 

 魔王との繋がりはありますが、必ずしも魔王が必読だという訳ではありません。ただ、読んでいるかどうかで感想は違うものになるでしょう。どちらを先に読むべきかと言えば、発刊順がいいのではないでしょうか。 

 

50年前を描いた「魔王」

 

最後に 

 あらゆる出来事を複合的に描きながら関連付けます。物語の前半部分は全体像が全く掴めず、読んでいてダレてしまいそうになります。かなりの長編なので仕方ないのかなと思いますが。 

 「魔王」「ゴールデンスランバー」「モダンタイムス」はメッセージ性が強い。メッセージも似ています。
 「魔王」では、自らの考えを持たず大きな流れにただ流されることの危険さ。
 「ゴールデンスランバー」では、国家の前での個人の無力さ。
 「モダンタイムス」も同様です。 

ただ、それぞれの立ち向かい方が違います。 

 「モダンタイムス」は、週刊雑誌「モーニング」で約1年間に渡り連載されていました。週ごとで、読者を惹きつけていく必要があったのだろう。全編を通して様々な出来事が起き続けるので、物語の強弱をあまり感じませんでした。この長い小説に緩急を感じない原因です。緩急がないので、ダラダラと続いていく感覚を捨てきれません。

 ただ、後半からは物語が一気に進展し、引き込まれていったのも事実です。好き嫌いが分かれると思います。