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『Self-Reference ENGINE』:円城 塔【感想】|反乱を起こした時間のなか、あてのない冒険へと歩みを進める

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 こんにちは。本日は、円城 塔氏の「Self-Reference ENGINE」の感想です。

 

 円城 塔氏の作品は三作目です。既読は、芥川賞受賞作の「道化師の蝶」と伊藤計劃氏との共著「屍者の帝国」です。「屍者の帝国」は共著というより、ほぼ円城 塔氏の作品だと認識しています。

 「道化師の蝶」の感想はアップしていますが、私の解釈が正しいかどうかは自信がありません。「屍者の帝国」はニ度読みましたが、未だに感想や解釈は書けていない。ストーリーを追うことはできたが、文章と表現が難解であり、言葉が複雑に絡み合っていた。

 「Self-Reference ENGINE」は、さらに難しい。世界の成り立ち、ストーリー構成、文章が表現する意味が複雑に絡み合い、読むのに時間がかかる。時間をかけても、理解できたかどうかは自信がありません。

 設定は面白いが、絡まるストーリーに納得できるかどうか。全てを読解しても、全てが繋がると思えません。円城塔氏の作品は三作品しか読んでいないので断言できませんが、複雑な文体や言い回し、表現は彼の持ち味なのかもしれない。

 感想を書こうにも、理解できていないのだから的確な文章を書けるとは思っていません。分からなければ分からないなりの感想を書こうと思います。  

「Self-Reference ENGINE」の内容 

彼女のこめかみには弾丸が埋まっていて、我が家に伝わる箱は、どこかの方向に毎年一度だけ倒される。老教授の最終講義は鯰文書の謎を解き明かし、床下からは大量のフロイトが出現する。そして小さく白い可憐な靴下は異形の巨大石像へと挑みかかり、僕らは反乱を起こした時間のなか、あてのない冒険へと歩みを進める【引用:「BOOK」データベース】 

 

「Self-Reference ENGINE」の感想

ベント

 「イベント」は、作中の世界が生まれたきっかけです。一方向に束になって進んでいた時間が、てんでばらばらに進み出します。時間は世界を含み進んでいくのだから、世界も時間の混乱に巻き込まれます。

 時間が束になって進んでいたとはどういうことだろうか。設定自体は面白く興味深い。時間が一方向に進むのは当然のことです。だから時間を飛び越えるタイムトラベルが存在してきました。時間の進む方向がバラバラだとタイムトラベルは意味を成しません。

 時間がバラバラに進んでとしても、自分のいる世界の時間を未来へ行ったり過去へ行ったりすることはタイムトラベルと言えます。しかし、違う向きの時間が存在する中で、一方向に進む時間にどれほど意味があるのだろうか。時間の流れを一方向に戻すことが物語の目的ですが、それほど一貫したストーリー構成には感じなかった。

 この状態はイベントによって生み出されました。イベントの内容は「05 Event」で語られます。小説が始まって、1/4ほどが経過しています。その頃には、既に物語は混乱している。混乱の大きな要素は文章自体にあるのですが。

 「05 Event」もよく分かりません。文章が難解で理解し難いだけでなく、登場人物たちがイベントの本質をよく理解していないのかもしれない。登場人物が理解していないことを理解できるだろうか。

 著者は、小説の骨格と言えるイベントを適切に表現しているのかもしれません。しかし、感覚的に理解することと、論理的に理解することは別物です。再読して理解できるだろうか。そもそも理解する必要があるのか。現状の世界の成り立ちを理解できればいいような気もします。 

 

間の概念

 時間は一方向に向かって進みます。時間と空間の概念で、パラレルワールドの存在が語られることは多い。パラレルワールドが存在したとしても、それは並行世界です。同じ方向に進んでいるのは間違いありません。決して交わらないですが。

  • 違う方向に進む時間が交わる。
  • あらゆる方向から時間が向かってきて、去っていく。

 どのように理解すればいいのだろうか。しかも、それぞれの時間で対立しています。巨大知性体同士の戦いもイメージしがたい。演算戦とは具体的にどのような戦いなのだろうか。それに勝利することで、どのようにして時間がひとつに収束していくのだろうか。他の時間の流れを全て消滅させることが目的だろうか。

 SF的要素としては面白い設定ですが、時間の概念を根本的に覆しているから理解することは難しい。しかも、ややこしい設定で、著者の文章もややこしい。登場する単語も具体的にイメージできないものが多い。やはり、付いていけなさを感じます。

 

間と巨大知性体

 巨大知性体抜きでは語れません。彼らは「AI」のようなものだろうか。演算機器のようでもあり、人間のようでもあります。敵対することもあれば、組織として行動することもあります。どういう存在なのか明確ではない。しかし、巨大知性体が世界の行く末を決めていくのだろう。

 巨大知性体という言葉が曖昧模糊とした印象を与えます。どこに存在し、誰が管理しているのか。各話ごとで大きく形を変えることも掴みどころの無さを助長します。「八丁堀」なんてのは、巨大知性体の形としてありなのだろうか。何でもありだが、そこまで万能でもありません。時に、人間的弱さを感じることもあります。

 巨大知性体の形が変わるごとに物語の形も変わります。ただ、ベースにあるのは、好き勝手な方向に進む時間をひとつに束ね直すことです。巨大知性体の役割は、そこに行き着きます。方法次第で、あまりに突拍子もないことを引き起こす。最後まで、巨大知性体の統一的な姿を掴みきれなかった。

 

章の複雑さ

 円城塔氏の書く文章は分かりにくい。私の読解力の問題だけではないと思いたい。一文が長い上に、否定の否定の否定だったり、肯定と否定が入り混じったり。文章が言おうとしていることが読み取れない。だからと言って、全体的な流れが全く分からないことはありません。ぼんやりとしか見えませんが。

 何度読み返しても、結局理解できなかった文章も多々ありました。そんな状態で、文章の繋がり、ストーリーの繋がりを明確に読み取ることは不可能です。世界の仕組みを理解できるはずもない。理解できない文章で論理を理解できるはずもありません。

 内容を正確に伝えることよりも、文章を編み、組み合わせることを第一義に考えているのだろうか。各話の関連性の複雑さ、分かりにくさも加わります。正確に読み取る読者もいるのだろう。そもそも何をもって性格かどうかも分かりません。

 著者は書いていて混乱しないのだろうか。全て計算された文章ならば、著者の思考と論理はどこにあるのだろうか。 

 

終わりに

 円城塔氏の小説は手ごわい。読み終わるのに相当時間を要しました。その割に理解できていません。起承転結のある分かりやすい文章でないのも理由です。全ての読者が納得できるとは思えない。

 本作を面白かったという人はすごいと思います。何度も読んでいけば、著者の思惑も見えてきて、物語にも納得するのだろうか。