以前、キリスト教の書籍の感想を書きました。そこで日本人に一番馴染みのある仏教についても知ろうと思い、この書籍を手に取りました。
日本では、仏教と一口に言っても多くの宗派があります。しかし、その教えを切り開いたのは仏陀です。仏陀と書きましたが、お釈迦さまや釈尊など呼び方はいろいろあります。仏教の開祖とも言うべき仏陀について知ろうと思い選んだのがこの本です。本書は仏教の教えを説明するものではなく、実在した仏陀の足跡を辿る本です。
「仏陀を歩く」の内容
仏陀はどこに生まれ、どんな世界で活動したのか―。出生地ルンビニー、正覚を得たブッダ・ガヤー、法を説いたサールナート、入滅地クシナーラー。さらに王舎城、舎衛城など、仏陀の八大聖地を踏破し、広大なインド世界と仏陀の深い思想に迫る。 【引用:「BOOK」データベース】
「仏陀を歩く」を読んだ感想
仏陀の足跡
著者は、次のように述べています。
できるだけ事実であろうと思われる事柄に即して作業したつもりである。そのための原則らしきものを挙げるとするなら、歴史的に実在した釈尊について知りたいという意図から、まず文献学的にみて最古層に属するとされる記述を頼りとした。場合によってはそれに加えて、私なりに「それは、こうでなければならないであろう」と思われる判断がなされている。
仏陀の存在を教典や史跡・遺跡などより信頼性の高いものを選び出し、それを歴史学的・考古学的・文献学的に検証し仏陀の足跡を辿っていきます。手塚治虫氏の「ブッダ」を読んだことがある人はいるでしょう。読んだことがあれば、あの内容から宗教的奇跡や脚色を抜き、純粋に仏陀の足跡を辿った内容と理解していいでしょう。なので、仏教を宗教的教義から理解したいと思う人には、内容が合わないかもしれません。歴史上の人物としての仏陀を知りたい人にとっては、非常に有意義な書籍です。
仏陀の生涯
仏陀が釈迦族の王子「ゴータマ・シッダルタ」として誕生した時から「仏陀」として入滅するまでの一生が、この1冊に凝縮されています。だからと言って、仏陀の教えを全く書いていない訳ではありません。悟りの意味についても、当時の世相などを振り返りつつ説明を加えています。基本的に、時系列に沿って書かれています。解明されていることは解明されていることとして、解明されていないことは解明されていないこととして詳しく説明されています。
まさしく「仏陀の一生」が書かれています
足跡を辿るので、当時の地名とそれに対応する現在の地名や位置関係が記されています。位置関係をよく分からずに読んでいて、混乱するところもあります。また、著者は現地を何度も訪れている研究者なので、遺跡や仏教的美術品の記述が多々見られます。ただ、残念なことに写真はあまり掲載されていません。
この本を読む時にはインドの地図、それも仏陀が生きていた当時の地名が表示された地図があれば理解しやすい。加えて仏教美術の写真集が手元にあれば、もっと当時の状況が思い起こされたかもしれません。
仏教の起源を知る
仏陀の説いた仏教は、現在の仏教とは大きく違います。仏陀は自らの行いにより悟りを開くことと、そのために実践するべきことを説きました。お経を唱えれば、救われるという今の日本の仏教とは大きく異なるのです。何故、今の仏教が仏陀の教えから乖離していったのかは、別の書籍で調べようと考えています。しかし、仏陀の足跡を知り、どういう一生を送ったのかを知れば仏教を知るひとつの手助けになるでしょう。
仏教書というよりは、仏陀の一生という歴史書としての側面が強いです。仏教を知るひとつの方法だと思います。
本書の構成
- 第一章 ルンビニーの標石
- 第二章 ゴータマの居城カピラ城
- 第三章 道を求めて王舎城へ
- 第四章 成道の地ブッダ・ガヤー
- 第五章 初転法輪の地サールナート
- 第六章 雨安居の地シュラーヴァスティー
- 第七章 ヴァイシャーリーで涅槃を告げる
- 第八章 コーサンビーに寄進された精舎
- 第九章 忉利天での説法とサンカーシャ
- 第十章 最後の地ニルヴァーナ・ロード
終わりに
日本人の大半は、自覚があるかどうか別にして仏教徒でしょう。お盆やお彼岸になれば墓参りをしたり、仏壇に参ったり。亡くなれば、お坊さんに葬式をあげてもらうでしょう。宗派が違えば、多少の作法は違うかもしれません。しかし、少なくとも仏教に関わって生きていることに間違いはありません。「仏陀」を知る機会になる本です。
重ねて言いますが仏教美術の写真集と地図があれば、もっと引き込まれて読めたと思います。
- 作者: 白石凌海
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/08/10
- メディア: 単行本
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