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『教養としての宗教入門』:中村圭志【感想】

 私は、普段、積極的に宗教に関わっている訳ではありません。ただ、葬式や法事になればお寺にお世話になりますし、正月には神社に初詣にも行きます。取り立てて深い信仰心はありませんが、宗教と無関係に生きていくことは難しい。そう考えると、少なくとも身近にある宗教についての知識を持っている方が良い。仏教や神道は日常生活に根付いているので、感覚として理解できている部分も多いと感じます。しかし、それ以外の宗教についてはどうだろうか。キリスト教・イスラム教は、仏教と同じく世界的に広く信者がいます。対して、ユダヤ教・ヒンドゥー教は、民族宗教としての色彩が強い。普段、接することがない宗教に対する知識を有することで、生活に根付いている仏教、神道についても見えてくるものがあるかもしれません。 

 この本は、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教・仏教・ヒンドゥー教・儒教・道教・神道の世界の八つの宗教について書かれています。 この後は、感想というよりは各章において解説されていることの概略紹介といったところです。 

序章 なぜ「神」と「仏」が区別されるのか

 神と仏の概念です。信仰対象となる霊的・人格的な存在は総じて「神」と表現されることが多い。しかし仏教においては、神でなく「仏」と表現されます。その理由について、

  • 日本語と言う言語からのアプローチ。
  • ブッダの起源からのアプローチ。

 このふたつのアプローチを軸に、神と仏の違いについて解説しています。ただ私は、今の日本では、それほど区別されているようにも感じません。何か頼みごとをするときには、神様仏様にお願いします。どちらも、超越した存在として相似したものになってしまっていると感じます。 

第1章 薄い宗教① 世界の大伝統

 濃い宗教、薄い宗教とは一体何か。本書において使われている「濃い」「薄い」は、各宗教の教義の濃い薄いでなく、宗教に対するスタンスのことを表してます。宗教に対する思い入れが強く信仰が深いかどうか。知識・習慣としての宗教的文化として宗教に接しているかどうかの違いを言っています。

 第1章では、薄い宗教。文化・習慣としての宗教の概略です。キリスト教圏、イスラム教圏といった地域の全ての人が、深い信仰を持っている訳ではありません。欧米人が協会に通うからといって、必ずしも皆が深い信仰を持っているとは限りません。日本人が神社に参拝するのと同じように、宗教的な文化習慣に過ぎず神仏に対する深い信仰と必ずしも一致しません。ただ、宗教を考える上で、この文化的習慣が特に重要だと筆者は考えています。

 その際、知っておいた方がいい伝統宗教がユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教、ヒンドゥー教、儒教、道教、神道 の八つです。 また、宗教は地域的な文化であることも知っておかねばなりません。世界に分布する宗教文化圏を知ることで、見えてくるものがあります。 

第2章 薄い宗教② 神の物語と悟りの物語

 まずは、一神教と多神教の違いについて。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は一神教であり、この三者は親戚と言えます。ユダヤ教が起こり、イエスによりキリスト教が起こり、ムハンマドによりイスラム教が起こります。三つの宗教の比較として、

  • ユダヤ教は神の正義を実現するために、民族が伝えてきた約束事を守ることが重要です。伝統的に613項目があります。
  • キリスト教は、規則を守ることを諦めイエスを信仰する。
  • イスラム教は、ユダヤ教とキリスト教を両方を含んでいる。

 他方、ヒンドゥー教、道教、神道は多神教です。各宗教には、非常に多くの神がいます。多神教世界の神々は多様です。一神教の単純さに比べると複雑です。 

 仏教は多神教なのでしょうか。仏教は神を拝むのでなく、自ら悟りを開くことを目的にしています。仏教の始まりは宗教的ではないとも言えます。しかし、後年、釈迦が神格化され一神教と等しい存在となります。大乗仏教が発展すると、釈迦以外の神も多く登場し多神教的になってきます。仏教の信仰には、幅広いところがあります。 

第3章 濃い宗教③ 信仰

 濃い宗教とは、信仰として深い思い入れを持つ状態のことです。濃い宗教を持っている人は、どの世界でも少数派です。薄い宗教から濃い宗教へと転換することを「回心」と言います。何かを境に信仰が深くなるのです。 

 濃い宗教へと回心するには救いが必要となります。救いを求めるには、まずは困ってる状況が必要となります。厳しい状況になればなるほど、神に対する信仰心が深くなってきます。必ずしも全てがそうではありませんが、簡単に言えばそういうことなのでしょう。  

第4章 濃い宗教② 奇跡と呪術

 呪術信仰は、濃い宗教の一種と考えられます。超自然的な力に対し、科学的根拠を示すことは難しい。かつては、心霊科学として解明しようという時代もありました。ただ、現在においては、科学的観点からの正当性を証明する期待は薄い。しかし、科学的根拠がないからと言って排除すべきものでもありません。呪術の効果は、集団の団結や気休めなどの効果を与えることも事実です。 

第5章 宗教の仕掛け① 戒律

 宗教は、戒律と儀礼によって成り立っているところがあります。仏教においては、出家者が守るべき規則と在家者が守るべき規則があります。仏教は、悟りを開くための方策として戒律が定められています。しかし、大乗仏教においては戒律主義から信仰主義へと変わっています。日本には大乗仏教が伝わっているので、あまり戒律に厳しくないところが多い。 

 仏教では出家と在家で区別されています。キリスト教も同様です。ただ、イスラム教では信者は全て在家です。一般信者は、出家者や修道士のような戒律を守っている訳ではありません。また、信者の全てが在家のイスラム教では、守ることが出来る比較的緩い戒律となっています。 

第6章 宗教の仕掛け② 儀礼

 宗教において、儀礼は重要な要素です。神社で行う所作。寺院で行う所作。教会で行う所作。イスラム教徒が行う所作。儀礼は決まった形の動作であり、形が決まっているからこそ儀礼としての意味があります。

 何故、儀礼をおこなうのか。その問いに対する答えは非常に難しい。様々な意味合いが絡まり合っているはずだからです。それに加え、儀礼を儀礼として行うこと自体に意味があることも挙げられます。儀礼を行うことで、地域の社会的営みを円滑にする効果もあります。 

第7章 宗教の多様性と現代社会

 宗教を構成する要素は、

  • 神仏と救い
  • 戒律と儀礼
  • 組織
  • 経典

 に整理できます。宗教によってかなりの様相があるので、簡単には要約できません。しかし、歴史的宗教においては類似点も多く見受けられます。 現在、宗教が後退していく理由は必ずしも科学の発展が理由ではありません。まず第一に、情報が世界を巡り各宗教の比較が容易くなったためです。また、個人主義が強まってきていること。自由思想・人権思想が、戒律や慣習の共有を強制することに厳しくなってきていることも理由です。  

最後に

 個別の宗教の教義を詳しく解説するというよりは、八つの宗教を俯瞰し、概略図を示すことに主眼が置かれています。各宗教の深層を知りたい人には物足りないかもしれません。ただ、宗教全体を眺めることにより見えてくるものがあるのも事実です。現在、宗教が置かれている状況。様々な視点から書かれた宗教入門書といったところです。

教養としての宗教入門 - 基礎から学べる信仰と文化 (中公新書)

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