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『ホモ・デウス 下:テクノロジーとサピエンスの未来』:ユヴァル・ノア・ハラリ【感想】

 

 人間至上主義の次は、何の時代が来るのでしょうか。人工知能や遺伝子工学など人間を分析できるテクノロジーが人間の優位性を根拠のないものとして覆していきます。人間をただのアルゴリズムだとすれば、テクノロジーの進歩は人間至上主義をどのように変えていくか。

 資本主義、民主主義、自由主義は人間至上主義に依っています。新たな時代について、著者の予測を大胆に感じるか。現実的に感じるか。受け取り方次第で世界は全く違って見えます。   

「ホモ・デウス 下」の内容

生物はただのアルゴリズムであり、コンピュータがあなたのすべてを把握する。生体工学と情報工学の発達によって、資本主義や民主主義、自由主義は崩壊していく。人類はどこへ向かうのか?【引用:「BOOK」データベース】   

 

「ホモ・デウス 下」の感想 

間至上主義の台頭

 狩猟採集民時代、人間は他の動物たちと並列の存在でした。あらゆる動物たちと共存の中で生きています。優位も何もなく対等で平等です。人間と動物との間に本質的な違いはありません。 

 第一の変化は、狩猟採集民から農業革命による農耕定住化により起こります。農業と家畜の存在は食料と家畜をコントロールできることの証明です。人間は自然界の中でも特別な存在へと変わっていきます。何故ならコントロールしているからです。

 人類は権利の源泉を神に求めます。神が人間に特別な地位を許し与えたと考えます。神が人間に与えたものは、不滅の魂と自然と動物の支配です。有神論宗教主義に科学的根拠はありません。集団の人間社会を円滑に維持する共同主観的事実です。

 第二の変化は、産業革命をきっかけとした科学革命です。人間こそが最も優位な存在であり神にも縛られません。そもそも神の存在を否定します。神の権威で人間社会の形成と維持を行っていましたが、人間の欲望こそが最も大事だとする考え方になります。人間自体が至上の存在になります。しかし、神の存在を否定しつつも考え方自体は否定しません。自身の考えが最も大事ですが、ある時には有神論的に考えることもあります。

 人間至上主義の実現の三形態として、ナチズム(進化論的スタンス)・共産主義・自由主義を示します。ナチズムは自然選択された人間が生き残ると考え、そのためには争いが必要になります。ナチズムは行き過ぎた民族主義へと繋がり、ヨーロッパに大規模な版図を拡げます。その脅威が共産主義によるナチズム打倒を引き起こしたのでしょう。

 ナチズム後の共産主義は、ソ連を中心に東ヨーロッパに拡がります。中国や北朝鮮も同様です。多くの国々が自由主義より共産主義を採用します。当時は、自由主義よりも優れていると考えられました。個人の欲求よりも全体の社会を重視した結果です。世界全体を社会主義にしてしまう勢いがありました。

 自由主義が対抗できたのは核の存在があったからであり、ソ連の崩壊が自由主義をさらに世界に拡めます。自由主義が最も人間至上主義に合っていたこともあるでしょう。両者が共に存在することで現在があります。

 

間至上主義の限界

 人間が最も優位であり、魂の存在が他の自然や動物との違いと考えます。唯一絶対の存在として自由な意思を持つことが人間を至上たらしめます。心の思うとおりに行動し、心がひとつしかないから欲求が満たされます。欲望と享受する主体が同じという前提です。

 テクノロジーが進歩し生物学とコンピューターの発達により、人間は単なるアルゴリズムに過ぎないと考えられてきます。他の動物もアルゴリズムに過ぎません。そうなると人間と動物の違いは何でしょうか。根本的には何も変わりません。自由意思の存在は科学的に否定されます。欲望は自由意志から生まれるのではなく、脳内のアルゴリズムの結果として表れます。アルゴリズムに従っている以上、自由意思は存在しません。

 自由意思は操作が可能なことからも存在を否定されます。ラットでの実験や鬱病の治療など脳に刺激を与えることで意思を操作できます。それでも自由意思だと考え続けることが可能でしょうか。実験の結果が示すものは完全な自由意思の不存在です。人間至上主義に必要な自由意思はもはや存在しません。

 また、自由意思はひとつしか存在しないことが前提であり、そのためには分割不可能な自己が必要です。何故なら自分自身がひとつでないと自由意思がひとつでなくなります。人間は自身の中に複数の自己が存在するなど考えていませんでした。異なる自己の存在も科学で実験・証明されています。経験する自分と物語る自分の存在です。自由主義の前提が損なわれてきます。 

 

学が人間にもたらすもの

 科学の発展は人間に資するでしょうか、人間を損なうでしょうか。自由主義では人間の価値は高い。経済・戦争・政治は人間の価値を前提に動いていました。人間がアルゴリズムに過ぎないとしたら知能と意識を分離して考えることができます。人間は知能と意識のアルゴリズムであり、AIは意識のないアルゴリズムになります。AIは圧倒的な情報量と知能を有します。

 軍事において個々の人間の価値は一層下がるでしょう。戦争はテクノロジーによって行うことになり、大規模な人間同士の戦闘は起こり得なくなります。一部の高度な技術者と機械によって行われます。

 AIは人間をより理解していきます。意思決定を行う場合、人間が行うよりもAIの方が効率的で正しい。人間が管理されることになり、そのことに馴染んでいくでしょう。

 アルゴリズムが得意なのは専門的で特化した分野です。知識があれば仕事を行うことができ、意識は必要ありません。専門化・分業化が現在の産業と経済の成長をもたらしました。専門化し過ぎると、そのためだけの知識さえあればいいことになります。アルゴリズムが最も得意とするところです。AI に職業が奪われることには根拠があります。無くならない職業はないのではないか。技術を進歩させるべく行った専門化と分業化が一部の人間の価値を奪います。

 人間の価値と自由主義・人間至上主義の崩壊により、人間が目指す不死と至福を誰が享受できるのでしょうか。人間全体の価値が無くなる訳ではないでしょう。一部のアップデートされた人類がアルゴリズムに管理されないで生きていきます。しかし、多くの人間はアルゴリズムに支配されます。人間は二極化され、逆転する機会のない身分制度が登場します。

 

ータ至上主義の行き先

 人間の欲求の根源は感情や意思ですが、果たしてコントロールできるものに頼ることができるでしょうか。感情や意思でなくデータこそが相応しいと考えるでしょう。データは人間よりも優れているからであり、アルゴリズムの複雑さを考えると人間はコンピューターには敵いません。従う方が効率的です。人間の知識はコンピューターのアルゴリズムとビッグデータに太刀打ちできません。データが人間の上を行き、データ至上主義へと移行します。

 データ至上主義が求めるものは、全てをインターネットに接続し情報の共有化をすることです。自由な情報の伝達と取得が最も重要になります。情報はあればあるほどいいですが、あるだけでは駄目です。重要なのは自由にやり取りできることであり、制限することよりも自由を求められます。

 情報が自由になるとプライバシーが放棄されますが、その方が良い。人間が情報の一部になれば、全てがアルゴリズムの管理下に置かれます。グローバルなシステムが全てを動かし人間はシステムに組み込まれます。そのことが人間の存在する意味になります。人間=アルゴリズムと捉えると動物と変わりませんが。

 

終わりに

 著者は歴史学者です。過去の歴史を紐解き、現在の情報を見極め、未来を予測します。様々な情報や事実を用いて多面的・多角的に考察しています。

 サピエンス全史よりは読みやすく面白い。科学的な側面と精神的・哲学的な側面があり組み合わさっています。著者の予測した未来が望ましいものかそうでないのかは、自身が置かれる立場次第でしょう。